98 逃げの手
ホーの容赦ない攻撃と、騎士団の逃げ惑う姿。ここにどっちが悪者なのかっていう考えは捨てた方がいいですよ。
このゲームで転移スキルが発見されて以来、私はこの能力を手にすることに力を注いだ。
そうした理由は単純、ロマンにあふれてるからだ。普通に魔法が使えるだけでも素晴らしい限りだが、その中で限られたプレーヤーが得られるその能力は特別だ。
実際は移動や運搬という些細なことでしか役に立てず、戦闘はからっきしだ。だからいつも誰かに頼り、代わりサイコーのフォローを心掛けていた。
にもかかわらず、攻撃の要あり盾であるあのマイクが戦闘を離脱した。残された二人ができることは逃げの一手のみ。
「とりあえず千里眼でルートは確定した。まずはメービィー達と合流した後グリコ達がいるところまで戻る」
「キヒッ!了解」
「それじゃあ行くよ。初手煙幕の用意」
彼らの足元に転移の魔方陣が展開される。それは天高く光が立ち上り、それは遠くの高台から睨むスナイパー達の目にも入っていた。
「あれは、長距離転移の光だね。でも逃がさないよ」
「青の姉御、もう一か所から光の塔が!?」
「よく狙いな。外すんじゃないよ」
彼らを覆う光消え去るその瞬間。白い煙が一瞬でその開けた空間を覆い、スナイパーの視線を通すことは無かった。
放たれた弾丸は案の定ただ空を貫くだけで、当たることは無かった。
「次、路地を抜けていくよ。離れないでね」
そのまま、射線を切りつつ距離をとる。幸い早い段階で相手の位置が分かっていたため、開けた場所を除き、姿をさらすことは無かった。そうでなくとも煙幕で身を隠せる。
「もうすぐスラム西部に着く。そこで、合流を…!?」
「どうしたのかね、黙り込んで?」
「建物が、身を隠す壁がない…」
「なんですと!」
そう、見渡す限りの焼け野原。建物の残骸も残らぬほど無残になくなっていた。
「多分、アーラの仕業ね。予想では目的地に近いはずだけど、射線を切るためにはこの開けたところを横断するしかない」
「転移では横断できないのかね?」
「一回の長距離転移だけじゃ横断できそうにない。かといって短距離転移を連発しても逃げ切れるかどうか…」
「流石に、ここを横断するだけの煙幕は残ってないよ」
「分かってるさ。でもこんなところで時間を食ってる暇なんてないのに」
ここで、自身の弱さが悔やまれる。たとえ人に向き不向きがあろうとも、いざという時に何もできないようであれば意味がない。そんな自分をただただ攻めてしまった。
「…あまり自分を責めるのはらしくないですね。ここはひとつ私から提案がある」
「なに?」
「この状況を打破する作戦です。少々危ない橋ですが、ここは私にゆだねてくれませんか」
作戦を聞いたフォーミラは呆れていた。だが、冷静さを欠いていた己にそれ以上の案を考えることはできなかった。
さあ己の実力と運を試すときだ。
「長距離転移術式、展開」
再び光の柱が立ち上り、焼け野原の中心に移動した。つかさず煙幕が展開され、スナイパーの攻撃を警戒した。
「来た!やつらが姿を現したところが勝負どころだよ。しっかり当てな、船長さんよ」
「分かって…いや、あいつら動く気配がないぞ!?」
「まさか…あそこからまた長距離転移をするつもりじゃないでしょうね」
「まじかよ、そんなことできんのかよ」
「ミラちゃんならありえないことでは無い。とにかく転移馬鹿なあの子ならそれぐらい容易いことさね。とはいえ、とんだばくちに出たねぇ」
案の定、転移の光が煙の中から垣間見えていた。それを隠すために煙幕を惜しみなく使用し、術式が完成するまでの長い間、耐え続けた。
「もうすぐいけそうかね?」
「もう少し。あと五秒」
「ではあともう一つ煙幕を……っ!?」
「あと二秒、早く寄って」
転移が行われる直前、煙が薄れその姿がさらされた。
「今だ、これで仕留めるよ!」
一瞬の隙を突き、フォーミラに向けられた弾丸が放たれた。術式が完成するのは間に合いそうにない。このまま貫かれ終わるのかと思ったその時。
弾丸はリードの頭部を撃ち抜いた。
「リー…!?」
「我ながら不甲斐ない。後は頼むぞミラ殿」
彼がガラスの様に砕け死んでゆく様を見送る間もなく、フォーミラは転移で物陰に転移しこの場を切り抜けた。ただ一人、孤独に。
「煙幕切らしたからって、身を挺して守るなんてらしくないじゃない。でも乗り切った。ここから必ず勝利をつかんで見せる」
そのまま彼女は、メービィー達がいるであろう中心部を目指していった。しかしそれを、ホー達が追うことは無かった。
「なあ、青の鍛冶師さんよ。逃げられちまったがどうすんだよ?」
「その言い方は長いからホーでいいよ。あと、ここからじゃもう弾は届かないからね。潔く諦めるとするよ」
「届かないのはそうだが、追わなくていいのか?」
「本当ならそうしたいとこだが、いいものが見れたしアタシは満足だよ。まさかあいつが、女の子を庇って死ぬなんてね。どんな心境の変化なんだか」
「どういうことだ?」
「ただ、思い出に浸ってるだけだよ。研究熱心な三人のね」
お互いの意地がぶつかり合うこの戦争で垣間見えた感動。何か守る者や願いを持つ者の戦いは、どんな時でも美しく映るものだ。
今はそんな思い出を、大事にしまっておきたい。
次回土曜日投稿予定!ダゾ




