第11話 人-
「な、何事だ!?」
あまりの音と揺れにウォンは保健室から廊下に飛び出し、辺りを確認する。ウォンに続いて保健室から出た俺も事態を把握するべく、走ってきた生徒に事情を聞くため声をかけた。
「ちょっと君、一体何が起きたんだ?」
だが、怯えた表情の生徒は
「オークが……! 早く逃げないと!」
と言い残し、そのまま走り去っていってしまった。
オーク……図書館の本で見たな。でかくて、強いんだったか。そのオークがこの学校にいる? さっきの爆発と何か関係がありそうだな。ミィアは無事だろうか。そんなことを考えながら、ウォンと一緒に爆発音の聞こえた方に走っていく。やがて反対方向に走ってくる生徒や教師の数が増えていき、そして、ある教室にたどり着いた。
「ウガァー! オマエ、シネェェェ!!」
雄叫びとともにそこにいたのは、確かに図書館の本で見たオーク族だった。背丈は二メートル近くある。
「きゃあああ!」
そんな大男が大きな腕を振りかざし、女生徒に殴りかかっていた。俺はとっさに走り出し、後ろから聞こえるウォンの制止する声をものともせず、オークに殴りかかった。なにも、考えなしに突っ込んでいったわけじゃない。昨日のナンパ男を殴った時、最初は相手が油断していたから吹っ飛んだのだと思っていたが、そうじゃないのかもしれないという考えが頭の片隅に引っかかっていた。本当はもっと安全な検証をしたかったのだが、今はそんなことを言ってはいられない。そう決心した俺は、オークの腹にめがけて力一杯拳を放った。俺の拳に押されたオークは苦悶の声を上げる間も無く後ろへ吹き飛び、壁にめり込んだ状態で気絶した。やっぱり。ここではなぜか、俺は結構強いらしい。心なしか足も速くなった気がする。やっぱりさっきの写真は気のせいで、異世界に来た時に主人公特性として強くなったのかな。そんなことを考えていると、別の方からも叫び声が聞こえてくる。急いで声の元へ行き、俺はオークを次々と倒していった。
やがて、爆発があったとみられる壁の壊れた教室にたどり着いた俺とウォンは、多くの怪我をした生徒たちを目の当たりにした。急いで手当てを始めたウォンだったが、医療の知識のない俺は彼女に何か手伝えることはないかと聞く。少し考えるそぶりを見せたウォンだったがすぐに俺の顔を見ると、ある頼みごとをしてきた。
「今のところは、わたし一人で大丈夫そうだ。それよりもタカ君。君は強い。部外者の君に頼める義理がないのは承知の上で頼みたい。まだ校内にオークがいるかもしれないから、奴らを片っ端から倒してほしい。わたしも教師である以上、生徒たちを安全に帰す義務がある。もし君が望むなら、それ相応の対価を用意しよう」
そういうと、ウォンは俺に向かって深く頭を下げる。急いでウォンの顔を上げさせた俺は力強く頷いた。
「俺も自分がこんなに強いなんて今知ったばかりですから、どこまでできるかはわかりません。ですが、やれるだけのことはやってみます。対価は……そうですね。ではさっきの授業料ということで」
俺は冗談まじりにそう言うと、急いで残りのオークがいないか確認しに行った。ウォンは俺の走る背中を見つめると、微笑み呟く。
「うちの授業料はタダだよ」
★ なんとタカくんはオークを片手で吹き飛ばすほど強くなっていました! 正確にはちょっと違うのですが、それはまた追々と。
次話の前半は、ミィアちゃんとオルガの対決となります!