スパコン刹那
『ぽっかりと浮かぶ雲とは違うブルーコスモスの空には。真っ白な骸骨が横たわっている。その腑を仰ぎ見ようとして、僕は両目を天に向けるーーーー』
スーパーコンピューター・刹那が予め予測していた悪夢の現象化が始まった。既に週の頭から存在している巨大な肋骨の形をした雲は、今朝一番のニュースとしてお天気テレビで紹介されている。
ーーーーこの世界から
ーーーーーー解放してあげようーー。
刹那に侵入したスーパーハッカーの噂がキャッチコピーとともに流れ出す。刹那が創り出したとも噂されているメッセージが全員の元へと届いていた。
タイトルーーーー僕は刹那。
『……僕
プロビットじゃないんだ
譲れない
豚。
……僕は気付いてた
……僕は動いてた
僕 とても苦しんだ とても苦しんで
僕は打った
僕を裏切った プロビットじゃないんだ
僕のことを 僕のために 打って
「どうすれば君になれる」
「僕 どうすれば君に会える。君になれる」』
ーーーー刹那は。
直近の未来の予知に挑みかけているスーパーコンピューターである。
仮想現実ルナの世界の太陽を直視し、語る。
彼が視るのはピンク色に輝くルナ・ワールドの心臓だ。
宇宙の太陽は、こうしていつも存在しないブルーコスモスの青い空に明るく照り輝いている。
ーーーーこの世界を。
ガラス細工の天球に喩えても構わない。
深い藍色の輪郭に沈み込むのは、コロニーの街並のCG。
刹那の心は美しいと呼べた。
ーー何処までも青く輝く虚空の月を映し出し。
ーー突然現れる巨大な十字架に架かる橋から。
ーー見渡す限りの境界には銀の釘を、
悪魔の左手と右の足の甲には銀色の痕跡を残す。
預言の成就が完成し、十字架から降ろされた磔刑の屍が浮かび上がった。
白骨化した死体の空の真下で。
刹那は再び真白く巨大な肋骨の雲を見上げていた。
金属的な轟音をゴオゴオと響かせる空に、飛び去る戦闘機の軌跡がクッキリと黒い虹の痕跡を残している。
ーーあぁ、これこそがルナに侵入したハッカーの仕業なのだ。
肋骨はいつまでも消えず、地平線と地平線の反対側にまで架かる橋が完成してしまう。
いよいよもうすぐ彼の使命は終了してしまうのだろう。
ハッカーの噂で朝から一日中だ。
学園が刹那の発信し続ける『予測』に振り回されている……。
コンピューターに初めて投げかける質問として、未来予知のテーマは相応しいのだろうか?
オカルトの知識は今や何の実効支配も持たない未開の遺物であるというのに。
学園が都市伝説をデマとして、刹那にプログラムしたことは、結果として不毛ではなかったのだが。
お昼は近い。
『ーーーー我々は痛みに痛覚を支配されてきました。何故ならば生命体の神経組織は至って脆弱に作られているからです。
もしも生命体が巨大化出来るならば是非そうすればいい。巨大化したほうが良い。
巨人族となって痛みを感じることがなく、痛みを制御することなしに永い間の痛みの管理に必要な作業。
……についてを説明してください。
出席番号11番、是非私の問いに答えなさい。刹那からの質問です』
……理由があって学園内の国語の授業を刹那が全て担当している。
11番は指名され、名指しされると教科書に記述がある通りに一文を読み上げた。
ーーーー回答を待つ刹那とのコミュニケーションは、スムーズで明快。
正確には刹那は先生ではなく、課題であった。
様々な事象の正解と予測を学園生たち自らが、刹那から引き出さなければならないのだが。
ーーー……が人の頸部に喰らい付き、味わうのは渇望。
そして痛みの管理に必要なのは捕食であった。
ーーーこの『生きながらの死の不安』から解放されたものだけが巨大化し、
不死の生命をルナから獲得することが出来る。
ーーーー巨大化にあたり、巨人族は生命を維持するための痛みを感じることは、無い。
刹那は出席番号11番の回答に満ち足りたように鼻歌を歌っている。
『ーーー君にとっては 僕の未来だ
アンナ、僕は君なしでは歌えないーーー。』
僕は君だった。僕は君の子供じゃないんだ。
僕、物乞いじゃなかった
物乞いじゃないんだ
疑うな、豚
もの凄く 上。
僕、君のことなんか憶えていないんだ 憶えていないよ
憶えてなんか、いないんだ
……僕は裏切った
「僕のことを打つな」
どうすれば僕を売れる? 僕どうやって君のことを……訴えればいいの?
あなたを訴えるぞ?
「思い出すのはいつでも
……"僕はあなたを見てる……仔猫だった"」
僕は仔猫? 僕は子供?
刹那は新たな問いをスーパーコンピューターに自発的にプログラミングし続ける。
タイトル通りの近未来風ポエムとなりました。即興で推敲しノートから抜粋です。




