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最終話 -孤独-

★ 空宙の流星 第1章、最終話です。今話のメインはミィア視点ですが、後半は少しだけタカ視点となっております。

それでは、本編へどうぞ!

 気を失ってから、どれくらい時間が経っただろうか。重い瞼を持ち上げた私の視界に映ったのは、見たことのない天井だった。


(ここはどこだろう。確か、私は死にかけて……もしかして、ここは天国?)


 そう考えた私だったが、頭の痛みとともにタカの言葉が蘇る。


(天国は、神様がいて、天使がいて、人がいて初めて存在するんだ。でも、この星には神様がいない。だから、ミィアが死んでも天国には行けないんだよ)


 そうだ。タカは、私は天国に行けないと言っていた。ならここは……

 私は横になったまま、ゆっくりと顔を左に向けた。周りには、いくつかのベッドが等間隔に並んでいる。そして、自分もそれらと同じベッドに寝ていることに気がついた。


「ここは、病院……?」


 そう言った私は、自分の声が酷く小さな(かす)れ声になっているのに気づく。意識がはっきりするにつれ、身体中がひどく痛み、体力も落ちているのを感じた私は右手に何かを握っていることに気がついた。今度は右にゆっくりと頭を動かす。

 暖かな陽の光を僅かに遮る薄いカーテンが、開かれた窓から入り込む穏やかな風に煽られて静かに揺らめいている。その傍らには、私が守りたかったものが同じく髪をなびかせながら、小さな寝息を立てて座っていた。よかった。無事だったんだね、タカ。そして、自分が握っているのがタカの手だということに気がついた。正確には、タカが私の手を握っていたのだが。


「タカ……」


 掠れて出ない声を振り絞り、私は彼の名を強く呼ぶ。それに気づいたのか、タカはゆっくりと目を覚ました。


「ん……ミ、ミィア! 気がついたのか! よかった……今、医者を呼んでくるよ」


 気がついた私を見てタカは、嬉しそうに席を立つ。だが、今度は私が彼の手を強く握ると、小さく首を横に振り引き止めた。


「もう少しだけ……そばにいて。今、自分が生きているって実感したいの」


 それを聞いたタカは微笑むと、わかったとだけ言いそれきり私が手を離すまで、再び椅子に座るのだった。


 後から聞いた話だが、私の怪我は相当酷かったらしく、あとほんの少しでも遅れていたら助からなかったらしい。タカはなにも言わなかったが、看護師の話によるとボロボロのタカが私を背負って病院に駆け込んできたのだそうだ。そのおかげで手術は無事成功し、完治するまでこの病院にしばらく入院することになった。

 そんな入院生活のある静まりかえった夜、私はタカに大事な話があると病院の小さな中庭に連れてこられていた。二人で中庭に設置してあるベンチに座ると、タカはおもむろに空を見上げる。私もタカにつられて天を仰ぐと、そこには満点の星が広がっていた。キラキラと輝く星々を眺めていると、タカは空に向かって腕を伸ばし、何かを掴もうとするように手をひらく。


「ミィアは数年前に帰還したロケットに記録されていた、写真に写る惑星の話を知ってるか?」


「そういえば、聞いたことあるよ。生物がいるかもしれない星だって結構話題になってた。それがどうしたの?」


 私はタカの質問にそう返すが、タカはそれに答えようとはせず、夜空を見つめたまま短い沈黙ののちに再び私に質問をしてきた。


「なあミィア、この前俺がどこから来たか話した時のこと、覚えてるか?」


 タカの質問に一瞬ドキッとする。もしかして、もう……


「う、うん覚えてるよ。タカは別の世界から来たんだよね」


 そう答えた私の中で、あの物語が流れ出す。もしタカがそうなら、その時がもう来てしまったのだろうか。不安に思った私は(うつむ)きながら、タカの(そで)をそっと(つか)む。だが、それに気づかないタカは空を見上げたまま、頬を掻くと苦笑いしながら話し出した。


「それなんだけど、実は勘違いだったんだ」


「え? どういうこと?」


 想像していた話とは違い、私は咄嗟(とっさ)に聞き返してしまう。だが、タカはそのまま続きを話し始めた。


「さっき言った星、地球って言うんだけど、そこには本当に生き物がいて、文明を築けるだけの知能を持った動物がいるんだ。俺はそいつらの一人で、そこから来た。つまり、俺は同じ世界の遠い宇宙の先から、偶然なにかの間違いでこの星に来てしまった哀れな遭難者だったってわけだ」


 そういうと、タカは恥ずかしそうに頭を掻いた。それを聞いた私は一瞬驚いたが、自分の考えが杞憂(きゆう)に過ぎなかったと知り、思わず笑いがこみ上げる。


「ぷっ……ふふふ……あははははっ」


 初め、笑いを我慢していた私だったが、自分のあまりのバカさ加減と嬉しさのあまり、声を上げて笑ってしまう。急に笑い出した私を見て、タカは困ったように


「なんだよ。俺が単なる迷子だって知って、そんなにおかしいかよ」


と気恥ずかしそうにそっぽ向いた。


「ごめん、ごめん。そんなことないよ。ただ、嬉しくって」


「嬉しいってなんでだよ。俺はただの一般人で、望まれてこの星に来たわけじゃないんだ。何かできるわけでもないし、今回だってたまたま運良くミィアを助けられただけだったし……」


