105 誰の記憶
はっきり言うと長いです、4000文字以上です。とめどなく書いていった結果こうなってしまいました。あと、不思議いっぱいのお話となります。思考が迷子にならぬようお気を付けて。
この視界に留まる異様な光景。
目の前には不規則に並ぶ痛々しいほど鋭い牙。それをこさえる大きな口。ドラゴンという規格外なその生物は、まるで生命力を感じさせない。
背後には青ざめた表情で滞るグリコの姿が。今にも逃げ出したそうな感情とは裏腹に、トレントに巻かれた体では身動きができるはずもなく、ただただ魂が伸び出るばかりであった。
遠くの方に、青空騎士団と狛狐の皆がこちらに声を上げる。いつも笑うジェフリーもその面を外して叫び、あの双子だって届くはずもない手を差し伸べた。
かくいう騎士団だって同様。代わりにグリコへ向けられた感情が痛々しく感じるのは気のせいだろうか。
ここはゲーム。ここはグランドエデン。なのに何がそこまで本気にさせるのか。
狐影は目を瞬かせた。
目の前に広がるは小さな池を囲む木々。見慣れた光景と思いきや何かが違う。
「ん……え、なんだちょっと待て、どういうことだ」
今まで夢を見ていた気分だ。先程までの光景が嘘のように消え去り、広がるは正真正銘リアルの世界。
「システム画面は……やっぱり開けない。足元の、この土の感触は本物だ」
試しに近くの池に手を入れてみれば冷たく湿ったい。当然その手は濡れていた。しかし、ゲームではそんなことはない。
嫌な予感がする。
さらに、ふと池に映る自身の姿は可愛らしい少女の顔。
白くもどこか水色がかった色の髪と、それでもって透き通る瞳。背後から見え隠れするは九尾の尻尾。そして頭で微かにうずく尖った耳。
我ながら久しぶりに目にする白霊狐の姿だ。
「なんで、この姿に……もしかして死んでしまったのだろうか。だとしたら早く戻らなければ。今すぐに転移して行かなきゃ」
転移の石。狐の掘られた医師の像である。それは池の周りにきれいに並べられ、小さな遺跡であるとわかる。
「新しくなったのか?前見たときより綺麗になって……え」
嫌な予想が加速する。
その土を蹴り上げ、森の外へと町の方へと進む。
森を抜ければ何かが分かるはずと意気込み進むが、その予想よりも早く現実を突きつけられた。
遠くに見えるは和に満ちた城の天守が見え隠れし、道中でさえところどころ天然の桜が咲き乱れては散り吹かれた。
「嘘だよ嘘だよそうでなきゃ説明がつかない。ここはゲームで……ここは始まりのの島イスティアで。でもこんな場所知らない」
ついに森を抜けた。そんな光景が広がってほしかったとつくづく思う。
広がる草原よりも前に道と家々が森と共生するように存在していた。そこで暮らしているであろう住人も。
「おーい、採ってきたよ」
「えっ……!」
背後から声を上げるは、尖った耳と毛深い尾を持つ狐人呼ばれる獣人の少女だった。
「ほらほら見て、大きめのミーラットが罠にかかってたの」
少女はそばに駆け寄ってきた。そして、通り過ぎて行った。
「ほら、多分油も乗ってて美味しいよ。早く焼こうよお母さん」
「はいはい。じゃあ家へ戻りましょうか」
溢れ出る虚無感。これをここ最近に幾度も抱いたが今でも尚、心が砕ける思いだ。
ただ呆然と帰り行く狐人の親子を見た。
「さっきから予想がある程度的中していたけど、こればっかりは想定外だったな」
そうあろうはずもなくあの少女は白霊狐を……すり抜けて行ったのだ。
「ここは…現実ではない…のか?」
白夜は目を瞬かせた。
その視界に映る先に尖った耳と、九尾の尻尾を持つ金色の女性がいた。その姿を見るや既視感と不思議な安心感を抱いた。
だがふと我に返り周りを見渡す。背後にはひれ伏す者の姿があり目の前の女性を敬い称えていた。その先から垣間見える景色は高く、先ほどまで見えていた天守であることが分かった。
そしてやはり目の前にいる女性は、どっからどう見てもあのホムラ本人にしか見えなかった。
「ホムラ…だよねこんなところで何をしているの」
声は届かなかった。代わりにひれ伏す者らが声を上げ祀り上げる。
「***様…***様」
ホムラと思わしき女性の名は聞こえない。その音だけ歪んで聞こえるものだから不快感さえ覚えた。それは奉られる本人も同じなようだ。この怪しげな儀式とも呼べる光景を見ていられなかった。
また目を瞬いた。やはり広がる光景が変わる。
そこは天守閣の屋根上で、真上に見える大きな月が城下をしんと照らしていた。
それを、名も知らぬあの女性とただただ傍観していた。
「……綺麗」
先ほどまでの不快感を忘れその光景に目を輝かせた。
「綺麗、あなたも…白夜もそう思うかしら?」
「え…?」
「きっと、驚いたでしょうね。見えない客人さん」
名の知れぬ少女はこちらに寄り添うようにして屋根に腰を下ろす。明らかにこちらの存在を察知したうえで、警戒する間もなくただ優しく温かいと思えるそんな感情を向けてきた。
「あなたは白夜。私と同じ九尾の尻尾を持つ狐人。君は私を誰かの名で呼ぶようだが、その者とは別人だ。どうやら私と瓜二つの存在が、君の記憶の中にあるらしい」
「初対面にしては、物知りですね。ちょっと鳥肌ものです」
「ちなみに君の声は私に聞こえないらしい。意思疎通はできないが、ある程度聞きたいことは知っているから問題はないだろう」
「なんだか、つかみどころの無い人ですね」
