第4話 -知識II-
★ あけましておめでとうございます。いかがお過ごしでしょうか? ちなみに私はお雑煮によく入っている柚子の皮(柑橘系の皮全般)が苦手なので入れずに食べています。
それでは本編へどうぞ!
薬を塗り終えた俺は、再びミィアに連れられて今度は近くの街に来ていた。もちろん、目的は図書館で色々とこの世界についてを調べることなのだが、何故だか一向に図書館に着く気配がない。それというのも、街に着くなり彼女が道具屋で買い物がしたいだの、昼食をとりたいだの、あっちこっちに寄り道しているからだった。ちなみに昼食は奢ってもらった。
「あの〜そろそろ図書館に行かないか?」
さすがにしびれを切らした俺が催促すると、彼女は申し訳なさそうに謝る。
「ごめん、ごめん。つい楽しくなっちゃって。誰かと一緒に街を廻るのなんて、久しぶりだから色々見てまわりたくなっちゃったの」
だが、謝る彼女の表情はどことなく明るい。
(そういえば、俺も女の子と一緒に買い物したり、食事するのなんて久しぶりだな。てか、人生で一度も無いかも……なんか、デートみたいだな)
心の中に浮かんだデートというワードに、ドクンと心臓が高鳴るが、無い無いと自分に言い聞かせ
「そ、そうだな。俺も誰かと出かけるのは久しぶりだったから楽しいよ」
と照れながら彼女に言った。
それを聞いた彼女は、自分に共感してくれたのがそんなに嬉しかったのか、満面の笑みを浮かべながら、そうだねと俺に笑いかけた。その笑顔がまたもや俺のベストスマイルランキングを塗り替え、あまりの純粋な笑顔に俺は顔を赤らめながら
「ほ、ほら、さっさと図書館に行くぞ!」
と言い放ち、そそくさと歩き始める。
だが、
「タカ、図書館はそっちじゃないよ」
という彼女の声に、俺は渋々Uターンするのであった。
図書館に辿り着いた俺たちはそれぞれ必要な本を探して一旦、別行動することにした。
しかし……俺の世界では図書館とは静かな場所というイメージが強いが、どうやらこの世界には図書館では静粛に、というルールはないらしい。普通に子供達は走り回っているし、テーブル席では色々な種族の人々がワイワイ会話を楽しんでいる。
また一つ、自分の世界との違いを見つけた俺はもう一つの違いに困っていた。
「字が読めん……」
図書館に来たはいいものの、字が読めないのでは意味がない。どうやらこの翻訳機は、字の翻訳まではしてくれないようだ。俺は早々に解読を諦め、ミィアと合流するためにその場を離れた。
ミィアと合流した俺は、一冊の本を中心に彼女と向かいあって椅子に座っている。どうやら、この世界の歴史などが書かれた本らしい。
「実は俺、字が読めないんだけど君は読めるの?」
中々分厚い本だし、小中学生には難しい内容が書かれているかもしれない。だがそんな心配をよそに彼女は
「大丈夫! これでも私、ちゃんと学校に通ってるから大体の字は読めるよ」
と自信満々に本を開いた。
彼女の読み聞かせてくれた本の内容をいくつか掻い摘んで説明すると、この世界の名前はモラカトレアといい、文明水準は日本で例えると明治時代辺りのようだ。
高い知能を持つ種族が多くおり、昔から種族間での争いが絶えなかったらしいが、数百年前に万能翻訳機が発明され、今まで意思疎通のできなかった種族間での会話ができるようになり、種族同士の争いが徐々に終息していったという。ただ、長年戦争をしてきた種族同士が簡単に和解できるはずもなく、一部地域や種族によっては今でもいざこざが絶えないらしい。そんな中でもここ、ザパルク地方では比較的種族間の争いが少なく、皆仲良く暮らしているのだそうだ。
戦後間もない頃、平和条約を結んだ種族達で協力して共通文字を作成し、それを学ぶ機関として各地で学校が建てられた。この街にもザパルク唯一の学校があり、自分もそこの学生だとミィアは鼻を高くして自慢している。どうやら学費はタダらしい。
