プロローグ
暖かな西日が差し込む病室。
カーテンが風に揺れ、枕元に置かれた花瓶の花が頷くように揺れる。
そんな麗らかな部屋で、一人の男が床に伏していた。
人々に害する悪しき邪神とその眷属と戦い、人々に安寧と平和をもたらした男。
その一人の英雄が今、長い人生を終わらせようとしている。
妻が彼の左手を握りしめ、目尻に涙を浮かべている。彼の周りにも、涙ぐみながら治癒魔法をかけている神官や、隣の者と肩を抱きあって震えている者。涙を流すまいと天井を見上げながら、決意の表情を浮かべている者。人々の後ろで、一人、杖を抱き盲目している者、等。
彼ら彼女らを見るに、よほどこの英雄が人々に愛されていたことがわかる。
ふと、彼が目を開けると、どよめきが起こり、人々がベットに身を乗り出して声を掛ける。
英雄が口を開けたが、声が掠れ言葉にならない。
彼は一呼吸すると使いなれた魔法を使い、彼の声を彼らの頭の中に響かせる。
曰く、お前らなんて顔してやがる、ただの死にかけの見送りのために仕事さぼってんじゃねえよ、と。
いつも通りの彼に、周囲に笑みが戻る。
だが、もう彼に残された時間は少なかった。
彼は治癒魔法をかけている神官に、もういい、お疲れ。と、声をかける。
神官は首を横に振り、流す魔力を増やす。
その事に彼は薄く笑うと、はぁ、と、深く息を吐いた。
そして、まぶたを閉じる
様々な思い出が瞼の裏に甦る。
辛いこともあった。戦いのなかで多くの仲間も失った。
だが、充実した人生だったと、誰にでも胸を張って言えるだろう。
満足な人生だったと。
そう思う。
この世界の未来を作れた。
それで十分だ。
目を開ける。
隣にいる妻に顔を向け、微笑むと
妻も同じように笑いかけた。
そして…
一人の英雄がこの世を去った。
続く…かも?




