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第15話 -希望-

「これは……一体何があったんだ!?」


 慌ててタカに駆け寄りながら、ウォン先生は私に問いかける。


「ウォン先生……タカの体に毒が回ってしまって……先生なら助けられるんですか!? お願いします! タカを……私の大切な人を救ってください!」


 私はウォン先生に寄りすがる。どんなに小さな可能性でもいい。彼を救えるかもしれないのなら、その可能性にすがるしかない。


「毒が……わかった。わたしにできる限りのことはしてみよう。大丈夫、途中で投げ出したりはしないさ。かつての彼のように、どんな小さな可能性でも諦めず、必ずタカ君を救ってみせる」


 そういうと、ウォン先生は私の頭を撫でながら優しく笑いかける。


「わたしにとっても……」


 ウォン先生が何かを言いかける。けれどもそれ以上は言わず、今度は医者の方を向いた。


「私はザパルク学校の養護教諭をしている者です。医師免許も持っているので何かお役に立てるかと。して、彼の容体は?」


 医者や看護師も困り果てていたのだろう。彼女に希望を託すように、今までの治療の内容を説明しだした。


「腹部の打撲、および全身に切り傷があります。また、切り傷から入ったであろう毒も検出されています」


 医者はウォン先生に検査結果の書かれた紙を渡す。その表情は、どことなく困惑しているようだった。


「腹部の打撲による内蔵の損傷は見られませんが、問題は切り傷から回った毒です。この毒は非常に猛毒で、普通なら毒を摂取した数分後に死に至る物です。それなのに彼は危険な状況ではありますが、未だに存命しています」


「たしかに……この毒ならわたしも知っているがこんなに耐えているのは初めて見た。だが、それならまだ助かる可能性は高い。たしか、この毒に効く薬はいくつかあったはずだ。それを使えば……」


 可能性を見出し、急いで看護師に薬を持って来させようとするウォン先生だったが、それを医者が制止した。


「それではダメなんです。まだ生きているというだけでも前代未聞なのに、彼にはどの薬も効かないのです。すでに効果のある薬は全て試しました。その結果が今の状況なんです」


 医者は自分の力不足を嘆くように、顔をしかめながら唇を噛む。ウォン先生も何か他に方法はないかと口元に手を当てながら考え込んでいた。

 ひとしきり考えたウォン先生はやがて私の側に来ると、周りには聞こえないように私に話しかけてきた。


「もしかしたら、異星人であるタカ君は我々とは体の構造が違い、この星の薬物の効果が薄いのかもしれない。もしそうなら、彼が致死性の高い毒を受けながら未だに生きているのも納得できる。なにか……なにか彼に効果のある薬を知らないか? それがわかればどんな成分が彼に効果のあるものなのか大体の予想はつくのだが……」


「効果のある薬……」


 私はそれを知っている。そう、一つだけある。唯一タカに効果があるとわかっている薬。初めてタカと出会った日に、私が彼に塗ってあげたあの薬。有害物質を排除し、大きな可能性を秘めた万能薬ならタカに効く薬のはずだ。


「モルニ草ならタカに効きます! あの薬なら、タカを治せるはず!」


 私は力強くそう叫ぶ。見つけた、タカを救える可能性。モルニ草になら、それができるはず。今度こそ、私の大切な人を救って……!

 けれど、それを聞いた医者は静かに首を横に振る。


「モルニ草も、効果のある薬に含まれます。そしてさっきも言ったように、すでに全ての効果のある薬は試しました。それでも彼に効果はなかったのです」


 そう言って、医者は私にモルニ草の薬を見せる。


「そんな……」


 私はその場に力なく崩れ落ち、床にへたり込む。やっと見つけた可能性だったのに、彼を救える希望だったのに……どうしていつも大事な時だけ私から光を奪っていくの? あなたには希望と再会を与えてくれる大きな可能性が秘められているはずなのに……私はモルニ草の薬を睨む。何も救ってはくれない花に、私から大切なものを奪って行く薬草に。だがその時、私はあることに気がつく。


(もしかして……!)


 私は立ち上がり、急いで病室を飛び出す。後ろからウォン先生の声が聞こえてきたが、今の私にはそれを聞く余裕がなかった。ただ一つ。悪あがきと思われるかもしれないけれど、諦めたくなかった。とても小さく、限りなく無に等しい可能性。それでも私は走る。今度こそ、大切な人を失わないために。


 ――ガチャッ

 家の扉を開けた私は急いで中に飛び入る。誰もいない家の中、私がいなくなった時からほとんど変わらぬ姿の室内に、彼の寂寞(せきばく)たる想いが痛いほど伝わってくる。溢れそうになる涙を堪え、私は求めるものがある部屋へ向かった。


「ない……」


 いつも保管している部屋に、それはなかった。そういえば、失踪する前に切らしてたんだった。だけど確か、作りかけがあったはず。私は急いでそれを探す。急がなくては。もうあまり時間がないはずだ。この星の薬物が効きづらいとしても、猛毒には変わりない。彼がいつまで持つかわからないのだ。


「あった……!」


 見つけたそれを急いで完成させようとする。焦ってはダメだ。あれではダメだったんだ。何か、私の作るものと違いがあるはず。なら、いつも通りに作らないと。彼の傷を癒したあの薬と同じように、お母さんを治そうと一生懸命作った時のように。私の想いを、希望を、可能性を込めて……


「出来た……」


 小さな丸薬を瓶に詰める。それは綺麗な黄色の粒。私の作ったモルニ草の薬。病院で使われたのは、私の作ったものではなかった。もう可能性はこれしかない。


「間に合って、タカ!」


 私は家を飛び出し、走り出す。小さな希望を胸に抱いて。


 息を切らしながら私は病室に飛び込んだ。その場にいた医者やウォン先生たちは驚きながらこちらに振り向く。


「ミィア君! 一体どこに行っていたんだ!?」


 突然病室を出て行った私を心配していたのであろうウォン先生が近寄ってくる。


「ハァ……ハァ……せ、先生……私、可能性を見つけました。絶対に諦めません! 必ずタカを救ってみせます!」


 私はウォン先生にそう言いながら、フラフラになりながらもタカのそばまで近づいて行く。


(お願い、今度こそ可能性を……私たちに希望を……!)


 横たわるタカの顔の近くに、私は(ひざまず)く。なおもタカは苦しそうに悶えていた。


「うっ……み、ミィア……」


 わずかにタカの口から言葉が漏れる。よかった、まだ生きてる。待っててタカ。今、助けるからね。

 私は瓶から一粒の薬を取り出す。怖い。もし、この薬でもダメだったら。もうタカを救える方法が思いつかない。信じるしかない。この薬を、これを作った私自身を。薬を手にタカの口元へ近づけて行く。かすかに震える指先で、私はタカに薬を飲ませた――

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