なるほど、そういうことか。道理で本を読む場所である図書館が騒がしいわけだ。国は学費をタダにしてまで共通文字を学ばさせようとしているようだが、出来たばかりの共通文字を読める人はまだ少なく、しかも図書館の本は差別撤廃のため全てが共通文字で書かれていて、本を読む人が少ない。だから名目上は図書館ではあるが、実際は人々の憩いの場になってしまっているのだろう。
多くの言語が言葉という技術の進歩に繋がった反面、逆に文字という文化の遅れを生じさせたということか。皮肉な話だな。そんなことを考えていると、本は色々な絵の書いてあるページに行き着いた。
「あ、このページに各種族の特徴が書かれているよ! タカの種族も、ここになら書いてあるかもね」
そういうと、彼女は一つずつ種族の特徴を読み上げていく。
「まずはネコ族。三角の大きな耳が特徴。身体能力が高く、身軽で足が速い人が多い種族。これは違うね」
まあ、俺には猫耳生えてないしな。
「次はイヌ族だね。垂れた耳が特徴。比較的力が強く、頭のいい人が多い種族。これも違う」
これでも中学まではサッカーをやってたが、引きこもり生活でだいぶ筋肉も落ちたからなぁ。あと頭もあまりいい方ではない。
「これは……ウサギ族。細長い耳が特徴。優しい性格の人が多い。また、高い跳躍力を持つ人が多い種族……というか、どれもタカに全然似てないね。特に頭のあたりが」
さすがに読むのに疲れたのか、彼女は絵を見てざっくばらんに結論付ける。まあ確かに絵を見る限り、どの種族も頭に耳や角など何かしらついているようだ。俺みたいな耳の種族は、この世界にいないのだろうか。このままでは俺が別の世界の住人だとバレてしまう。だが、ミィアが何気なく開いた次のページを見た彼女は嬉しそうな声を上げる。
「あ! これ、タカに似てない? 耳の形がそっくりだよ!」
彼女は一つの絵を指差す。それは確かに俺と同じような耳をしているが、下顎の鋭い歯が二本、口からはみ出るほどでかい、いかつい男の絵だった。
「えーと、オーク族。顔の横についた小さな耳と大きな下顎の犬歯が特徴。大きいもので三メートル近くする大柄な体で、恐ろしく力持ちの種族。うーん、タカってそんなにデカくないよね。それに歯も飛び出るほど大きくないし……違うのかな」
オークか。これまたファンタジー感ある種族だな。だが、確かに俺は三メートルの巨漢ではないな。しかし、彼女は隣の絵を見て、その説明も読み上げる。
「あれ? こっちの女性の絵もオーク族みたい。なになに……体の大きいオーク族の男性とは違い、オーク族の女性は小柄な体格の人が多い。また男性とは違い犬歯は口からはみ出るほどは大きくはない。ただし、力は男性に負けず劣らず強い。オーク族は元々、余り会話をする種族ではなく、また争いを好む傾向があったため言語があまり発達しなかった種族、だって。もしかしてタカって、その見た目で女性だったの?」
うん、確かに大きくはないし耳も同じだ。ということは、俺は女オーク……
「んな訳あるか! 俺はれっきとした男だ。証拠にさっきから、何度も君にド……!」
……危なかった。あと少しで自分からロリコン宣言するところだった……
「さっきから私に?」
「な、なんでもない! とにかく、俺は女じゃないしオークでもない。後の絵を見ても、俺に似ている種族はいなそうだし、そろそろここを出ないか?」
慌てて話題を変えようとした俺は、外がいつのまにか夕方になっていることに気づく。同じく外の様子に気がついた彼女も
「もうこんな時間なんだ。そうだね、あとは古代族くらいだけど、どんな姿か誰もわからないし……第一、現代にいるわけないよね」
と言いながら、本を元あった場所に戻しに行った。
★ ということで、2話に分けての投稿となりました、-知識-はここまでです。この回でタカくんのいる世界の、大体のことはわかっていただけたと思います。これからタカくんとミィアちゃんはどうなるのでしょうか!?
ちょっと血の気が多くなりそうな次話をお楽しみに!