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第5話 -笑顔-

 図書館を出た俺たちは、茜色に染まる街の中を歩いていた。ふと、俺は先程から気になっていたことを彼女に聞いてみる。


「そういえば、さっき言ってた古代族ってのはどんな種族なんだ? 誰も姿がわからないって言ってたけど」


「えーっと、古代族っていうのは大昔にいた種族で、ネコ族や他の種族が生まれるずっと前からいたらしいよ。高度な文明を築いていた種族だったらしいけど、なんらかの理由で絶滅してしまったんだって。今でも遺跡や遺物が各地で出土されてるんだけど、古代族の技術が高すぎて現代では古代族の道具とかの使い方は、ほとんど解明できていないんだって。だから、古代族についてはどれほどの文明だったのか、どんな生活をしていたのか、どんな容姿だったのか、何もかもが謎なんだよ」


 古代族、高度な文明、失われた技術、どうして彼らはいなくなり、その後に新たな種族が生まれ、文明が築かれたのだろうか? 古代族とは彼女が言った通り、謎が多そうだ。

 だが、俺とミィアがそんな話をしていると、突然二人組の男たちが現れミィアに話しかけてきた。


「ねぇ、君かわいいねぇ。もしよかったら、俺らと一緒に遊ばない?」


「そうそう。俺らについてくれば、いろんなとこ連れて行ってあげるよ?」


 ふん、どうやらどこの世界でも、ナンパのやり口だけは変わらないらしい。イヌ族らしき二人組の男たちは、俺を無視して執拗(しつよう)に彼女を誘う。引きこもっていた俺にとってはあまりこういうのには関わりたくはないのだが、彼女はこの世界に来たばかりの俺に色々してくれた恩人だ。彼女を連れてなんとかこの場を離れよう。走って逃げるつもりで彼女の腕を掴もうとした、その時。


「ごめんなさい。あなた達に構ってあげられる時間はないの」


 彼女はキッパリと男たちの誘いを断った。ミィアさん、結構肝座ってるなぁ。これじゃあ俺の出番はないな。

 だが、男たちはそれでも引かず、なおも彼女を誘おうと彼女の腕を掴んだ。次の瞬間、彼女の腕を掴んだ男は空中に投げ出され、そのままの勢いで地面に激突した。


「いでぇ!」


 相方の叫び声で、なにが起きたのか理解したもう一人の男は


「てめぇ、調子に乗るなよ!」


と彼女に襲いかかるが、彼女は一瞬で男の懐に飛び込み胴と顔を次々と殴り、押さえつけた。

 すげぇー。そういえば、ネコ族って身体能力高いんだっけ。だが、彼女の活躍にあっけにとられて見ていた俺は、いつのまにか忍び寄ってきた男に、突然後ろから押さえつけられてしまった。


「おいおい、俺が来る前になにやられてるんだよ。まったく……おいお前、動くなよ」


 そういうと、男は俺の首元に刃物を突きつける。刃物こえぇぇぇ。


「タカ!」


 ミィアは捕まった俺を見ると、助けようとこちらに駆け出す。しかし、先ほど投げ飛ばされた男がその隙をついて彼女の腕を羽交い締めにし、ミィアは押さえつけられてしまった。


「いってぇ……さっきは、よくもやってくれたな! これはたっぷり楽しませてもらわないとなぁ!」


「離して!」


 彼女は必死にもがくが男の方が力は強く、抜け出せない。そこに先ほど彼女に殴られていた男も来て刃物を取り出し、彼女の首に突きつける。


「へへへ。それじゃあ、まずはご開帳といきますか」


「いや……」


 男は怯える彼女の服に刃物を突き立て、ゆっくりと服を切り始める。あんなに楽しそうに笑っていた彼女の恐怖に怯える表情を見て、俺は刃物を首に押し当てられているのも忘れるくらい頭に血が上り、暴れながら


「おいやめろ! お前ら子供を辱めて楽しいのかよ。このロリコン!」


と叫んだ。

 すると、俺を押さえる男が俺を地面に叩きつけ、再び押さえ直して鼻で笑った。


「ハッ、お前、何言ってんだ? ……てかお前、見たことない種族だな。オークに似てるが……まさか、そのナリで女なのか?」


 またも女と間違われた俺は、さらに頭に血が上り


「だから俺は男だ!」


と叫んだ。

 だがその時、俺の咆哮に男が一瞬怯んだのか、叫びながら暴れると俺は男の腕から抜け出せた。俺はそのままの勢いでミィアの方に突っ込んでいき、驚いて振り返った刃物を持った男の顔を怒りを込めて殴りつける。とっさのことに対処できなかったのか男は思いっきり吹っ飛び、そのまま地面に伸びてしまった。


