第8話 -学校-
★ 今回は前半がミィア視点、後半がタカ視点となります。そして、なんと今回は新キャラも登場します! 女の子ですがヒロインになるかどうかは未定です。
では、本編へどうぞ!
遠い過去の記憶。母との大切な思い出。彼はあの物語に出てくる少年に似ている。たった一日で私は、誰かと街を廻る楽しさや服装を褒められる嬉しさを彼に教えてもらった。お母さん、彼はあの物語の救世主なの? 私の心が寂しいって叫んだから、来てくれた? なら私が救われた時、彼は……
家を出た私は微かに笑みを浮かべながら、鼻歌交じりに学校へ歩いていた。タカと出会ってから、寂しいと思うことが少なくなったからだろうか。学校に行くのがこんなに楽しいと思ったことは今までにない。もっと勉強してタカにこの世界のこと、色々教えてあげなくちゃ。そんなことを考えていると、学校のすぐ前で私と同じ制服を着たネコ族の金髪の女の子が話しかけてきた。
「あら、ミィアさん、ごきげんよう。今日は貧相な貴女には似つかわしくない笑顔ですわね。何かいいことでもありまして?」
この子はミュウ。同じ学年の女の子で、お金持ちのお嬢様。プライドが高く、常に他者を見下している。特に、貧しい私を小馬鹿にしては意地悪をしてくるのだ。
「ミュウさん……別に大したことはないよ。ちょっと気分が良かっただけ。それじゃあ」
あまり一緒にいると彼女に何を言われるか分かったものじゃない。ただ、バカにされることだけはわかっているから早くこの場を離れよう。そそくさと彼女の横を通り抜けようとするが、案の定ミュウは突っかかってきた。
「お待ちなさい。このわたくしが挨拶して差し上げたのに、貴女は高貴なわたくしに一言も挨拶を述べずにこの場を離れるつもりなのかしら? 全く、これだから友達のいない貧乏人は……」
あまりの言われように私は、ちょっとばかり不快に思い
「ミュウさんだってボッチじゃない」
と言ってしまった。
「なっ!? 挨拶をしないどころか、わたくしを愚弄するだなんて! 貴女には罰が必要ですわね」
ボッチと言われたのが癇に障ったのか、ミュウは怒りながら私を叩こうと、手を上げる。
「うっ……」
叩かれると思い、私はとっさに目を閉じ身構える。
――パシッ
けれど、私の頬に痛みは感じず、不思議に思った私はそっと目を開くとミュウは手を振り上げたまま、後ろの男に上げた腕を掴まれていた。その男は私のよく知る人物だった。
――★★★――
家を出た俺は道すがら、学校への道のりを聞きながら歩いていた。やがて、たどり着いた学校の前でミィアが彼女と同じ制服を着たネコミミブロンドの女の子と話している。友達だろうか。だとしたら今、声をかけるのはやめておいたほうがよさそうだな。俺は物陰に隠れ、こっそり二人の様子を伺う。だが、ブロンドの女の子が急に怒鳴りだし、ミィアを叩こうと手を振り上げる。俺はとっさにブロンドの女の子の方に駆け寄り、振り上げた腕を掴んだ。
「タカ……」
俺に気づいたミィアが嬉しそうに俺の名を呼ぶ。だが、もう一人の女の子は俺に腕を掴まれて困惑したのか、暴れながら叫びだした。
「なんなんですの貴方!? 早く、その手を離しなさい! わたくしが誰か知っての狼藉ですこと!?」
あまりの剣幕に俺は、咄嗟に彼女の手を離す。すると、その手はブーメランのごとくしなやかな弧を描き、俺の頬に直撃した。だが、痛くもかゆくもない俺はそのまま彼女をじっと見据え
「女の子同士でも、手を上げるのは良くないな」
と静かに言った。
打たれたのにビクともしない俺を見て、恐れをなしたのか彼女は
「いったいなんなんですの貴方……お父様に言いつけてやりますわ!」
と捨て台詞を吐くと、走って学校の中に入っていってしまった。
「ミィア、大丈夫か? 怪我はなさそうだが……彼女と何かあったのか?」
「ううん、大丈夫。ちょっと言い合いになっただけだから……さっきは庇ってくれてありがとう」
ミィアは申し訳なさそうに笑いながら、打たれた俺の頬を撫でる。
「べ、別に痛くなかったし……それより、あの娘とは仲が悪いのか?」
「彼女はミュウ。クラスメイトなんだけど、いつも人を見下してる子で貧乏な私をよくバカにするの。さっきはそれでついカッとなって言い返しちゃったんだ」