 恥ずかしそうに視線をそらしていたタカだったが、ベンチの背に力なくもたれかかり再び空を見上げる。やっとのことで笑いが治った私は一息つくと同じく空を見上げ、そのまま目を閉じた。


「そうだね。でも、たまたま運がよかっただけだったとしても、タカが私を救ってくれた事実だけで私は嬉しいよ。それにね、私、勘違いしてたみたい。昔、お母さんが元気だった頃、よく聞かせてくれたお話があるの」


「へー、どんな話なんだ?」


 タカがそう聞くと、私は閉じた瞼の暗闇の中、あの日のお母さんの声を思い出す。そして、ゆっくりとその物語を語り始めた――


         ――★★★――


「――おしまい」


 女の子と少年の物語を語り終えたミィアはスッと目を開けると、俺を見つめ話を続ける。


「そして、お母さんは私がいつか寂しいって思う日が来たら、救世主が来てくれるって言っていた。それからタカと出会って、楽しい思い出や友達なんかも出来て、私はタカのおかげで幸せになれた。だから、きっとタカは私の救世主で、私が救われた今、いなくなっちゃうんじゃないかって不安だった。でも違った。タカはただの遭難者で、私の心の声を聞いて来たわけじゃなかった。タカは居なくならないって思った瞬間、嬉しくて、そんなこと考えてた自分がバカらしくなって、つい笑ちゃったんだ」


 そう言って笑うミィアの目から、いつのまにか涙が流れていた。そんなミィアを見た俺は彼女の頭にそっと手を置くと、瞳を閉じて静かに笑う。


「そっか……世界を救うために呼ばれたわけでも、主人公になったわけでもない。ましてや、女の子を救う救世主でもない。誰にも望まれずに流れ着いてしまったただの引きこもりでオタクな遭難者の俺を、そうだったからこそ嬉しいと笑ってくれる人もいるんだな……俺はそれだけで、この星に来て良かったと思えるよ」


 この星に来て、最初に出会ったのがミィアでよかった。ミィアがいなければ、俺はこの現実を受け入れられず、オルガに殺されていただろう。

 俺がミィアの頭から手を退けると、顔が真っ赤になったミィアはさっと立ち上がった。


「そ、そろそろ戻らないと! タタタ、タカ、またね」


 彼女は正面を向いたまま、俺にそう手短に声をかける。そして、その場から逃げるようにミィアはそそくさと屋内に戻っていった。


 ミィアの姿が見えなくなり、俺は一人中庭に取り残されてしまった。だが、俺はベンチに座り続け、自分の胸に手を当てる。先程ミィアが語った物語を聞いた俺は、あることに気がついていた。そうか……そういうことだったのか。あの時の胸を締め付けられる感覚。あれは“孤独”だったんだ。この星にはたくさんの人が住んでいる。けれど、ここには俺と同じ“人間”は居ない。この空の何処かにある地球では、今も大勢の“人間”が忙しなく動いているのだろう。けれど、俺の手は決してそこには届かない。俺はこの星で今、本当に孤独なんだ……俺は胸に当てた手をぎゅっと握ると、力なく(うつむ)き弱々しく笑う。


「ははは……これが本物の孤独か……ここまで苦しいものだったなんて。心の孤独とは比べ物にならないな……」


 だが、俺しかいないひとりぼっちの中庭で、静かに響く苦しげな笑い声を聞くものは誰一人としていなかった。遥か彼方、空宙(くうちゅう)に浮かぶ()の星も、そんな俺を知ってかしらずか何も変わらず、ただ日常を静かに廻っているだけだった。



        ――空宙(くうちゅう)流星(ソリチュード)・第一章 完――

★ 空宙の流星 第1章、これにて終了です! ここまでお読み頂いた皆様に感謝しています! 最後は悲しい終わり方でしたがこれには訳がありまして、というのも元々この小説を書こうと思ったのは筆者が見た一つの夢に起因しています。

その内容は、どこにでもあるような普通の街並み、普段自分たちが目にする光景と変わりない中に見たことのない、けれど制服を着た親しげなおそらく学友たち。その人たちと仲良く歩いている自分がいました。けれどふとそこは自分のいる地球ではなくて遠い星の、地球と同じような文明を持つ星だということを思い出します。その時、自分の普段いた場所が、大切な人たちが遙か彼方の二度と戻ることのできない場所にあると感じ、胸を締め付けられるような、悲しい感情が込み上げてきました。ああ、これが孤独なんだなと思いました。世界中に何十億人という人間がうごめく現代、特に平和な日本では本当の意味で孤独になる人は数少ないと思います。筆者はこの感覚を他の人にも感じてもらい、人間にとって孤独とは独りとは辛く寂しいものだということを知ってもらいたいと考え、この小説を書きました。そんな中、このように異世界転移もの風に書いたのは、もし本当に異世界に召喚されたら主人公もちょっとくらいは元の世界を恋しく感じるんじゃないかと思い、また異世界召喚のように何か目的があって呼ばれたものと違い、偶然しかも別の星に飛ばされ世界を救うためでもないただ迷い込んだだけの一般人、というのを強調したかったのです。

というわけでこの小説を書き始めたのですが、第1章が思ったより長くなりました。第2章はもう少し短くなると思います。また、第2章投稿は少し時間をおいてからするつもりですので大体3~5日くらいおいて投稿すると思います。

長くなりましたが第1章に続き空宙の流星 第2章の方も引き続きよろしくお願いします。

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