新学期―初めての最高の友達―
――今年で高校生か。
この春中学を卒業し、僕は晴れて県立高に入学する事が出来た。とは言え、同じ学校の友人は数える程しかおらず、言葉を変えればほとんどいないと言っても間違いではないだろう。それでも、せっかく始まる新たな学園生活なのだから、これからの三年間は思う存分楽しもうと思っている。
ところで、先程から僕はある人物が気になっている。それは、
「あの子も新入生か」
グラウンドに植えられた桜の樹に身体を預けながら俯く一人の少女がそこにいた。僕はそんな彼女の傍まで足を運び、挨拶代わりに声かけてみる事にした。
「おはよう。キミも新入生?」
「まぁね?」
「そっか」
彼女は短めの深い青色の髪と首に提げたハートの形のペンダントが特徴的だった。そして余談で、この子は物静かでおとなしい性格のようだ。
まぁそれはさて置き、実のところ、入学式開始時刻まではまだ一時間もある。故に現在は時間をもて余している状態だ。その時間潰しの相手として選ぶのは失礼かもしれないが、何となく、彼女となら上手く話す事が出来るような気がした。
「キミってどこの中学校から来たの?」
「どこだと思う?」
「え……と、南中、とか?」
「はずれ。北中だよ」
「そう、なんだ」
「あんたは?」
「え、僕? 僕は霞ヶ丘第六中だよ?」
「そう」
ーー撤回、少しやりづらい。
「ところで、キミはこれから先、どんなふうに学園生活を送ろうと思っているの?」
「さぁね」
……諦めた方がいいのかな?
そんなふうに、半ば弱気になっていると、
「ところで、あんたは友達はいるのか?」
唐突に少女からそのような質問をされ、僕は一瞬言葉を濁したが、しかしいるにはいるし、現にその数人が同じこの学校に入学する訳だから、一先ずはイエスの返事をしてみた。
「そう」
「それがどうかしたの?」
「別に」
どうやら彼女は僕には興味がないようだ。仕方がない、場所を変えよう。
「ごめんね? 何か邪魔しちゃったみたいで。それじゃあまた」
そう言ってその場を離れようとした時、
「待って」
彼女が僕の制服の袖を摘まんできた。
「どうかしたの?」
そう訪ねると、少女は僕に、「もう少しだけ一緒にいてくれないか?」と上目遣いに言ってきた。その表情はどこか悲し気で、何となく、僕は彼女を放っておけない気持ちになっていた。
「それじゃあ場所を変えようよ? そろそろ学校にも入れるはずだし。そうだね、じゃあ屋上にでも行ってみようか?」
「……そうだね」
そう言って、尚も彼女は僕の袖を放さず、そのまま僕と二人で歩みを刻んだ。
「いい眺めだね?」
屋上からの景色はかなりのものだった。向こうの山も、街も、そして勿論校庭も、何もかもが一望出来た。それは多分、ある種の絶景……とまで言うと大袈裟だが、しかしそれだけ素晴らしい眺めであったというのも事実だから仕方がない。
「この三年間で、僕は何人の友達が出来るのかな?」
そう言うと、「もういるだろ?」と、彼女がぽつりと呟き、「あんたの目の前にさ?」
少女は控えめに微笑んだ。
「それって……」
どういう意味? そう質問しかけた僕だったが、この流れから考えて、要するにーー
「ーーキミが僕の友達になってくれるって事、なの?」
「だから、そう言ってるだろ?」
「……そう」
正直驚きだった。まさか初対面の相手とこんなに早く仲良くなれるなんて思いもしなかったからだ。
「実はあたし、今まで友達って一人しかいなかったんだよね?」
「そうなんだ?」
「で、その時にこれを貰ったんだ」
そう言って、少女は大切そうにそのペンダントを右手で掴み、「でも、そいつは家の都合で引っ越したから、今はもういない」
再び俯き、僕にそう語りかけた。
「そんなあたしにあんたは声をかけてくれた。久しぶりに誰かに話しかけて貰って本当に嬉しかった。だけど、実はあたしは余り人と話すのが得意じゃなくて、ついさっきみたいに無愛想な態度をとっちゃったんだ。だからそれはあたしが悪かった。ごめん。そして改めて、これからは友達として仲良くしてくれ」
そう言って、少女は右手を僕に差し出し、「よろしくね?」と言ってくれた。
「そうだね」
それからしばらくの間、僕達二人はそこで談笑し、僕達二人の
最初のひとときを過ごした。
そして入学式が終わり、クラス発表の時が訪れた。
ーー勝ちで。
フラグ回収成功。僕達は運よく同じクラスになる事が出来た。まぁ、さすがに席まで隣同士という訳にはいかなかったが、だがそれでも僕は充分だった。何故ならこれからはいつも彼女に会えるのだから。
ーー明日からの学園生活が待ち遠しいな?