そういうとミィアは、事の顛末を説明してくれた。
「そうなのか。確かに彼女、お嬢様って感じだったな。金持ちが大衆を見下すのは、どこの世界でも同じか……大抵、そういう奴らは1人の奴を狙って虐めてくることが多いから、ミィアもなるべく友達と一緒にいた方がいいよ」
俺はミィアにそう助言するが、彼女は苦笑いしながら
「アハハ……そうなんだけどね。私、口下手で友達いないから、なるべく関わらないようにするしかないんだ……」
と寂しそうに言った。
その顔が余りにも寂しそうで、ミィアのそんな顔は見たくないと思ってしまう。俺も日本にいた時はリアルの友達はいなかったが、俺の場合は自分の意思で学校にも行かず、孤独を望んでいた。だが、ミィアは違う。彼女は学校に通い、孤独は嫌だと心の底で思っている。なら、彼女にも友達との楽しい学校生活を送る権利があるはずだ。
……よし! それならまずは、世界の危機に比べたら小さいけれど、ミィアにとっては大きなこの問題を解決することから始めよう。俺は心の中でそう誓った。
「なあミィア、口下手だって言うけど、俺となら普通に話せてるよな? それと同じ感じでいれば、自然と友達だって出来ると思うんだが」
まずはミィアになぜ友達が出来ないのか、その理由を知って改善する必要がありそうだ。だが、俺と話している感じだと、彼女に口下手という印象は微塵も感じられない。
「それは……なぜかタカとだけは普通に話せるんだよね。自分でも不思議だけど」
昨日会ったばかりの俺が大丈夫なのは確かに不思議だが、今はそれよりも普段のミィアがどれほど人との会話が出来ないかが問題だ。
「その……そんなに話せないのか?」
「うん、会話の輪に入れないというか、誰かに声をかけるのが苦手で……」
なるほど。だが、そうなると対処法は二つしかない。まずはクラスの人気者で周りのよく見える子が、ミィアに明るく話しかけてきてくれること。だがこれには、ミィア自身もそのチャンスに乗れる度胸が無くてはダメだ。それに、そんないつ来るともわからないチャンスを待っていたら、いつのまにかボッチのまま卒業、なんてこともあり得る。なら、ミィアの取れる対処法はたった一つ。
「ミィア、友達がいないなら自分から積極的に作っていかなきゃ、いつまでも友達はできないぞ」
千里の道も一歩から。自分から踏み出さないとゴールにはたどり着かない。俺はそう言いたかったのだが、あまりのド直球な解決策に当の本人は少々機嫌を損ねてしまったようだ。
「それが出来れば苦労しないよ! でも、どうしても言葉が出なくなっちゃって……」
「そこを頑張って、勇気を出して声をかけてみないと。せっかくの学校なんだから、ミィアには友達と楽しい学校生活を送って欲しいんだ。俺と同じ心の孤独を感じなくて済むように……」
俺の励ましにミィアは少しずつやってみよう、という気にはなってきているようではあるが、やはりまだ自信が無いのか不安そうに耳を伏せる。
「でも、友達同士って何話すのかわからないし、なんて話しかければ……」
「それならミィアには、もう友達が一人いるだろ。それと同じようなことを話せばいいんじゃないか?」
俺は自信満々に自分の胸を叩いてみせる。一瞬自分に友達なんていただろうかと首をかしげるミィアだったが、すぐにその意味に気付くとクルッと踵を返し
「そ、そうだね……うん! 私、頑張って話しかけて、友達作ってみるよ。タカ、その……ありがとう!」
と言って学校の中に入っていった。
よかった、やる気になってくれたようだ。
(頑張れ、ミィア)
俺は心の中で彼女の事を応援する。
だが、俺は知らなかった。その時、彼女が顔を真っ赤に染めながら、嬉しそうに緩んだ表情を必死に堪えていたことに。
★ いかがだったでしょうか? なんだかんだで一章のプロットを作っていた時から、今話の内容には結構手こずっていました。もし読みづらかったらすいません。
次回からしばらく1話を2種類に分けての投稿になります。それぞれ、ミィア視点とタカ視点に分けて書くのですが、ふたつは大体同じ時間軸の話になるので話数は同じ、サブタイトルをふたつに分けるなどの工夫をしてみる予定です。