閑話 -物語-
★ 今回は閑話ということで、本編とは違う時系列の話になっています。そのため、今話は三人称、つまり第三者の視点で書いてみました。
閑話とはいえ、本編に繋がる重要な話なので是非読んでみてください! それでは本編へ、いえ閑話へどうぞ!
幽幽たる空からまるで無数の星々が落ちてきたかのように、純白の雪が音もなく地上に降り積もっていた。雪に音を吸われた静寂の中、地上では空虚な夜空に代わって暖かな星々が輝いている。その一つ、とある窓の内側で小さな足音が部屋の中に軽快に響いていた。
「お母さん! また、あのお話聞かせて!」
小さな女の子は椅子に座って編み物をしていた女性の下に来ると、ねだるように女性のスカートにすがる。そんな女の子を見て、編み物を中断した女性はそっと女の子の頭を撫でると、柔らかく微笑んだ。
「あら、ミィアはあのお話、好きね。いいわよ、こっちにいらっしゃい」
そういうと、女性は編みかけのマフラーをテーブルに置き、女の子のために膝の上を空ける。女性に呼ばれた女の子は、ぱあっと表情が明るくなり嬉しさのあまり軽く飛び跳ねると、女性の膝の上に飛び乗った。そして、早く早くと嬉しそうに待つ女の子を女性は抱きしめると、女の子の待ち望む物語をやさしく語り始めるのだった。
――むかし、むかし、あるところに一人の女の子がいました。女の子は人里離れた森の中に住んでおり、いつもひとりぼっちでした。ですが、女の子は毎日森の花々や小鳥たちと遊んでいたので、寂しいと思ったことはありませんでした。けれど、時たまに空を見上げていると、胸をキュッと締め付けられたような感覚に襲われるのでした。
そんなある日、女の子の前に一人の少年が姿を現しました。少年は女の子の手を取ると、森を出て街へ連れていきました。初めて見る賑やかな風景、飛び交う大勢の人々の声。美味しいお菓子を食べ、同年代の子供たちと遊び、少年と女の子は日が暮れるまで街を遊び廻りました。
やがて、少年は女の子を連れて森に戻ってきました。そして女の子の家に着くと、少年はつないでいた女の子の手を寂しそうに離し、自分のことについて話し始めました。
「実は僕は、遠い遠い世界から来た救世主なんだ。君の心の声が聞こえて、君に会いに来た。でも、もうすぐ帰らなきゃいけない。だから最後に、君が救われた証拠に満面の笑みで見送ってほしい」
そういうと少年は、足から徐々に透け始めました。女の子は少年がお願いした通り、今日一日楽しかった思い出をいっぱい詰めた最高の笑顔を見せました。やがて、少年は頭の先まで消え去り、そこには女の子しか居なくなりました。女の子は泣きました。一晩中ずっと。女の子は今までずっと寂しかったのです。でも、ずっと一人だったから気が付かなかった。それを気づかせてくれた少年は、もういません。ですが、少年が残していってくれたものがありました。
ひとしきり泣いた女の子は、日が昇ると荷造りをして森を出ました。街に出た女の子は、やがて人の中の生活に慣れていきました。もう空を見上げても、胸を締め付けられることはありません。寂しさと人の温もりを教えてくれた少年のために、女の子は今日も人々の中で笑顔を見せていることでしょう――
「おしまい」
女性はそう締めくくると、再び女の子の頭をやさしく撫でる。気持ちよさそうに撫でられていた女の子だったが、ふと気になったのか女性の方に振り向くと
「ねぇお母さん。私のとこにも救世主くん来てくれるかな?」
と問いかけた。
その時、女性の表情が一瞬哀しげなものに変わったが、すぐに元のやさしい笑顔に戻ると女の子を抱きしめる力を静かに強めた。
「そうね。いつかミィアの心が寂しいって叫ぶような日が来たら、きっと来てくれるわ。でも、きっと彼は沢山の人たちを救っていて忙しいから、彼が来る必要がないように、今はお母さんがミィアの救世主で居させてね……」
★ 閑話-物語-いかがだったでしょうか? 筆者が主人公の目線から物語の世界を見る一人称と違い、三人称は世界の外からまるで幽霊になって世界を見ているような感じで書くので、中々表現が難しかったです。もしかしたら、読みづらかった人がいたかもしれませんが、おそらく今回のような閑話がなければ本作はこれで三人称で書くことはないと思いますのでご安心ください。
ちなみに次話は文の長さの都合上、前半をミィア視点、後半をタカ視点で書いているので読みにくくないように頑張って工夫してみます!
それでは次話でまたお会いしましょう!