114 Backward Z
「ゼカリア、か……。いい名前」
「あ、そ」
「……そんな顔するなら、――後悔したんなら、俺とはもう関わらないで」
「――なァ。名前って、親がくれる最初のプレゼントなんだぜ」
「うん?」
「だから、大事なもんで、捨てるもんじゃねェって教えてもらった。ちゃァんとその名前で生きていけるまで、世話する誓いなんだって」
「……それは、君にあんなこと頼んだ俺への説教? 少し、遅くない?」
「違ェよ。別に、お前の名前なんてどうでもいい。変えようが捨てようが僕には関係ねェ。――でも、お前に名前をつけたのは僕になった」
「うん……? ありがとう?」
「だから、僕はお前の親みてェなもんだろ。お前に大事なもんを――その名前の生き方を与えたのが僕なら、その責任くれェちゃんと背負ってやる」
「どういうこと……?」
「最後まで、僕ん手を離れるまでは……僕がちゃんと守ってやるから」
「何言って……。俺は大人だし……。そりゃあ殺してくれは大げさに言い過ぎた。だけど、偽名をつけてくれただけで十分な――」
「うるっせェ。……僕は、お前を……僕みてェに捨てたくねェの」
「テレンス、そこの砂糖取って」
「……テリー」
「うん?」
「てめェにテレンスなんて呼ばれたくねェよ、ボケ。テリーでいい」
「じゃあ、テリー」
「おう」
「砂糖、取って」
「あはははは! ザック、バッカみてェ! それくれェ避けろよ!」
「……テリー」
「超絶だっせェ! やべェ、腹痛ェ!」
「テリー!」
「――ッ! 今、銃声ッ」
「わ、びっくりした! 寝てたんじゃなかったの」
「ザック、今、銃声が……」
「……隣の部屋の誰かさんが盛大なくしゃみをしただけ。――テリー、落ち着いて。あんな大きな抗争が終わったところなんだ。暫くはセミチェルキオもリネアも大人しくしてるはずなんだろ?」
「くしゃ、み……」
「うん、くしゃみ。君のボスは無事だったんだろ。ご褒美に、ほら、それも貰ったんだろ?」
「これ……、うん」
「だから、大丈夫。落ち着いて」
「……でも、僕――また、ボスが撃たれるんじゃねェかって……。僕がいねェ場所で、撃たれたら、どうしよう……」
「そのボスが君に休むよう言ったんだろ? それで君がここへ休みに来た。だから、しっかり休んで。ほら、寝ていて」
「でも、ザック……寝たら夢に見んの。――あの日、ボスが撃たれて、死ぬ夢。僕じゃなくて、ボスが死ぬ夢なんだよォ――!」
「最近の君は見ていられない」
「へェ。じゃァ見るんじゃねェよ、ボケ」
「君が俺のところに来るくせに。……あのボスのことばっかり。気にしすぎじゃない? 他に気の紛れる話とか――」
「うるっせェ! てめェに分かるかよ! うるっせェ! うるせェうるせェ――!」
「わっ! テリー危な――ああっ、もう! グラスなんて投げるから……!」
「ああァ! くそったれ! なんで、なんでェ! あの日、僕がいたのに、なんで――」
「テリー、落ち着いて」
「ボスが撃たれて――なんでェ……! 僕が、僕がボスの前に立ってたら、ボスは――」
「もう終わったんだ。落ち着いて、テリー。テリー!」
「僕が守らなきゃならねェのに――僕が撃たれなきゃいけねェのに――なんで! なんで、僕がいたのに……! なんで、ボスが撃たれて――!」
「動くと危ない! テリー、座って! 薬持ってくるから……」
「うるっせェ! 僕にはボスしかいねェんだよォッ!」
「分かった。ボスだけじゃねェよ。てめェも大事大事ィ。……てめェの言うこともなんでも聞いてやる。てめェのためになら、なんでもしてやる」
「そういうことじゃないだろ……。あとさ、そういうことは軽く言わないで」
「うるっせェ。責任取るっつっただろ。そのためなら、なんでもしてやるよ」
「……てめェ」
「なんでもしてやる、君はそう言った。責任、取るんだろ」
「ようく来てくれたな。例の話も随分と引き伸ばしちまって悪かった。あんなちびの坊主でも俺の大事な戦力なんでな」
「いえ。それが分かっていてこの話を持ってきました。話を聞いてもらえるだけでも、ありがたいです」
「ふん、そりゃあ結構だ。ところで、心変わりはしてねえだろうな、ゼカリア」
「はい、もちろん」
「ようし、それなら話を進めてやろうじゃあねえか。セミチェルキオからテレンスを手放す用意は出来てる」
「それじゃあ……!」
「おいおい、喜ぶには少し早えんじゃねえか? ――うちの可愛い可愛い愛するファミリーの一人をやるってんだ。無条件でやるわけにもいくまいよ。さあ、ゼカリア。お前さんは、本当にテレンスを救えると思ってんのか。覚悟があるならくれてやろうじゃあねえか。――ケン、契約書を持って来い」
「はい、ボス」
「そんなに怖い顔をするな、ゼカリア。なあに、難しいもんじゃあない」
「お持ちしましたぜ。――ゼカリア、サインをこちらへどうぞ。そして、血判を」
「テレンスは先に合意した。内容もきっちり理解させてある。――お前さんがここにサインをするなら、その瞬間からテレンスはお前さんのもんだ。テレンスを生かすも殺すも、ぶっ壊すも、お前さん次第だ」
「てめェは、絶対に許さねェ」
「許さなくていい。俺もそんなものは望んでない」
「俺は、絶対に君を救うんだ……」
【ゼカリアの過去】




