93 Backward N
「戦争なんて嫌い。戦争をするための武器も、嫌いだ。パパとママだって、あんなもの作ってたから――。こんな国、大嫌いだ」
「よろしく、アラン。同じ部屋なんだし、仲良くしよう」
「うん……」
「俺はノーマン。……大丈夫。こんなところ、すぐ慣れる。ほら、おいで」
「ノーマン君は本当にアラン君が好きねえ。すっかり仲良しさん」
「べ、つに……そういうのじゃ」
「あら、仲良しじゃないの? まるで兄弟みたいって先生みんなで言ってるのよ。ノーマン君のおかげで、アラン君も明るくなって……まあ、ちょっと悪戯がすぎるけれど」
「……悪戯は俺が教えたんじゃないです」
「そうねえ。じゃあ悪戯を止めるお兄ちゃんになってもらわなくちゃ」
「あいつ、また彼女変わっただろ」
「……そうなのか?」
「そういう話しないの? まあ、ノーマンってそういうの興味なさそうだもんなあ」
「興味がないわけじゃ……――言えないだけで」
「え? 最後なんて言った?」
「なんでもない」
「だからお前は詰めが甘いんだ! どうしてもう少し先まで考えて行動出来ない!」
「君が途中で手を出してきたから崩れたんだ! 俺は悪くない!」
「痛っ! ――お前の、そのすぐ手が出る悪癖もどうにかしろ、アル!」
「ノーマンのその兄貴ぶる態度をやめたらそうするさ!」
「また南で小競り合いか……。将軍共は政治を銃と剣で操るものだと思い込んでいるからこうなるんだ。言葉も知らない馬鹿にどうして政治が出来るものか」
「ああまた始まった。すぐにそうやって小難しい話をする。だから、俺は眠くなるんだ……。ふわあ。ノーマン、そろそろ切り上げない? 門限も近いし」
「お前みたいに無気力なやつらが適当に今の将軍共を担ぎ上げるから、この国は野蛮なまま一歩も進まないんだ」
「……そりゃあ俺だってもっと平和的にやってくれれば嬉しいさ。この間も――隣だっけ? 一般人が政治に入り込むようになったって話題になったし。この国だって変わればいいとは思ってる。軍人だけでやったって考えるのは戦争のことばっかりだ」
「――なら、変えればいいんだ。そう思わないか」
「変えるって言ったって。君がどうにかするつもり?」
「ああ。俺は絶対にこの国を変えてみせる」
「ノーマン。これ。何か分かる? ほら、これ!」
「突然押しかけてきて……。なんだ、その古びた本は」
「そんな顔するのも今のうちだけさ。表紙も中身もちゃんと読んで!」
「まったく、また持ち込み厳禁の――」
「うん。そりゃあ厳禁さ。だけど――」
「――これ、は」
「そう。いつものセクシーな本じゃない」
「これは。こんなもの、どこで!」
「どこって、禁書室さ。この間、大きな図書館に皆と行っただろ? その時に見つけた」
「……地下は立ち入り禁止だって先生が言ってなかったか」
「さあ? そうだっけ? ――ま、こういうのは俺の役目。君に必要だと思って」
「まったく……すごいな。まさか、こんなことまでしでかすなんて」
「あはは。どうする? 先生に報告する?」
「俺、これに申し込むことにした」
「……傭兵の、訓練って。アル、お前!」
「短期訓練だし、合格しても一番簡単な資格しか貰えない。だけど、役に立つと思う」
「武器を手に取るってことだぞ!」
「うん。――扱いを知らないより、知っていた方がいいだろ?」
「俺だって怖くない。――こんなもの亡くなったって、お前がきっと与えてくれる」
「アル! 無事か! おい、アル! 返事をしろ!」
「――ん。……うん? ノーマン?」
「よし、意識は戻ったな。――何があったか覚えているか。気分は悪くないか」
「そんな矢継ぎ早に……。何があったって……ハートルーザーの儀式をして――あ! 他のみんなは」
「……残ったのは俺とお前だけだ。他は、――影に、飲まれた。……ゲートはどこにした。見せてみろ」
「ゲートは背中に……。待って、ノーマン? 俺と君だけ?」
