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第9話 -兄貴II-

「なゼだ……なんでジャマをする、クゥ! ソイツはニセモノなんダゾ!?」


 クプゥに邪魔をされたブゥキは再び足を踏み鳴らしながら、怒り狂ったように怒鳴り散らした。だが、クプゥは泣きそうになりながらも必死にブゥキの前に立ち、俺を(かば)う。


「にぃもにぃにもケンカ、ダメ!」


 そういうと、クプゥは小さな体を目一杯広げて俺とブゥキの間に立ちふさがる。


(にぃもにぃにも……か。そうか、そういうことだったのかクプゥ。全く、とんだ策士だよお前は)


 クプゥの思惑に、想いに気づいた俺はわずかに笑みがこぼれる。だが、怒り狂ったブゥキは肩をがっくり落とすと独り言のようにブツブツ言い出した。


「ナぜだ……なぜダ、ナぜダ、ナゼダ! どうシテ、コンなにアイしテいるノニ、ボクを裏切るンだクプゥ! ボクはキミに会うためニ、下卑たヤツらに媚ビ(へツラ)イ、肉体サエモイジラレ、ここマデ生き延びてキタノニ……」


 独り呟いていたブゥキだったが、やがて俺の方に向くと虚ろな、しかし奥底に憎しみの炎を燃やした目でこちらを睨みつけた。


「アンタか……アンタがボクからクゥを奪ったンダな!? ユルサナイ……クゥはボクの、ボクダケのモノダァァァ!」


 そういうとブゥキは、クプゥに構わず俺に向けて左手の大砲を構える。弾はもう残っていないはずだが嫌な予感がする。俺はクプゥを掴むと思い切りブゥキから離れた。次の瞬間、ブゥキの左手の筒から炎の渦が噴き出し、あたり一面を火の海に変える。そんな隠し球まで持ってるのかよ。今の攻撃、完全にクプゥを巻き込むものだった。自分のものにならないのなら、いっそ壊してしまおうというわけか。こいつは肉体をいじられたのと同時に、心まで壊されてしまったんだな……ブゥキはただ、クプゥに、妹に会いたかっただけなのに……


「にぃに?」


 (うつむ)く俺にクプゥは心配そうに話しかける。全く……ブゥキ、お前の妹はとんでもないやつだよ。初めは本当に似ていたから俺を兄だと思ったのかもしれない。でもクプゥ、君は最初から俺が兄じゃないってわかっていたんだな。ブゥキのことは『にぃ』、俺のことは『にぃに』と呼んだ。それが何よりの証拠だ。今思えば確かに違和感を感じたことがいくつかあった。初めて会った時、クプゥは自分のことを『クプゥ』と名乗った。でも、ブゥキはクプゥのことを『クゥ』と呼んだ。本当は一人称も『クゥ』なんだろう? 一度だけ、とっさに自分のことを『クゥ』と言っていたしな。でも、そんな嘘までついて俺にすがったのは独りで寂しかったから。反抗軍に勝った俺なら、自分も救ってくれるのではないかと……頼られた以上、クプゥを救ってやりたい。だがそれにはまず、君の兄貴を救ってやらないとな。


「クプゥ、言い遅れたが俺は君の兄貴じゃない。嘘ついて悪かったな」


 そう言いながら俺は被っていた帽子を脱ぐ。クプゥは少し驚いた様子だったがやはり分かっていたのか、耳をしならせながら


「クゥもウソついてごめんなさい」


と俺に謝った。

 そんなクプゥの頭を撫でると俺は再びブゥキと対峙する。


「ああ、わかってる。ただ、最後に一つ教えてくれないか?」


「なに?」


「お前の知っている兄貴はここにいるのか? お前の大好きな兄貴を救うには、俺はどうすればいい?」


 俺の質問の意味にすぐに気づいたクプゥは真剣な顔になると大きく息を吸い込んで叫ぶ。


「にぃに、がんばれ!!!」


 その言葉を聞いた俺は僅かに笑うとブゥキに向かって走り出す。ブゥキは再び俺に大砲を向けると炎の渦を放った。だがその瞬間、俺は一気に加速してブゥキの(ふところ)に飛び込むとその腹めがけて平手打ちを撃ち込んだ。その衝撃でブゥキの胴の機械は砕け散り、四肢の機械や金属もバラバラに壊れて吹き飛んだ。後に残ったブゥキの僅かな生身の身体は支えを失いその場に崩れ落ちる。もう、身動き一つできない状態だった。そんな兄にクプゥは抱きつくと泣きながら


「にぃ、ごめんなさい、ごめんなさい」


と謝り続けた。

 そんなクプゥを見て息も絶え絶えなブゥキはそっと微笑むと穏やかな表情でクプゥに話しかける。


「クゥ……ああ、泣かないでおくれ。ボクの可愛い大切なクゥ。ボクはダメな兄だね……あの日、泣きながら一人逃げていく君をみてもう二度とクゥを泣かせないと、なんとしても生きて君を幸せにしたいと、そう誓ったのに。君をまた泣かせてしまった……ごめんよ、クゥ」


 ブゥキはそう言うと、今度は俺の方を向き


「アナタにも酷いことをしました。申し訳ない。アナタのおかげで最期に正気を取り戻せました。ですが、ボクはもう長くはありません……不躾(ぶしつけ)なお願いだとはわかっています。ですが、妹のことをどうかお願いします……」


と頼んできた。

 俺はそれに小さく頷くとブゥキは優しく微笑み、そしてそのまま息を引き取った。

★ クプゥちゃんは実はタカくんが兄ではないと知っていました……そして、読み返してみて思ったんですが、読んでると意外にタカくんが帽子を被っていたことを忘れてしまいますね。最後の方の帽子を脱ぐシーンで「あ、そういえば帽子被ってた」とつい呟いてしまいました。

次話は第2章、最終話になります! 大半はタカ視点なのですが、最後に少しだけミィア視点もあります。

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