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Heart Loser  作者: Nicola
112/125

112 Friend Or Foe

「殺さねェの? 出来ねェなら僕がやってやるぜ」

 物騒な言葉が聞こえ、ザックは思わずぷっと吹き出した。隣に移動してきたテリーを見下ろし、拳を開いて首を左右に振る。

「ううん。そんなことしないで」

 そのザックの前にはノーマンが倒れていた。ザックの力一杯の一撃に目を回した彼は雪の上で規則正しく肺を動かしている。

 テリーはちょうど近くに落ちていた脱ぎ捨てたコートを拾い上げ、腕を通す。雪で濡れて想像以上に冷たいそれにぶるりと体を震わせた。

「はッ。そりゃ良かった。流石にガーディアンの前で殺しはまずいからなァ」

「ガーディアン?」

 突然増えた登場人物に、ザックが素っ頓狂な声を出す。テリーが敷地の出入り口を振り返るのでそれに倣う。そして、目に飛び込んできた現実にぎょっとして、両手を頭の横に上げる。

「……いつからいた?」

「てめェが腰抜かしたあたりから様子は伺ってたぜ」

 ガーディアンは治安維持を担う組織だ。犯罪を取り締まり、逮捕権も持つ。その権力が出入り口を塞いでいた。前列は盾を持ち、その横からは銃口が覗いている。

 銃を捨てろ、頭の後ろで手を組め、動くな。ひっきりなしに飛んでいくる命令にザックはそろそろと従ったが、テリーはズボンのポケットに両手を突っ込んだまま動かない。

「ちょっと、テリー……」

「セミチェルキオが手ェ入れてるぜ、これ。ドグ兄の声がした」

 姿自体は見えていなくとも、この騒がしい命令の嵐の中、彼は特定の声を発見したらしい。ザックは関心しながら視線を左右に動かす。と、目当ての人間を見つける。

「じゃあさっき撃ってきたのも」

「セミチェルキオかもな。町をひっかき回してくれたノーマンを上手い具合に処分――出来なくても、僕らがこうやって潰しちまえば運が良かったってところだろ」

 あまり口を動かさず、ぼそぼそとテリーが喋り続ける。

 全く従わない上にお喋りまで続けるテリーに戸惑って、ガーディアンがざわめく。そんな中、盾が二手に割れた。

「テレンス。敵意がないところくらい見せたらどうだ」

 ガーディアンの後ろから出てきたのはセミチェルキオのボス、ドゥーガルだった。彼の後ろには側近のケントとコーディが立っている。

「だァってェ。セミチェルキオの息がかかってるガーディアンなんて怖くねェんだもん」

 そう言いながらもテリーが両手を頭の上に乗せると、ガーディアンがようやく動き出した。

「キスタドールは……」

「あァ? よォく見ろよ、ボケ。僕ら以外に立ってる人間がいるかァ?」

 テリーが恐る恐る近づいてきた若いガーディアンにがんをつけると、彼らは臆した表情になった。顎でノーマンを指し示すと、そのガーディアンは気絶している彼に錠をかけた上で縄を巻き始めた。あの程度、影さえあればいとも簡単に脱出するだろうにと思うが口には出さない。そして、この男はそういったことをしないだろうと、ザックとのやりとりを見て感じ取っていた。

 全て諦めたような。たかが一人の裏切り者を取り戻せなかっただけで。

「……テリー」

 ザックの呼びかけで、テリーの思考がふつと途切れる。

 瓦礫も多い空き地――本当は建設予定地なので空いてなどいないが――にはルースが作った血溜まりを見て言葉を交わすガーディアンに、ドゥーガルと話しているガーディアンと様々な動きがあった。

 そんな中、ザックの視線はもう少し外れた場所に向いている。

「撃ったんじゃ……」

 ガーディアンの一人がモニカに声をかけ、肩を揺らしたり脈を取ったりしているようだった。死体に対する動作には見えない。

 テリーは今の今までそれに気付かなかったザックにも、気付かれなかったクレアにも勝ち誇ったように鼻を鳴らす。

「撃ったぜ。てめェが狙う時は胴体を狙えっつうから、そォしたけどォ」

 ザックが隣の灰色頭を見下ろした。彼は正面へ顔を固定したまま唇をへの字に曲げた。

「だけど、てめェがいねェとまともに当たる気がしねェな」

 ガーディアンたちが持ってきた担架にモニカが乗せられる。顔色は悪く意識もないようだが、手当の様子を見る限り息はしているようだ。腹部が赤く染まっているのが一番目を引くが、服も顔も汚れているのがよく分かる。

