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Heart Loser  作者: Nicola
40/125

40 Feature

 ザックにホテルまで送ってもらったクレアは、とりあえず服を着替えた。ズワルト孤児院でシャワーや寝間着は借りられたが、下着や服までは替えられない。

 気分的にもすっきりとしたクレアは階段を降り、ホテルのフロントへ身を乗り出した。

「すみませーん! 電話借りまーす!」

 フロントと繋がる小部屋から「はいどうぞ!」といつもの従業員の声が返ってきて、クレアは電話の前を陣取った。受話器を肩と耳で挟み込み、すっかり覚えた番号を回す。

 片手で手帳を開き、もう片手で電話のコードをくるくると回して暫く待つ。

「――あ、クレアです。ノーマンさんですか?」

 電話の向こうから聞こえた声にクレアが「お疲れ様です。今大丈夫ですか?」と定型文を繋げた。

「はい。ええと、昨日はたくさんの方にお話を聞けて、ハートルーザーらしき人も新しく分かったので――え? あ、いえ。素性とか、細かいところはこれからで……。はい」

 孤児院にいる子供たちはクレアが思っていた以上に様々なことまで見ていた。

 この間来た青年にはゲートがあった、ギャング同士が影の話をしていた、影を見せてもらったことがある等、思った以上の収穫があった。しかし、それがどこの誰かまでは分かるはずもなく、このざっくりとした特徴から絞り込みをかけるのはこれからである。

「それはおいおい調べるということで……。こっちはそっちと比べ物にならないくらいギャングが力を持ってるんですよ。ガーディアンとは癒着とかそういう問題もあるみたいですね。――え? あ、はい。そっちは興味なかったですね……」

 話が長いと普段通りのお叱りを受けたクレアはようやく本題を思い出す。開かれたページを見下ろすと、そこには電話口の相手が探す男の特徴がしっかりと書かれていた。

 アラン。愛称、アル。

 当時二十四歳、存命であれば二十九歳になる長身の男。当時、漆黒の髪は短く、それまでで髪を伸ばしたことはなかったらしい。灰色の瞳は少し垂れ気味で、性格は非常に温厚。何故なら、彼は背中にゲートを持つ、怒りのハートルーザーだからだ。

「今日はそれより大事なお話が――。う、すみません。次からは大事な話から始めます」

 テリーが「死んだ」と言った男。それが探しているアランなのかどうかは分からないが、彼が口にした特徴は随分と一致していた。

「アランさんの件で。――はい。でも、まだ確実な情報ではないです」

 電話の向こうの声が機嫌を良くする様子はない。淡々とした声で先を促してくる。

「はい。外見はおおよそ特徴通りでした。――ただ……会ったのは五年ほど前だそうです」

 指に巻きつけていたコードをとく。

「……あと、その人が言うには、その――アランさんは亡くなった、と」

 産まれる沈黙に、クレアは居心地悪そうに目を泳がせる。

「まだそのアランさんが、探している人である確証はありません……。ただ、これ以上は話したくないと情報をくれた方に言われてしまって……。すぐに他の方にも当たってみますが――え? ゲートですか? いいえ、そこまでは……」

 怒りのハートルーザー。それは亡くすことを固く禁じられている四大感情の一つ、怒りの影を操る者だ。

 四大感情。それは喜び、怒り、哀しみ、そして楽しみだ。

 ハートルーザーはそれぞれ何かの感情を殺し、その亡骸を影に落として操る。その中で殺してはいけないものが四大感情だった。その一つでも殺せば心を激しく損傷し、人格が破壊される可能性が極めて高い。その上、儀式の成功率も非常に低い。

 そのため、四大感情を亡くす儀式は最大の禁忌とされ、高すぎるリスクに手を出す者も殆どいない。

「そうですね。それとなく聞けたらいいんですが……。はい、分かりました」

 その他の感情は四大感情から派生し、絡み合うように存在するとされている。

 根の先を僅かに削ぐように感情を殺せば影響は僅かかもしれない。しかし、その根を張る木そのものである四大感情を切り倒せば、そこから伸びる根である末端の感情もなし崩しに消え去りかねないのだ。

 殺した感情が大きいほど、影が強力になるほど、ゲートは比例して大きくなる。

 怒りという大木を切り倒した結果に刻まれたゲートがどれほど大きくなるのか、クレアには想像がつかなかった。

「――え? 情報源ですか?」

 報告を終えたと思っていたクレアが手帳を閉じた。瞬きをする度、顔が浮かぶ。

「テレンスさんです。――はい、そうです。私がお世話になっている配達屋の」

 上司がテリーのことを聞く意味が良く分からないまま、小首を傾げる。

「元セミチェルキオのウォリアーで、脅威と呼ばれた人がいるって話を覚えてますか。その人です。……え? すごく強い方で……ああ、いいえ。ハートルーザーではないと思います。感情が欠けているような印象もないですし、そういった話も耳にしてません」

 クレアが再びコードを指に巻きつける。相槌を何度か打ち、小首を傾げる。

「ええと、身長は私と変わらないくらいで、そうですね、男性にしては小柄です。年は二十一。髪は灰色の癖っ毛、瞳は金色です。ただ、明るい光に弱いそうで常にサングラスをかけています。視力も悪いんですが、耳や鼻が利くので生活に不便な様子はありません。……はい、もちろん戦闘でも特に問題ないようです」

 聞かれるがままにテリーの特徴を口にしてから眉を寄せた。

「あの、テレンスさんのこと、そんなに聞いてどうす――あ、切れちゃった」

 受話器を離し、今まで声が聞こえていたそれを眺める。

「……ノーマンさん? なんでテリーのこと?」



「四大感情の一つ、怒り。――影の強さは桁外れ。死んだと言われたが、殺された線は薄いだろう。あんなやつを殺せるのはそれこそ化物だけだ」

 電話を切った男がそう言いながら背もたれにもたれかかった。

「そのアランを目撃したのがこのテレンスという方ですのね。興味ありませんわ……」

 男が電話中に走り書きしたメモをちらっと見た女は、ゆったりとした動作で自分の椅子へ戻っていく。

「まだ可能性があるというだけだ。これからその可能性が高くなれば話を直接聞かなければならないな」

「アハハハハ! そんなの、今から俺様が行って聞いてくればいいんじゃなーい? 俺様にやらせればあっという間なのに!」

「ルース、もう少し待て。下手に騒ぐわけにはいかない。――それより、マーシー。今日の食事は摂ったか?」

「摂ったような摂っていないような……。どちらでもいいですわ……」

「そうはいかない、食事にしよう。お前たちが一人でも欠けると損失が大きい」

 男が淡々と言いながら立ち上がり、先ほど座った女の腕を掴んで引っ張り立たせた。

「アッハハハハハハ! ノーマン! そんな言い方するかアルに逃げられるんじゃなーい? アハハ! なア、ノーマン! そのテレンスってやつ、手を出すなら俺様に行かせろヨ! ソイツ、面白く踊ってくれるかなア! アハハ、アハハハハハ!」


【それぞれの特徴】

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