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第10話 実-

 屋上で出会った女教師に連れられて入った教室で俺は今、お茶を頂いていた。その教室は俺の知っている机の沢山ある教室とは違い、机は彼女の座っている席が一つと俺が座っている椅子があるだけで、代わりにベッドがいくつかあるくらいだった。


「そういえば、自己紹介がまだだったな。わたしはウォン。ここで養護教諭(ようごきょうゆ)をやっている。まあ俗に言う、保健室の先生というやつだ。ようこそ、私の教室へ」


 なるほど、保健室だからベッドがあるのか。確かに彼女の教室ではあるな。


「保健室の先生でしたか。でも、どうしてさっきは屋上にいたんですか? 病気や怪我で保健室にくる人もいるかもしれないじゃないですか」


「まあ、授業中は滅多に生徒が来ないってのもあるが、来ても薬はあるし、大丈夫かなと思ってな。よく、あそこで昼寝しているんだよ」


 ウォンは気恥ずかしそうに自分の頬を掻く。俺より少し背の高い彼女は、大人びた雰囲気でミィアに負けず劣らずの美人だ。見た目は二十代前半の若々しい感じがするがミィアのこともあったし、もしかしたらもっと歳上かもしれない。だが、それを彼女に聞くのは野暮というものだろう。


「意外と適当なんですね。ところで、この学校について教えてくれるんですよね? ここではどういったことを教えているんですか?」


 早速本題に入った俺に、ウォンはお茶を一口飲むと学校についての話を始めた。


「ふむ、そうだな。まず、この学校は本来、近年作成された共通文字を学ぶために建設されたものだ。だが、文字を学ぶだけでは勿体無いだろうと我々教師陣は考え、子供たちが将来より良い生活ができるように共通文字以外にも様々な授業を行なっているんだ。時に君、文字はどのくらい読み書きできるのかな?」


 ウォンはそういうと、一冊の本を俺に手渡した。表紙には色々な大きさの文字が書かれている。それらは図書館で見た本の文字によく似ていた。


「すみません。全くできないです……」


 俺は申し訳なさそうに苦笑いしたが、それを聞いたウォンは微笑む。


「まあ、そう落ち込むことはない。共通文字を読み書きできる人間の方が少ないし、もし君が読み書きできるのなら、最初から学校に来る必要がなくなってしまうからな。まあ、この学校に入るかどうかは君次第だが、多少理屈を分かっていれば後は覚えるだけの簡単なものだから特別にわたしが教えてあげよう」


 そういうと、ウォンは俺の首輪を指差す。


「まずはじめに、我々がその万能翻訳機のおかげで種族同士での会話が出来ているのは知っているな。だが、実際にはそれぞれの言葉を発しているわけだから、その発音に合った文字を使うわけにはいかない。だから共通文字は、どの種族の言葉にも属さない形式の文字を使い、その文字一つで一つだけの単語の意味を持つ。同じ文字を使いまわすことはない。(ゆえ)に、ひたすら単語を覚えるしかないんだ」


 ウォンはそこまで説明すると、今度は本の上部に大きく書かれた三つの文字を指差し


「ちなみにこれは、『近代』と読む。こっちは『科学』、でこれは……『進歩』だったかな」


と次々と読んでいった。


「そしてもう一つ、共通文字で重要なことがある。それは文法だ。共通文字は、基本的に助詞や接続詞が無い。覚える文字を少なくするという理由もあるが、多くの種族が使う文字、それぞれの種族の文法が同じであるはずがない。なら、全種族が読める文字を作るには文法自体を崩して、単語と単語を繋ぎ合わせて読むしかない。例えばさっき読み上げたこの三つの単語、『近代』、『科学』、『進歩』。これを読むとしたら『近代科学の進歩』という風に読めるわけだ。こういった単語と単語の上手なつなぎ合わせ方なんかも、学校で教えたりしている。とまあこんなところだ。理解してもらえたかな?」


 一通り説明し終えるとウォンは話し疲れたのか、ふぅと一息ついて再びお茶を飲んだ。


「はい、大体は。覚える量が多くて大変そうですね」


 苦笑いした俺は渡された本のページをパラパラとめくる。その中には幾つか絵の載っているページがあった。そこには何かの機械などが描かれている。


「そういえば『近代科学の進歩』って書いてありましたけど、この本は理科の教科書なんですか?」


 ふと、疑問に思ったことをウォンに聞くと、彼女はしれっと


「いや、それはわたしが暇な時に読んでいる雑誌だ。専門は生物学なのだが、たまにはそういうのを読むのも面白いからな」


と説明した。

 共通文字を教えるのだから、何かの教科書だと思っていた俺はとっさに


(雑誌かよっ!)


