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第5話:忍者だってッ


 菓子パンを牛乳で流し込んで、ゆっくり食べる二人を横目に携帯端末で関連記事を検索してみた。どうやらユナの予想通り、実技選考会は≪VRC≫での模擬戦のようだがその他には詳しい内容や条件は見つからなかった。これでは作戦の立てようがないな……。


「ごちそうさまでしたっ! ふぅ……味見した時より味濃くなっててちょっとしょっぱかったっ。喉渇いちゃったから私自販機行ってくるけど、二人も何か飲む?」


 普段料理しないから分からないが、味見してから味が濃くなる事なんてあるんだろうか? 一晩寝かせると美味しくなるってやつかな? コウヤはスポーツドリンクがあるから大丈夫だと断ったが、俺は炭酸飲料をお願いした。「はぁ、また甘いものなの? 太っちゃうよっ!」と顔を顰めつつもユナは席を立ちジュースを買いに行った。

ユナが見えなくなると『待ってました』と言わんばかりにコウヤが質問を投げかけてくる。


「さてナユ。前から気になってたんだけどよ……二人付き合ってるのか? ユナちゃんと仲良いよな?」

「ぶっへぇッッッ!?」

「ぅおッ、きったね!!」


 予想だにしないとんでもない質問に意表を突かれて思わず漫画みたいに牛乳を吐き出してしまった。


 ユナとは仲が良い。否定はしない。

 でもそれが恋愛感情かと言うと違うんじゃないかと考える。

 なぜならそれはコイツとの仲にも言える事だから。一緒に居ると楽しいし、何か困っていれば助けてやりたいと思う。だからって俺とコウヤは付き合っているとは言えないからな。それに男同士で付き合うなんて考えたくもない。


「いきなり何を言い出すんだよ! 俺とユナは別につっ、つきあってぬぇえし」


 何故かどもった。それも一番大切な所で。これじゃ説得力も何もないな。まぁユナは可愛いし優しいから一緒に居たいとは思う。好きか嫌いかで言ったら好きだ。でも何か……恋愛感情とはどこか違うんだよな。


「あのなコウヤ、お前はなんでもかんでもソッチに持って行くなよ。『付き合いたい』と思うのと『好き』と思うのは別物なんだよ。」


 俺の苦しいヘリクツに納得してないようだが仕方がないだろう。だって俺にも分からないんだから。


「とりあえず、俺とユナはそういう関係じゃないからな。勘違いすんなよ。あれだっ、妹みたいなもんか――」

「ばッ、バカ! 妹ってのはそういう対象じゃねぇよッ!」


 今度は嫌に否定的な反応が返ってきた。兄妹の例えは一般的で分かりやすいかなと思ったんだけどな……。


 鼻息を荒くするコウヤをなだめているとユナが戻ってくる。


「お待たせっ、はいこれナユの。それで選考会の作戦どうするのっ?」


 つーか俺には太るとか言ってたくせに、自分も『甘いもの』買ってきてるじゃねぇか。

 そんな俺の心の声を感じ取ったのか「デザートはセーフなのっ!」と頬を膨らませている。


 手渡された炭酸飲料のパッケージには『ゼロカロリー』の文字が書いてあった。しっかり者というか余計なお世話と言うか。合成甘味料ってのは何故だか味が違って感じるからいくら飲んでも満足できないんだよな。だから俺はあまり好きじゃない。

 ……まぁ飲むけど。


「ざっと調べた感じでは選考会の詳しい内容は見つからなかった。これじゃ作戦の立てようがない……でも五百名以上を格付けするのには手間と時間がかかる。その事を踏まえると、単純に点数(スコア)だけで順位が決まるんじゃないかと……思う。それから、参加者全員の条件をある程度は揃える必要があるから、方式は一対一で敵AIと対峙する“ 決闘戦 ”だと思うんだ」


 とりあえず自分の予想を二人に告げた……まあ予想通りの反応だよ。

 二人の頭上に、ユナには一つ『?』コウヤには三つ『???』とクエスチョンマークが浮いている。説明下手なのは前々から分かっていたさ……。


「わるいナユ。全っ然わっかんねぇ。今まで内緒にしてたけどオレ、英語の成績悪い方なんだわ」


 たぶん英語の成績が悪いのはそもそも日本語が理解できていないからじゃないか? 俺が話したのは日本語だ。それとコウヤ……内緒もなにも、おまえが英語が苦手なのはだいぶ前から分かってるから。


