第5話 -就活II-
「さて、わしらがなんの仕事をしているのか、まだ言っていなかったな。君も先月、うちの団員の一人と会っているはずだ。覚えているかね?」
先に入って個室の中に設置されている椅子に座っていたムォウは、俺が向かいの椅子に座るのを見ておもむろに話し始めた。先月……確かミィアが誘拐された頃だ。となると反抗軍か? いや反抗軍とは敵対しているようだったし、第一そんな危険な人物がここでこんな好待遇を受けているはずがない。となると後はミィアを助けた後に事情を聴きに来た……考え込んでいた俺はハッと気がつく。それを見たムォウはニヤリと笑うと続きを話し出した。
「そう、わしらは自警団という市民を守る仕事をしている。わしはそこのザパルク地方担当の団長でな。主に街の警備などが仕事だが、場合によっては大きな事件の対処などもする。このあいだの学校襲撃事件での君のようにな」
なるほど、自警団の人だったのか。道理で帽子を被った状態で俺だとわかったわけだ。おおかた、事情を聴きに来た団員から俺の特徴を聞かされていたのだろう。だが自警団、警察のような集団でも警戒すべきだろう。学校襲撃や街外れの倉庫での件を知っているのなら、ある程度俺が人並み外れた強さを持っていることを知っているだろうし、俺が男である以上俺のような見た目の種族がこの星にいないことはわかっているはずだから、下手したらウォン先生が言っていたように解剖、あるいは軍事兵器として利用されるかもしれない。
「それで、俺に自警団に入れと? 一体何が目的ですか?」
俺はムォウを睨みつけ、強い口調で目的を聞く。だが、ムォウは俺が警戒するのを最初から分かっていたのか両手の指を机の上で組み、真面目な顔で俺の目を見ると話し始めた。
「君の懸念はわかる。君がどういった存在で、なんの目的を持っているのかはわからないが、わしは君に何も聞かないし、何もしない。ただ、君が学校を救ったことと反抗軍の誘いを断った。それだけで、君を自警団に誘う理由としては十分だ。それに、わしも昔は軍にいた。君のような異質な存在に国がなにをするかは大体予想がつく。また、一つの国に戦力が偏ることは戦争の火種となる可能性が高い。そんなことをわしは望んではおらんし、むしろ平和な今が長く続くようにこうやって自警団をやっている。それに、君にとっても悪くない話のはずだ。見たところ仕事を探していたようだし、自警団に入れば君を守ってやれる。民間とはいえ世界中に広がる大規模な組織だ。ここにいれば国に目をつけられても簡単には手を出せないはずだ。どうだね? うちに来ないか?」
話を聞く限り、ムォウは俺をどうこうするつもりはないらしい。ただ、純粋に平和のために俺の力を借りたいようだ。確かにムォウの言うことには一理ある。学校襲撃の件といい、すでに俺はここで目立ち始めている。いくら素性を隠しても、いずれは国に目をつけられるだろう。そうなる前に自警団に入ってその加護を受けておいた方がいいのかもしれない。お金も手に入るし。ムォウの話を完全に信じたわけではない。罠かもしれないし、何かされるかもしれない。だが、今はこれが最善の選択だろう。
「……分かりました。あなたの言葉を信じます。あなたが俺に何も聞かず、何もしないと言うのなら、ぜひ自警団に入団させてください!」
「おお! そうか、入ってくれるか! 君のような強い人が入団してくれるとは有難い。もちろん、さっき言ったことは必ず守ろう。それで仕事の内容なんだが、基本的には街の警備が主な仕事なのだが特にノルマなどはないし、できる範囲でかまわん。ただ、大きな事件の際は招集をかけるので、それには必ず応じてくれ。そんなところだ。質問はあるかね?」
ムォウがそう言うと、俺は首を横に振り、それを見たムォウは入団届けの紙を取り出すと俺に渡してきた。と言っても、特に契約云々が書かれているわけではなく『市民のために正義を尽くせ』と大きく書かれているだけで、後は『私は自警団に入団します』と書かれた下に指印を押すスペースがあるだけのシンプルなものだった。それに俺は指印を押し、ムォウに渡す。これで俺も晴れて仕事を手に入れ、自宅、他宅に続いて市街警備員にアップグレードしたということか。まだまだ不安が残っているが、ひとまず目的は達成できたということにしておこう。
★ ついに、タカくんが仕事を手に入れました! 第1章からちょくちょく出てきた自警団。今話でその正体が明らかになりました。果たして、自警団とはタカくんにとって味方となるのか、敵となるのか……