と心の中でツッコミを入れてしまい、再び苦笑いするのだった。


 それからというもの、俺は渡された雑誌のページを適当にめくっては絵の載っているページに書かれている文字をウォンに教えてもらい、その内容を理解するということをしばらく続けていた。教えてもらった文字をすぐに覚えるのは流石に難しいが、単語と単語のつなぎ方は何となくわかってきた。そんなことをしていると、やがてとある絵の載っているページに目が止まった。そこには丸い惑星が描かれている。モラカトレアだろうか。こっちの世界にも宇宙にいけるだけの技術があるんだな。


「上手な絵ですね。これはどういった内容なんですか?」


 先ほどまでと同じように、ウォンに質問をした俺だったが、予想外の返事が返ってきた。


「ん? それは絵じゃなくて写真だな。えーっと……ああ、そうだ。これは以前、ある企業が打ち上げた無人ロケットが撮影したものだ。一時期話題になったな。宇宙観測用に開発した定期的に写真を撮影し記録するロケットを打ち上げ、約二百年周期でモラカトレアに接近する彗星に固定した。そして約二百年後、戻ってきた機体に記録されていた写真に写っていた惑星を、解像度ギリギリまで引き伸ばしたのがその惑星だそうだ。科学者の見解では水と見られる物質が多く、生物がいる可能性は高いらしい。もしそうなら、我々以外にもこの宇宙に知的生命体が存在する可能性が出てくると、学者だけにとどまらず一般人にもかなりのブームになったな」


 一通り説明し終えたウォンは次の文を読もうと、ページをめくろうとする。だが、本の上に置かれた俺の手に邪魔されて、ページをめくることができない。


「タカ君?」


 怪訝(けげん)そうにウォンが見つめる俺の表情は、強張ったまま微動だにせず目は驚いたように見開かれていた。その目が見つめる視線の先には、宇宙のどこかで撮影されたという惑星の写真があった。ぼんやりとしか写っていないが左右にある大きな大陸、それ以外を覆う青い水のようなもの。確証はない。ぼやけているからなんとなく見たことのあるものに見えるだけかもしれない。そうやって自分で、頭の中に浮かんだバカな考えを否定しようとする。だが、どうしても俺にはその惑星が、“地球”に見えてしまっていた。

 もし、この写真の星が地球だったとしたら……もしそうなら、ここは異世界でも何でもない同じ世界、同じ宇宙の他の星だったということになる。もしここが異世界ではないのなら、ただ俺はあの時、隕石が地面に衝突した瞬間になんらかの原因で次元が歪み、この星に飛ばされただけだったのだとしたら。俺は主人公として、この世界を救うために呼ばれたわけではないということなのか。俺が結論付けた異世界論が、音を立てて崩れ始める。何がどうなっているのか自分でもわからなくなり、頭が爆発してしまいそうだ。

 だがその時、本物の爆発音と揺れが校内に響き渡った。間髪入れず、生徒たちの叫び声が聞こえてくる。ハッと俺は我に返るが混乱した頭は現状を理解しきれていない。とりあえず行動を起こそうと、俺は保健室から飛び出したウォンに続いて廊下に出たのだった。

★ ついに明らかになった真実……かどうかはまだこの時点では確証がありませんが、その答えを見出す前に何やら事件が起きたようですね。まあ、前半で犯人は大体わかっているんですけども。

次話は久々のバトル回となります! しばらくバトルが続くと思いますが、一章終盤の大イベントですので楽しんでいただけると嬉しいです! また、ここからは雰囲気を大事にしたいので、あとがきも書かない回があるかもしれません。

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