18 Backward T
「パパ、ママ……。なんでェ……? なんで、僕んこと――」
「トバイアス……!」
「え? ――あっ」
「ねえ。それ、なあに。トバイアス、何してるの?」
「なんで、ママが……! ちが、あの、違うの。僕ら、別に何もしてな――」
「そんなもの触っちゃ駄目よ。ごみは、片付けて、捨てなくっちゃ。ね、トバイアス」
「ママ! 待って、違うんだよ! 何するの、止め――テレンス、逃げて! 逃げてェ!」
「僕が逃げたせいで、トバイアスは――」
「ああああああ! 離せェ! 離してェ!」
「おうおう坊主、そんなに暴れるもんじゃあねえ。落ち着いて飲み込みゃあいい。怖えもんじゃあねえんだ」
「やだ……! もう、や、だ、助け――」
「助けてやってんだぜ、坊主。いいから、飲め。――おい、ドグ! 坊主の口こじ開けろ! 無理矢理にでも飲ませてやれ!」
「はい、ボス」
「――よう、坊主。今日は落ち着いてるな?」
「……う」
「お前さんが使ってたドラッグ、ありゃあやべえな。誰に売られたか覚えてるか? この俺に教えちゃあくれねえか」
「買って、ねェ……」
「ほう?」
「くれた、の……。飲めば、腹、減らねェって……おじさんが……」
「飲んだだあ? チッ、この俺の足元でクソッタレなことをしてくれたもんだ。――坊主、お前さんをぶっ飛ばすドラッグをくれた野郎はどいつだ? ここに並んでる写真にその野郎の頭があったら俺に教えな」
「おいおい坊主、飯食う時くれえそんなに震えんでもいいだろう?」
「……ッひ、や」
「そんなにビビらねえでもいいだろうよ。――おら、坊主。これも食え食え。はっはっはっ、そんな細っこい体じゃあこんなに入らねえか?」
「……ねェ。僕があいつら全部ぶっ倒したら、喜んでくれますか」
「ああ、嬉しいもんだな。――ご褒美をやってもいいぞ、テレンス」
「テレンス、お前さんはこのセミチェルキオのファミリーだ。俺の役に立ってみせろ。今まで出来なかったことを、ここでやってみせろ」
「……はい、ボス」
「いいか、テレンス。お前さんはもう何も出来ねえガキじゃねえんだ。お前さんが出来ることを、ここで見つけてみせろ」
「――よう」
「な、なんで、テレンスがここに」
「ちょっとの時間だけど、よォやく単独行動の許可がでたから。お前に会いに来ただけ」
「あ、ああ……! うわ、あ、近づかないでェ……!」
「え? ――ああ、そっかァ。僕、もうギャングだもんな……。こんなんも持ってるし。ごめん。怖がらせるつもりじゃ、なかったんだけど……」
「ごめんなさい、ごめんなさい。許して。殺さないで。許して」
「何、言って……」
「ごめん、ごめんなさい――」
「踊れ! 踊れェ! 踊れよォ! もっと僕を楽しませやがれェ!」
「おい、坊主! もういい! 十分だ!」
「っはァ! 面白ェなァ! カモン、サンドバッグちゃァん」
「くそ、またトンでる! 坊主! 落ち着け!」
「足んねェだろ? 足んねェんだよ! ――殴らせろ! 殴りてェ殴りてェ殴りてェ!」
「おい! 鎮静剤持ってこい! 死人が出んぞ!」
「ドグさん! 俺らじゃあ止められねえですよ!」
「分かっている。……ふう、まったくあの人は。随分な狂犬を拾ってきてくれたものだ」
「セミチェルキオの脅威」
「何それ」
「お前のことだ。そう呼ばれ始めた」
「へェ? キョーイって?」
「強い力で脅かす存在。――お前がいる限りセミチェルキオは落ちない。そういうことだ」
「は、そりゃァいいや」
「そして、裏切りを許すと最悪の敵になるということだ」
「――へェ」
「脅威がこちらへ向かないことを信じているぞ、テレンス」
「信じなくていいよォ」
「……何?」
「セミチェルキオの脅威、かァ。ねえ、ドグ兄。それ、気に入った。――面白ェ。僕にはボスしかいねェのに。信じるとか、信じねェとか……意味分かんねェ」
「テレンス?」
「ボスしかいねェんだよ、僕には」
「セミチェルキオの脅威? 何それ。それが君の名前? 変わった名前だ」
「……違ェよ。お前、本当に僕のこと知らねェの?」
「知らない。君って有名人?」
「うるっせェ。んなことも知らねェならとっととこっから失せろ、ボケ」
「そう? だけど、地図なくしちゃって。どっちが大通りなんだか……」
「……はァ?」
「この町、ギャングがいるだろ? それも、たくさん。――俺、知らなくってさ。まさか、急にあんなのに巻き込まれるなんて思ってなかったんだ。逃げてたらこんなところさ」
「お前、バッカじゃねェの。ったく、しょうがねェな……。僕が大通りまでエスコートしてやる。一般人放っておいたらボスに叱られんだよ。おら、行くぞ」
「ありがとう。ええと、セミチェルキオ?」
「ぶっ……! ほんっと、何も知らねェんだな! セミチェルキオっつうのは僕がいるギャングの名前ェ。僕はテレンス」
「ははは、そうだったんだ。――ありがとう、テレンス」
「アラン、アラン。なァ、また飲もうな」
「うん。いつでもおいで、テレンス」
「ああァ! くそったれ! なんで、なんでェ! あの日、僕がいたのに、なんで――」
「テリー、落ち着いて」
「ボスが撃たれて――なんでェ……! 僕が、僕がボスの前に立ってたら、ボスは――」
「もう終わったんだ。落ち着いて、テリー。テリー!」
「え、そんな、でも――。ボス、僕、嫌ですよォ。ボスの側に置いてくださいよォ!」
「馬鹿言え。お前さんの意見なんざ聞いちゃいねえんだ。これはもう俺が決めたことよ」
「だって、ボス! ……ボスがいねェと、僕、どうしたら」
「ったく、うちの脅威がそんな顔をするんじゃねえ。だがな、お前さんはじきに俺の命令なんぞ聞かなくていいようになる。だから、命令でも約束でもない、お願いをしようじゃねえか」
「オネガイ、ですか」
「ああ、そうだ。俺からのお願いだ。俺個人からお前さんへのお願いだ。強制力もなんにもねえし、お前さんが嫌んなったらすっかり忘れちまっていい」
「ボスの頼みを、忘れるわけ……!」
「いいから最後まで聞け。お前さんの好きにしていいって言ってんだ。いいか。俺からのお願いだ、テレンス――」
「てめェは、絶対に許さねェ」
「許さなくていい。俺もそんなものは望んでない」
【テレンスの過去】




