オリヴァー商会
そうこうしていると、先程の職員が帰ってきた。
「お、お待たせいたしました。客間にご案内いたします。」
やはり、予約を取りたいということは伝わってなかったらしい。
(別に今日でなくても良かったのだが、早い分にはまあいいか。)
そう思い、返事をする。
「はい、お願いします。」
そして、ルルと職員のあとを追う。
職員は階段を上がり、二階にある、客間に俺たちを通した。
すると中には初老の男性と、それの秘書と思われる女性がいた。
「初めまして、私はクラネル・カルステッド。ここ、オリバー商会のオーナーです。彼女は秘書のサシャ・カルステッド。私の娘です。」
そう言って二人が頭を下げた。
やはり貴族だと思われているらしい。
ルルからの視線が痛かった。
「失礼ですが、貴方は…」
オーナーが、申し訳なさそうに聞いてくる。
しかしこちらとしても、はい、異世界から飛ばされて来た学生です。とは言えない。もちろん、ヴァリアス・ヴァンクリーフです。とも。
そのため、さっさと用を済ますことにした。
「幼龍は三の鐘に啼く、少女は八の鐘に」
「「「……は?」」」
ルルとサシャそして男性職員君が、キョトンとする。
普通はそうだろう。名を聞かれたのに、返した言葉は意味不明な文だ。
そんな中、オーナーだけは目を見開き、驚愕していた。
そのオーナーはゆっくりと口を開き、
「その…幼龍の名は?」
と呟いた。
それに俺は一つの名前を答える。
「パル」
その言葉にオーナーは一度深呼吸をして、気分を落ち着かせていた。そして口を開く。
「貴方は……いえ、詮索は致しません。そういう…約束ですから。」
「ああ、助かる。鍵は?」
「こちらに」
そう言ってオーナーは首からネックレスを取り外した。
このネックレスの宝石には魔方陣が組み込まれている。そしてそれが地下の鍵になっている仕掛けだ。
鍵だけではあけることができず、鍵と他に紋様をあるパターンに並べ替え合わせる認証も行われる。
鍵を持つオーナーと暗証を知る者が二人揃わなければ開けられない仕組みだ。
「鍵はこちらで預かろう。」
鍵を受けとると、さっきまでキョトンとしていたサシャが、ちょっと待って、と声をあげる。
「お、お父さん、あればうちの家宝じゃなかったの⁉剣聖様に託されたものだって、オーナーになるときにお祖父様から頂いた物だってあんなに自慢していたじゃない!それを、この誰かも分からない人に預けるなんて!」
「いいんだ!サシャ、黙っていなさい。」
「でも…」
威厳のあるオーナーの一言にサシャが押し黙る。
「すみません、家の娘が」
そしてオーナーが頭を下げた。
「構わない。それより入り口は?」
「ご案内します。」
オーナーに先導されて、二階の奥の方にあるオーナー室に入る。
オーナーは本棚に近付き、本の奥に手を伸ばすと、カチッという音がした。
そして本棚を横にずらすと。
そこに地下へと続く階段があった。
「随分と大層な作りになっているのだな」
「はい、先々代が改築した際にこの隠し通路をお造りになられたそうです。」
「なるほど、案内ありがとう。」
昔は木の床をカポッっと開ける。という作りだったので、どれ程大切に管理されていたかわかる。
(それには感謝だな。)
「さて、行くか。ルル、おいで。」
「良い…のですか?何かとてつもない外部秘の話をしていたような気がするのですか…」
さっきから驚きっぱなしで静かになっていたルルが、怯えたような声を出す。
強気の彼女が、珍しく幼げな表情を見せていた。
「何を躊躇う?君は俺の秘密を暴きたいのだろう?」
「…そうですね、わかりました。」
何か覚悟を決めたような表情で返事をした。
(特にこれといったことはないんだけど)
「私はこれで、サシャをここに置いておきますので戻って来たら使って下さい。サシャ、頼んだ。」
「…はい」
サシャはまだ状況を飲み込めないのか、表情が険しい。
それを見て俺は一つの提案をする
「オーナー、あの話を娘にしてやれば良い。それで納得できるはずだ。」
「良いのでしょうか?」
「かまわないだろう。」
この地下の作りも変えていくつもりだったので許可する。
そう言って俺たちは地下への階段を降りていった。
石造りの階段が、静寂のなかを俺とルルの足音を反射させていた。
しばらく降りると、扉に突き当たる。
「ここ、だな。」
「扉…ですか?」
「ああ、」
様々な紋様が描かれていて一種の壁画のようになっている扉がそこにはあった。年月が経った割には綺麗なもので紋様も欠けることはなく、色彩も欠いていなかった。
俺は、オーナーが持っていたネックレスの装飾品だけを取り外す。
そして、扉にある半球状の窪みにそれを入れる。
そして、魔力を流すだけなのだが。
「すまん、ルル。こう、この宝石を扉にくっつけるようにして押し当てて、魔力を流してくれないか?」
「はい、わかりました…」
そしてルルは一度深呼吸をすると、扉に手を当てる。
そして少しずつ魔力を流していくと、徐々に扉に紋様が浮き上がった。
上位の加護持ちの魔力でなければ発動しない仕掛けだ。
今の俺には加護が無いため、ルルの魔力に頼るしかない。
「少し借りるぞ。」
そう言って壁に浮かんだ紋様をルルの魔力を操って動かし、あるパターンに直す。
すると、ガチャコン、という音がして扉の鍵が解除された。
「よし、入るか」
「うっ…はい」
そして、扉の中に入りこむ。
その中には、封印した当時と変わらないままの地下室があった。
そのころ地上では
「お父さん、あの話って何?」
「少し長い話になる。座りなさい。」
オリヴァー商会のオーナー、クラネルとその娘秘書のサシャがとある秘密について話していた。
「ここオリバー商会が元は剣聖様の開いた酒場だったという話は知っているだろう?」
「はい。大戦で左腕を失い、左足が麻痺し動かせなくなったため、子供の頃からの夢だった酒場を開いた…と。」
「そうだ。その酒場を作る際、彼の英雄様に酒場の地下を使ってもいいか?と、頼まれたそうだ。」
「…なぜ?」
「彼が使っていた道具を保管しておくためだったらしい。ここは大戦後、彼ら英雄様達の拠点だったらしいのだ。」
「え?」
「その後、だんだんとその地下室は英雄様達によって改造されていった。当時最新鋭の設備がここにはあったらしい。」
「そんな場所が、まだこの地下にあると…」
「ああ、しかしその後はミネリア皇国が建国し、城に拠点が移ったため、地下室は倉庫となり。剣聖様が鍵を持ち、英雄樣達のみがその開け方を知るという風にして実質的な封印をしたという。」
「ということは彼はあの7人の勇者達の一人ってことでも言いたいわけですか!?」
「落ち着きなさい。この話にはまだ続きがある。英雄様はこのことを死ぬ間際、この事を誰かに伝えたらしい。そして、それを知っているという合図が、先程の暗号だ。この言葉を知っている奴がいたら鍵を渡してやってくれ。と剣聖様は言われたらしい。そして代々この言葉が私たちオーナーに伝わっているのだ。」
「……」
「先程の者が誰かは気になるが、絶対に詮索してはならない。それはきっとその者にとって必要なことだから。と、剣聖さまはおっしゃったそうだ。我らは守人。それを誰が使おうと、我らは口を出してはいけない。ともな。」
「でも、悪用されたりとか…」
「『そのぐらいの備えはしてある。』って剣聖樣はおっしゃったらしい。きっと大丈夫だろう。」