「不思議に思うだろう。私の目は特別でおかしなものを見てしまう。それは本来なら視界でとらえられるはずまなく、ましてや形も存在も知りえない現実を見るのさ。その亜種として、君の目も似たような性質を持つようだ。本来その目は今もこれからも私一人にしか持ちえない目なのだがな」
「ほんとに物知りですね。自分より自分のことを知ってるみたいだし」
「意外とおしゃべりが好きなようだな、この場ではお互い独り言でしかないのに」
「不思議と会話がかみ合うので」
目を閉じ開けば広がる風景は森の中へと変えたが、それでも変わらず彼女は隣にいた。
「私が治めるあの町はアート・ラルという場所でいわゆる隠れ里だ。その場に行くには、私の張った結界を抜ける必要があるが、君は結界の内と外とは別の場所から…まるで未来かはたまた過去からこの場にやって来たかのようだ」
「自分は、空に浮かぶ空島にいました。けど、ここははるか上の空に雲があります。つまりここは…」
「君の考えてるであろう考察は面白い。そして、おそらくそれは正解だろう。過去にこの土地が空を飛んだ記録はない。故にこの土地がいずれ空を舞うことになるのだろう」
「その空を飛ぶ理由…島が持ち上げられた原因は」
「狂乱の大合戦…しかも全世界を滅亡までに落とし込むほどの戦か。考えたくもないな」
「何なら、その光景を見たことがありました。ハッキング行為によるりこの身もゲームも共に落ちた落下事件で」
「君が言うゲームというのは、この世界を模倣したそんな世界を旅し過ごすことができるものなのだな。少々単語の解読ができんが、そちらの世界特有の言葉なのかな」
また瞬く。次は滝が横で流れ落ちる洞窟で、奥から夕焼けが線を引く。
「君がどうしてここへ来たのか、もしくは来れたのか私にはわかりかねる問題だ。それ故、こればかりは回答ができない」
「むしろ元の場所へ帰る方法が知りたいです」
「まあ時間が経てばいずれ戻れるだろう。しかし、そう急いでは私と話せないじゃないか」
「会話なんですかね、結構なじんできてますが」
「君は何気に適応力が高いようだな」
「あっちこっち興味を向けないからですかね」
「私としてはありがたい限りだ」
瞬くと山の頂点に立っていた。もうこの感覚も慣れてきた。
「君は自分探しを頑張っているようだ。だから少しばかりの助言を、話にあったゲームとやらで過ごす日々は少なからず自信を見つけるのに繋がるだろう、と」
「すでに答えのようなお人が目の前にいる気がしますが」
「確かに私と君は似ているが非なる存在。だけど共通して身元を知らないようだ」
「つまりお互いがですか?」
「お互いがだな」
「でも、自分にはお父さんが…」
「君が父と呼ぶ者の名はなんだ?」
「えっと、白崎優原です」
「ふむ、やはり知らぬ。君が嘘を言っているわけではなさそうだが何かが引っかかる」
「実は血が繋がっていないなんてオチは嫌ですよ」
「いや、その言葉に嘘はない。それでもって真実だ」
「そう…ですか」
「ただし、血縁すらも断ち切るような力が君に振りかかっているようだ。これは、フフ興味深い」
「なんかじれったい」
「ちょっと、その力の持ち主に心当たりがある。良ければ会って何か聞くとしよう」
「聞かないと分からないことですか。その、目にも映らないような?」
「ああ映らない、それほどまでに強い力。それこそ………」
「どうしました、黙り込んで」
まだ聞きたいことが沢山ある。彼女に急ぐなと言われたが、やはり気になるものは気になる。答えが目の前にあるというのに。ただそんな感情を押さえつけられるほどには、この場所が…彼女の隣が心地よかった。
「落ち着いているとこ悪いが、そろそろ君の時間が迫ってきているようだ」
「…え、マジですか」
「恐らく面白い声を上げてたぞ君」
「まだ聞きたいことが、話したいことも沢山あって」
「それは私もだ。だがまた会えるかは未知であり、君次第だ」
「はあ…」
「だが、戻られる前にいくつかアドバイスを土産に持て行け」
「……ありがとうございます」
「もし戻った時、君はいろいろ変わっているであろう。これは私と会ったことが原因かもしれんが、単純に元の力が覚醒したとでも思えばよい。だがこれ以上自身の秘密を隠すのはお勧めしないし、そもそも隠しきれぬであろう。その時は信頼できる者にいくつかの秘密を共有したまえ。その信頼できる者は己の直感のままに考えばよい。そして、秘密を探るなら現実も探れ。まずは親、次に親戚などに合えばよい。その際にゲームとやらを忘れるな」
「結構多い、そして細かい」
「あと日常の違和感を逃すな。君が現実離れした目を持つように、現実離れした何かがあるはずだ」
「マジですか」
「そうだな。最後にくれぐれも、現実と仮想をはき違えるな。似てるなんて生半可なものではない。それそれ以上にその二つの境界が危ういからな」
「……こういうのって、ある程度伏線を残すものでは?」
「伏線とやらは分からんが。自分のことが知りたいのだろ、なら持ってけこれぐらい」
「はい」
「互いに分からぬことも多いが、頑張れ」
「…はい」
目を瞬かせた。
昇る太陽が光をのばし、駆逐されたアンデット群を照らし燃やす。
その上にたたずむは尖った耳に九尾の尻尾をたなびかし、黒いオーラと白いオーラが立ち上る中で、新たな姿を披露する。
その者の名は狐白。狐影と白夜が折り重なる新たな生命。
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