41 Backward A
「少し遠くの公園まで遊びに行ってたんだ。そしたら、帰ってきたら、父さんも、母さんも……」
「……よろしく」
「よろしく、アラン。同じ部屋なんだし、仲良くしよう」
「うん……」
「……別に、俺は悪くない」
「じゃあどうしてそんな不貞腐れる必要があるんだ。鼻血まで出して帰ってきて」
「だって」
「全く、お前のその怒りっぽさはどうしたら治るんだろうな。……ほら、医務室に行くぞ。消毒しないと」
「――俺と本とどっちが好きなのさ!」
「は、……え?」
「いっつもいっつも本ばっかり! 俺と遊んで楽しくないの?」
「え、あ、楽しい……けど」
「じゃあなんで遊んでくれないのさ! ……俺はノーマンと一緒がいいのに」
「――はーい。アラン君、そこまでにしようねー。お兄ちゃん困らせちゃ駄目でしょー」
「――なら、変えればいいんだ。そう思わないか」
「変えるって言ったって。君がどうにかするつもり?」
「ああ。俺は絶対にこの国を変えてみせる」
「まったく……すごいな。まさか、こんなことまでしでかすなんて」
「どうする? 先生に報告する?」
「……しない」
「よし! じゃあ、さっさと写して! 見つからないうちに地下に戻さないと。――そしたら、ここからは先は君の役目だ。俺の苦労を無駄にしないで?」
「これを亡くせば、君と喧嘩しなくていいだろ? ……大丈夫。覚悟は出来てる。君となら――こんな儀式、怖くないさ」
「キスタドールに乾杯」
「……少し大げさすぎない? 俺とノーマンしか残ってないのに」
「そうか。まだ加減がよく分からなくてな」
「俺もよく分からない。だけど、君らしくはない」
「――じゃあ、生き残った俺たちに、乾杯」
「あはは、その方が君らしい。……乾杯」
「その怒りはなんだ? 見せかけで声を荒げて、俺の心が揺れるとでも思うか!」
「違う! そうじゃない! ――俺は、俺は悲しいんだ。怒りは分からない。だけど、悲しさは分かる!」
「アル。その悲しみは本物か?」
「――なんて、ことを! 残った感情だけでも大事にしないでどうするんだ! ……最近の君はどうかしてる。こんなはずじゃなかっただろ……!」
「残った感情なんかで……。――俺は何をすれば充実感を得られる? こうすれば、事を成し遂げられれば俺でも喜べるんじゃないかと足掻くことの何がおかしい!」
「感情は……そんなものじゃないはずだ……」
「……アル、悪いな。――お前に怒りなんてないんだ。このくらいなんともないだろう」
「アールー。なにしてるのかナ?」
「……ルース」
「最近のノーマンはご機嫌斜めで困っちゃうゼ。俺様のお色気でも駄目だし、アハハ、アルがなんとかしてくれなーい? 俺様のテンションもガタ落ちだしネ。アハハハ! でもまあ、ずーっとテンションが高いと疲れるんだケド」
「君も、壊れてる……。俺たちのせいだ。――俺は、こんなつもりじゃなかったのに」
「はア? なアに逃げてんだヨ! 壊れてるウ? そんなのオマエもサ! 狂ってる! そういうヤツラしかここにはいないだろオ? アハハハハ!」
「ぶっ……! ほんっと、何も知らねェんだな! セミチェルキオっつうのは僕がいるギャングの名前ェ。僕はテレンス」
「ははは、そうだったんだ。――ありがとう、テレンス」
「礼なんているかよ。――いいからこっちだぜ。お前ん名前は?」
「俺は、……その」
「言えねェならいい。――誰からか隠れてんのか。お前、この辺りの匂いじゃねェもんな」
「匂い?」
「匂い。……あァ、お前、いい匂いだな。嫌いじゃねェ」
「わ、わっ! 何? ちょっと……!」
「んァ? あんだよ」
「いや、だって、その、急に鼻を近づけるし、何かと思って……」
「僕は目がポンコツだから、人間の特徴は匂いで覚えんの。変なやつは特に覚えておかねェと。リネアの回し者かもしれねェ」
「リネア? それは誰?」
「……お前はその心配なさそうだな。それならそれで構わねェんだけど。――お前、僕んことが怖くねェの?」
「ホテルまで教えてもらって……。助かった、ありがとう」
「隠れるならこのあたりが便利だぜ。いろんなやつがいるし、人の入れ替わりも多い」
「分かった。――あれ。もう雪?」
「あァ? 雪降ってんの。この冬初めてだな。僕ん目じゃ見えねェけど」
「窓を開けたら分かるんじゃない? ほら、手を出して。分かる?」
「あはは、冷てェ! よォやく冬が来たなァ。これからもっと降るぜ。お前もそんな服じゃァここの冬なんて越せねェぜ」
「そう? じゃあ後で買ってこようかな。安くていい店って分かる?」
「うん、後で教えてやる」
「ありがと。……ねえ、あのさ」
「んァ?」
「……どうして君は俺に良くしてくれるの」
「気に入ったから。いい匂いするし、……僕を見て怖がらねェやつなんて、久しぶりだから。そんだけ」
「君ってそんなに怖い人?」
「あはは。そう。僕は怖い人間なのォ。ただのガキだと思ってると痛い目見るぜ。――えへへ、でも、お前になら子供扱いされても悪くねェな」
「――欲しいもの?」
「うん。俺のお願いだけ聞いてもらうのも悪いだろ。俺が用意出来るものなら、何かと思って……」
「お前が用意出来るもん、か……。そうだな……。――僕、誕生日がねェの」
「誕生日? 分からないってこと?」
「ううん。ねェの。存在しねェ。……誕生日って、生まれた日を祝うんだろ」
「うん」
「僕は生まれてきて祝われたことなんてねェから、誕生日なんてねェなァって」
「そんな……。だけど、君が生まれて――」
「いいのいいの。綺麗事なんて聞きたくねェ。兄貴たちにも言われた。――だからァ」
「うん?」
「僕に、誕生日をくれよ。兄貴に言ったら変な日選ばれるからさァ。僕んことをなんにも知らねェお前がなんてことない日を選んだら、それが誕生日になるかなァって」
「誕生日」
「そォ。誕生日。ケーキ食ってさァ……祝ってェ? なァ、駄目ェ?」
「じゃあ君の誕生日と引き換えに、俺からのお願いだ」
「ん。なァに」
「――テレンス。俺を、殺して」
【アランの過去】




