ありふれた二人の物語。
「おっぱいが大好きなんだよ」
「お前は一体何を言っているんだ?」
ある冬の日の夕暮れ。いや、夕暮れと言うにはまだ早い午後三時頃。祥吾は「三時のおやつにどうぞ」と言わんばかりのお手頃さで下ネタをぶっ込んできた。下ネタと言っていいレベルなのかという議論はこの際置いておくが……。
「だからさ、聞いてくれよ。こんな寒い寒い冬の午後。お前は何が恋しくなる? そう、人肌だよ」
「意見が反映されないどころか全部お前の意見だがとりあえず続けろ」
「ご理解感謝する。人肌といえばなんだ? そう、異性の肌のことだ。これは広辞苑にも載ってるからこれから言う人肌は異性の肌として扱うことにする」
「息をするように嘘を吐くな……お前広辞苑なんてみたことないだろ……この間叙々苑に行ったときも「ほぇぇ。これが広辞苑かぁ」とか訳分からんこと言ってたし」
「ごほん。私は過去を振り返らない主義でね。だが君のいうことにも一理あるよワトソン君」
「もうツッコむのも面倒くさくなってくるわ……じゃあ続けて……」
「じゃあ退屈そうな君にクイズ形式で尋ねよう。異性の肌と言えばなんだ?
1,おっぱい
2,おっぱい
3,おっぱい
4,おっぱい
のうちから一つ選べ」
「じゃあ1番で」
「っっかーー! けしからん! 帰り給えよワトソン君!」
「もうお前が帰ってくれよ……」
頭のおかしい発言を幾度も繰り返す祥吾。自分の家ならまだしもここは学校だ。流石に控えて欲しい。ホラ見ろ、女子がこっちを睨んでる……。
「おいおい、お前どうしちまったんだよ。まるで蛇に睨まれた金玉みてーな顔しやがって」
「待て。おかしい。金玉に顔はないしそれを言うなら蛇に睨まれた蛙だ。後その顔やめろ!! 言ってやったぜみたいなその顔だ!!」
「今日もキレッキレですなぁ。女子も憧れの視線を向けてまっせ?」
「あれは睨んでるんだよ……主にお前のせいでな」
「旦那旦那、プラスに捉えましょうぜ。こうやって女子との関わりを持つことも夢じゃないと!」
「プラスなのはお前の思考回路だけにしてくれ……既に女友達くらいたくさんおるわ……お前じゃあるまいしよ」
これで平常運転なんだから逆に尊敬できる。なんと言われようとめげないその精神だけは見習わないといけない……。
「ということで現在女の子の友達募集中です!! 我こそはという女子の皆さんはこいつを股ぐらに敷いてやって下さい!!」
「もうほんっとーに帰れよお前!!」
こいつの事を少しでも尊敬した数秒前の自分をぶん殴ってやりたい。
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「なぁごめんってぇ」
「うるせえ。学校ではお前と金輪際一切の会話をしない。」
あれから結局帰ることなく学校に残って勉強し、頭が疲れに疲れたその帰り道。脳の奥まで響くような痛いくらいの寒さが妙に心地よい。
実に爽やかで清涼で、そして達成感のある帰り道―――のはずだった。
「ほら、謝罪として俺の金玉見て良いから」
「なぁ、ここは地獄か何かか? お前の金玉みても不快感しか抱かないんだが?」
「えっ……そんな……その…流石に本体をみせるのには抵抗があるなって…」
「…」
頬を赤く染めてクネクネと腰をうねらせる祥吾。その姿は端的に言って気持ち悪い。もう気持ち悪いを通り越して怒気すら湧いてくる。
「あっ怒った? もしかして怒っちゃった?」
「はぁ…なんでお前みたいなのが彼氏なんだろうな…」
「そりゃぁ、里乃が選んだからっしょ。いや~まさかこんなやつに告白してくるやつがいるとは思わなかったよね~。まあ? 付き合い長いし? いつか俺に惚れてもおかしくはないとは思ってたけど?」
「お前の金玉まじでぶちわってやろうか。お前の代でそのふざけた遺伝子を断ち切ってくれるわ。……はぁ我ながら人生最大の汚点だわぁ…」
「じゃあ……別れる?」
見ていると段々と腹が立ってくるような、そんな顔でこっちを見て尋ねてくる。ニヤニヤニマニマという擬態語が脳内で再生される。しかし、あの笑顔は、私のする回答が分かっている時の顔だ。
「聞かなくても分かるだろ、そんくらい」
「むふ~」
「別れる」
「はっ!?うそっ!?」
「嘘」
私は八重歯を覗かせていたずらにそう答えた。
読了頂本当にありがとうございます。作者の渚石です。
女の子成分を出さずに女の子を書くことが出来るかな?と書いてみたものです。お楽しみいただければ、作者にとってこれ以上満足なことはありません。
多少の手応えはあったので多分このジャンルいけますね(困惑)