 ザックがほっと息をつく。その安堵とは対象的にテリーは眉をひそめ「当たりどころが悪かったなァ」と憎たらしそうに笑った。

 ガーディアンたちはノーマンを連れていき、モニカを運び、壊れた事務所を調べ――と忙しそうにしているが、ザックとテリーの方には近寄ってこない。

 状況に飽きてきたテリーが頭の上から手を下ろした頃、ガーディアンと話していたドゥーガルが二人の方へ体を向けた。

「テレンス、手を下ろせとは言っていない」

「ええェ? だァってェ、ドグさん話長ェんだもん。僕も怪我してんだし解散しねェ? 超絶痛(いて)ェんだけど」

 渋々といった様子でテリーが再び手を上げる。

 ザックはこの状況で文句を言えるテリーの度胸にほんの少しの羨ましさを覚えながら、ドゥーガルに自ら声をかけた。

「抗争はどうなりましたか」

「あ、そォだ。一人、リネアの方へ逃げてったぜ」

 テリーの呑気な答えにザックが驚いたように声を上げた。ルースもマーセイディズも姿がないことには気付いていたが、まさか逃げ先がリネアだとは思っていなかった。

 そんなザックの反応にドゥーガルは「何故お前が知らない。今まで相対していたんだろう」と眉をひそめたが、それについては今掘り下げるべきではないと判断したのかそれ以上の追求はなかった。

「リネアにはルースの死体を連れたマーセイディズが戻ったそうだ」

 きゅっとザックの表情が歪む。ノーマンから緊急時にはライラの命令に従うよう言われていれば、マーセイディズは何一つ躊躇わずセミチェルキオに攻撃をしかけたはずだ。

 セミチェルキオの被害はどこまで、と冷えた唾液を飲み込む。しかし、目の前にいるセミチェルキオのボスは平然としており、苛立ちも焦りも見せていない。

「マーセイディズはリネアにて射殺。二人の死体は既にガーディアンに引き渡した」

 そのボスの言葉に、ザックとテリーは上ずった疑問符を揃えた。

「ドグ兄、どういうことだよ。リネアが? あいつら組んでんじゃねェのかよ」

 テリーが再び頭から手を下ろすので、ドゥーガルの後ろに立つケントが小さく笑うように咳払いをした。一応といった様子で「テレンス」と呼びかけながら銃口を向けると、テリーは顔をしかめて手を元の位置に戻す。

「ライラがキスタドールに食われる前に牙をむき、そこにセミチェルキオが手を貸しただけのことだ。だが、詳しい話は追い追いすることにしよう。――それより先に、お前たちに確認しなければならないことがある」

 ドゥーガルの声のトーンが、すとんと落ちた。

 落ちた声が冷気となって這い上がってきて、ザックは小さく身震いした。そして、そのドゥーガルの後ろから近づく姿に気付いて目を見開く。

 雪に似合わない高いヒールが瓦礫とぶつかって、カツと音を立てる。

「あぁら。楽しいことをしているのにあたしを除け者にしちゃ嫌だねぇ?」

 ドゥーガルの隣に並んだのはリネアのボス、ライラだった。会合でもない限り顔を合わせることもない二人が、中立も何もないこの場所で並んでいるのは異常だ。

 ライラはザックとテリーの驚愕に満足したように笑い、黒に塗った爪で優しくテリーの顎をなぞる。

「感情を亡くすなんて馬鹿なことをしたものねぇ。ふふ、魅力が一つ減ってしまった」

 今にも噛みつきそうな顔でテリーが睨んでくるので、ライラは早々に指を引っ込める。

「そんな顔しなくたっていいだろう、可愛いテリー。手助けしようとあいつを撃ったのはあたしらだよ、感謝してほしいくらいだ。ま、あんたが叩き落としたけれどねぇ」

 先の一発の銃弾を思い出し、テリーが眉を寄せた。

「感謝だァ? お前らが下手なことしなけりゃ僕がこんな目に合わなくて済んだんだろうが、ボケ」

 唾を吐きつける真似をしたテリーに、ザックとドゥーガルのため息が揃う。

「テリー、大人しくしていて」

「現在敵対関係であるのは分かるが今は大人しくしていろ。ガーディアンの目があるぞ」

 テリーは不機嫌そうに口をすぼめ、ドゥーガルに一瞥をくれる。

「どォせ都合の悪いことはドグさんが揉み消すんだろォ」

 生意気を言って舌を出したテリーの視線が、ドゥーガルたちの後ろへ向いた。

 何人かのガーディアンがドゥーガルやライラたちの後ろへ並んでいた。物々しい雰囲気が辺りを囲いはじめ、ドゥーガルとライラがちらと目を合わせた。

「――話を戻そう。質問だ、配達屋」

 ドゥーガルが話を切り出した横で、ライラが手を挙げる。それを合図に側近だけでなくガーディアンたちも銃口を持ち上げ、ザックへ向けた。ドゥーガルも腕組みをしたまま動かず、止める気配がない。

 ザックの呼吸が、ひゅ、と消える。

 テリーが奥歯を、ぎり、と潰すほど噛んだ。体中に力が入る。

「キスタドール、ノーマンは捕縛。ルースとマーセイディズはリネアにて死亡を確認した。――では、もう一人。アランは何処だ」

 ドゥーガルはテリーの刃のような視線を、動じることなくまっすぐ見返す。

「テレンス。お前の隣に立つ男は、誰だ」


【敵か味方か】

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