「あ、えっとナユ……無理して英語なんて使わなくていいんだよっ??」


 そして状況が理解出来てないくせに乗っかったユナは頭上のクエスチョンマークが二つに増えていた。


 これ以上クエスチョンマークを増やさないために、わかりやすいように先日やったゲームを例えに使う事にする。


「この前俺がやってたゲーム覚えてるか? 古い横スクロールゲームのやつ」

「あーあれな! 忍者を操作してピョンピョン飛び跳ねるやつ!」

「忍者じゃなくて騎士な。騎士がお姫様を助けに独りで城に攻め込むお話だから。パッケージで主人公が剣構えてたろ」


 まぁこの際主人公の職業は関係ない。重要なのは最後の戦いだけだから。


「あれの最終面で主人公と魔王が一対一で決闘しただろ。今回の選考戦はそれに近い内容になるんだと思うんだ。戦闘開始時の条件は一定で、装備やパラメーターも同じキャラクターでの敵単体との決闘。戦闘中の行動に配点があって終了時にスコアとして残る」


「そしてっ、そのスコアで順位が決まるから、大事なのはクリアする事よりもハイスコアを目指さなきゃ駄目って事だねっ」


 察しが良いユナが要点をまとめてくれた。つまりはそう言う事だ。

 ただクリアするだけじゃなく点数を稼ぐ事を意識しながらプレイしなくちゃならない。

 基本的にゲームとは<ルール>と<クエスト>が存在して、それを<クリア>する一連の動作のことを指す。今回は<ルール>が伏せられているが、最終的に順位付けされることが分かっているため<クエスト>はある程度予想がついた。その内容からルールを逆算の要領で予想すると……


 ――『指定条件下での一対一の決闘戦』


 これが実技選考会の内容予想だ。


「マジかよ、いやあの尋常じゃない動き……どー見ても忍者だったろ」

「忍者から離れろ、重要なのはそこじゃないからッ」

「えっとナユ、とりあえずは選考会で何すればいいかは分かったけどさっ、具体的に対策はどうしよっか?」


 作戦と言うほどのものでもないが、俺には考えがある。


「練習や対策は今回はしようがないかな。でも有利になる方法はある。といっても、当たり前の事なんだけどな……」


 まずは『他人のプレイをよく見る』事!


 選考会と言うぐらいだ、おそらくプレイはメインモニターに中継されるだろうから、それを見て敵の動きやパターンを覚える。これで『初見殺し』は回避できるだろう。


 それから『配点を事前に把握しておく』ことだ。


 出来るだけ高得点になる様に、他人のリザルト画面でのスコアの配点を確認してから臨むことがハイスコアを狙う為には重要になってくる。

 最後に、この二つから分かると思うが


 『出来るだけ後半に挑戦する』こと。


 そもそもスコアを競う場合、第一陣の点数は後から挑戦する者にとっての基準点数となり、そしてそれを乗り越えていくものなんだ。だから序盤での挑戦はハイスコアを狙うにはとても不利だ。


 その三つの要点をまとめ、簡潔に二人に伝える。


「他人のプレイをよく見て、効率的な動きを想像して、最後の方に挑戦する。基本だけども今回はこれを意識すれば多分ベストシックスには入れると思う」


 普段から≪VRC(実技)≫の授業では優秀な俺たちにとって、基本(コレ)さえも必要無いかもしれないが、武術の世界やスポーツの世界でも『初心』と言うものは上を目指す為には重要とされているからな。最終的には選抜試験で全学年ベストスリー……<bitクローズドβ参加権>を得るためにこの段階から気合を入れて臨むのも悪くはないだろう。


「……それってよー、順番決まってたらどーすんだ?」


 ――ッ! 

 何てことだ……これだけ熱く語ったのに、コウヤなんかに指摘されるなんてッ。

 痛い所を突いてきたな。ヤバい。正直な所、他に思いつかない。


「あーっと、それは……その時はあれだ、『腹痛い』とか言って後に回してもらう……とか?」

「それじゃぁ、失格になっちゃうしっ! 他には! 他に良い案は無いのっ⁈」


 少ない情報からそんなに幾つも“ 攻略法 ”を思いつくはずがないだろ。この場を乗り切るセリフ……仕方ないか、もうコレしかないもんな。

 ……言うしかない、っか。


「まぁいつも通りやれば大丈夫だろ。VRCではいつも俺ら――『学年首位(・・・・)』だし」


 はぁ……コレだけは言葉にしたくなかったんだけどな……。

 たっく、一気にヌルゲームードだよ。


◇◇

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