「ああ、二人きりだ。……お前だけでも無事で良かった。――ゲートは……定着してる、か。精神的に何か問題は? 感情は安定してるか?」
「――問題は、ない。と、思う……。君は……?」
「問題はない、はずだ。……ただ、怖いくらいに、心が空っぽだ。お前が生き残って、嬉しいはずなのに、何も、何も感じない――」
「なア、これってアルに相談しないノ? アハハ、除け者なんて可哀想じゃなーい?」
「アルは……反発ばかりで、話が進まないだけだ。――四人が揃った今が一番戦力的に充実している。動き出すなら今のメンバーだ」
「アハハハ! 俺様は難しいこと分かんないヨ! ノーマンがいいならそれでいいんじゃなーい? アハハ! マーシーだってなんだっていいヨネ!」
「ええ……。構いませんわ……」
「異論がないならドール計画を進める。――国を収めるのは軍人じゃない。腐った軍人共を俺たちがねじ伏せてやる」
「ドール計画……?」
「ああ。中枢の軍人共がいなくならない限り、この国は淀んだままだ。武力でしか国を治められないような奴らは形だけで十分だ。落ち着くまでの暫くはマーシーの影で操られてもらう。だから、人形。ドール計画だ。――お前だってこの国が変わることに賛同していただろう」
「……俺は、政治が変わればと思って、ずっと君についてきた。だけど、最近の君はおかしい。君が描いていた理想はこんなものじゃなかった!」
「俺は国を変えるためにキスタドールを作ったんだ。卓上で語るためではなく、だ。分かるか。俺たちは武力で政治を支配しない。戦争しか頭にない今の奴らとは違う。――それなら、これは理想だろう?」
「違う、違う! その軍人たちを手に入れた力で無理矢理なんて、やってることは君が嫌う国軍とおんなじだ! 力で変えようとするなんて、君はこの国と同類に成り下がってる!」
「武力しか正当化出来ない奴らを納得させるには武力が一番効果的だ。この力で国を治めるわけじゃない。どうして分からないんだ!」
「分からない! 分かりたくもない! ――こんなこと……どうして。どうして、計画が動き出す前に話してくれなかったのさ! こんなことになる前に、止めたのに。どうして!」
「お前はそうやって感情的になる。計画を進める効率が落ちると判断した。――その怒りはなんだ? 見せかけで声を荒げて、俺の心が揺れるとでも思うか!」
「違う! そうじゃない! ――俺は、俺は悲しいんだ。怒りは分からない。だけど、悲しさは分かる!」
「アル。その悲しみは本物か?」
「国軍め、傭兵まで雇うか。プライドも何もないな……。――マーシー、無事か」
「ええ、問題ありませんわ」
「ならいい。ルースとははぐれたが……。アルめ。見事に裏切ってくれた。いつかは理解してくれると信じていたのに――」
「ちょっと! この影を解いて! この辺りだってすぐに包囲される! 諦めなさい! それに、私みたいな一傭兵、盾にすらならないんだから!」
「諦める必要もお前を盾にする必要もない。俺の影を舐めるな」
「それなら、どうして! 私を人質にしたって国軍はなんの条件も飲まないわ!」
「……随分お喋りな女だな。名前は?」
「モニカ! 私はキスタドールなんかに屈しないんだから!」
「――本当に、屈しないか? その強い心が仇となることを知るといい」
「何を言って……」
「マーシー、少し大人しくしてもらえ。――駒にするかどうかは儀式の結果次第だ。いい結果を期待しよう」
「分かりましたわ……。ですが、その結果はあまり興味ありませんの……」
「嫌、やめて! 何を……!」
「私の目を見てくださる? 少し、眠くなるだけですわ……」
「成功したか。これで晴れて憎しみのハートルーザーだ。――俺たちのためにしっかり働いてもらうぞ、モニカ」
「……はい」
「まずはルースとアルを見つけ出さなければ。――昔のように話せば、アルだってきっと分かってくれる。……今まで、ずっと、ずっと一緒だったんだ」
【ノーマンの過去】