「チッ! この野郎!」


 俺を押さえていた男が一人伸びたのを見て、慌てて俺に背後から襲いかかってくる。だが、吹っ飛んだ男にあっけにとられた男の気が緩んだ隙に、押さえられていたミィアは羽交い締めからすり抜け、俺に襲いかかる男を蹴り飛ばした。形勢は逆転し、二人がやられ三対二の有利な状況から一転、一対二になった。伸びた二人を見て勝ち目がないと悟ったのか、残った男は二人を置いて一目散に逃げていってしまった。


 男たちがいなくなった後、とりあえず彼女を家まで送ろうと、俺はミィアと一緒に彼女の家に向かって歩いていた。だが、酷い目にあった俺たちは特に会話をすることなく、無言で歩き続けている。時折見える、彼女の暗く落ち込んだ顔を見ると胸が痛む。静寂に耐えきれなくなった俺は腹をくくると立ち止まり、彼女に向かって頭を下げる。


「ごめん! 俺が君を図書館に、街に連れて来なければこんなことにはならなかった。見ず知らずの俺に優しくしてくれた君に甘えてたんだと思う。本当に申し訳ない」


 だが、少し先を歩く彼女は同じく立ち止まると、前を向いたまま


「ううん、タカは悪くないよ。図書館に行こうって言い出したのも、こんな遅くまで時間が掛かっちゃったのも、私のせいだもの」


と逆に彼女も謝った。


「そんなことはない! ……実は俺、こことは別の世界から来たんだ。だから多分、この世界にいない種類の人間なんだ。もし、最初から素直に君にそう打ち明けていれば、こんなことにはならなかった。ただ、君の厚意に甘えてこの世界のことを知りたかっただけなんだ……だから、悪いのは俺なんだ……」


 自分が別世界の人間だと誰かに教えるつもりはなかったが、今、彼女にそれを伝えないときっと後悔すると思った。俺が嘘をついた所為(せい)で、彼女を傷つけてしまったのだから。


「別の世界……そうなんだ。だから本にも載ってなかったんだね……じゃあ、一つお願いを聞いてくれる? そうしたら正体隠してたこと、許してあげる」


「わかった。なんだって言ってくれ!」


 彼女に許されるのなら、どんな無理難題だってこなしてみせる。だが、そう意気込んだ俺に彼女がお願いした内容は、至って簡単なものだった。


「私のこと、ミィアって呼んで。(きみ)ばっかりで、まだ名前で呼んでくれたことないよね」


「えっ、そんなことでいいのか?」


 あまりに簡単なお願いに、正直面食らってしまう。だが、彼女は前を向いたまま


「呼んでくれなきゃ、許さない」


と言い三、二、一とカウントダウンをし始める。

 突然のカウントダウンに慌てながらも、俺は意を決して


「ミ、ミィア! 本当に君に辛い思いをさせてしまった。すまない!」


と今度はミィアの名前を呼びながら、再び頭を下げた。

 すると、ミィアはこちらを振り返り、いつものキレイな笑顔でこう返した。


「ありがとう。私、誰かと楽しく話したのなんて久しぶりだった。一緒に街を廻ったのも楽しかった。服を脱がされそうになった時、タカが助けてくれて嬉しかった。だから謝らないで。今日一日で、こんなにたくさんの幸せな気持ちにさせてくれて、ありがとう」


 そういうと、ミィアは涙ぐみながら俺に笑いかける。

 美しかった。幸福という言葉をそのまま体現したかのようなその笑顔はきっと、俺の中で永遠に一番に輝き続けるのだろう。

★ ということで、初バトル回でした! といってもほとんど闘ったのはミィアちゃんで、今回は大して活躍できなかったタカくんでしたね。それでも色々な事を経験した二人は、ほんの少し仲良くなることができたようです。

次話は、この世界のミィアちゃんに関する衝撃の事実が判明します! 地味〜に今話の中に伏線があるので、色々予想してみてくださいね!

では次話をお楽しみに!

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