第4話:馬と鹿
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「そーいえば選考会、ナユ達も参加すんだろ? 後で作戦会議しよーぜ!」
「あのな作戦会議も何も。俺たちは参加出来ないだろあれ。この前話したの忘れたのかよコウヤ」
タイミングよく現れていい所を掻っ攫ったコイツは『佐藤 昇也』隣のクラスの人気者でサッカー部のエースだ。実際にサッカーをしているところを見たことは無いけども一年生でレギュラーに抜擢されるんだからかなりの実力者だと思う。
運動が出来て空気も読める。顔も悪くなければ性格も良い。お調子者でクラスの人気者。俺とは正反対の人種だけども何故だか仲良くなった。この関係を四文字集約するならば、すげー『馬が合う』友達ってとこだ。
知り合ったきっかけは『偶然』だ。入学してすぐの頃に休み時間ユナと携帯ゲーム機で新作ゲームを遊んでいたところに、たまたまクラスを訪れていたコウヤが話しかけてきたんだ。確かテニスだかサッカーのスポーツジャンルのゲームをしていたと思う。
コウヤもそのゲームを買ったらしいが自分のクラスには持っているやつが居なかったらしくどうしても一緒にプレイしたくなったそうで……。
そんなこんなでちょっと話してみると意外と持っているゲームが被っていたり好きなテイストが似ていたりで、俺とは真逆の人種なのに何かの縁を感じたんだ。それで連絡先を交換したというのが関係の始まりだ。
ちなみに『偶然』というのは持っていたゲームがほとんど被っていたという所では無い。
俺は大概のゲームは持っているからな。あの日コウヤが1-1を訪れていたって事が『偶然』だったんだ。
そんなコウヤとはクラスが違うから、昼休みに三人集まって食堂で昼食を食べてそれから残った休み時間一杯ゲームして遊ぶのが俺たちの日課となっている。どうでもいい事や午前中の出来事、ネットの記事など一緒に居る時は会話のネタには困らない。
最近は『 bit 』についての話題が多い。統括組織『NEST』が発表した≪新作VRゲーム≫の事前情報とクローズドβ開催のお知らせとか。
抽選ではなく、全国のゲーミングスクールで選抜試験が行われて各校から上位三名ずつが選ばれる。大会形式でテスターを募集するなんて前代未聞だけれどもそれだけ技量が必要とされるテスト内容なのだろう。なんせ謳い文句は『従来とは全く異なる<もう一つの世界>』だからな。ベタだけれどもゲーマーのツボをよく押さえている。
「なーに言ってんだよナユ。 え、まっさかご存じない!? こんなビックニュースを? ナユくんナユくん。学内通信ぐらい読まなきゃ駄目じゃないか」
コ、コイツ……。言ってることは正論なんだが、コイツに上から目線で言われると無性に腹立つな。勿体ぶってないで早く見せろよな。
そもそも学内通信をコイツが読む事自体ビックリだが、コウヤが指をさす一文はそれ以上の驚きがあった。
携帯端末に表示された『bitクローズドβテスター選抜試験開催のお知らせ』の最後に注釈として書かれた一文。
『――尚、金曜日の放課後に全学年を対象として実技選考会を実施します。選考会にて好成績を残した上位六名には特例として実務教練の経験に関わらず『CβT選抜試験』への参加を認めます。――』
目を疑った。思わずユナと顔を見合すと笑顔がこぼれてきている。
嗚呼、なにが『挑戦する事さえ許されない』だ? 『チャンスぐらいは欲しかった』だ?
「……そ、それってっ、私達にも……私達にもチャンスあるってことじゃんっ! やったねっナユ!」
「参加しよう! みんなでっ! 実技選考会に! そんで選抜試験に挑戦しよう!! えーっと、開催日時は金曜日の放課後!」
んだよ……あったじゃねえかよチャンス。できんじゃねえかよ挑戦! うん?
「金曜の……放課後?」
「確か昨日は木曜日で今日は……へ? ……はッ!?」
「「――って、今日じゃねーかッ!!」」
当日になるまで気づかなかった俺たちも俺たちだけども、誰も真面目に目を通さない校内通信なんかでこんな重大な事を告知する学生会に悪意を感じる。
「まー、そうと決まれば早速始めようぜー! 作戦会議! あっでもよ、全学年で上位六名って何パーセントだ? 俺たちは三人だから……えーっと、十パーセントぐらいか?」
どういう計算をしたらそんな数字が出るのか……コウヤよ。俺はお前の頭が心配だよ。
一クラス五十人、それが七クラスで三学年と見積もっても全校生徒は千を超える。そこから既に参加要項を満たしている三年生と不参加者を差し引いて、六……いや五百人前後って所か。てことは一パーセントぐらいだな。よしっ! 思ったより悪くない確立だ。
ちなみにこれは実力差を考慮されていない数字だ。同じ力量を持った参加者だけで選考会を行ったときの確率。つまり、一パーセントって数字は俺たちにとってビックチャンスって事が導き出される。
だって自信があるんだ。俺たち三人は
―-“ ゲーマー ”だからッッ!!
「うーんっ……実技選考って言うぐらいだし、きっとVRCの試験ってことだよね? どこかに詳しく内容書いてないかなっー」
箸を咥えたまま携帯端末を弄る姿は『萌え』だけれども行儀悪いぞ。
「まっ、とりあえず先に飯くっちまおうぜ。腹減ったしオレ」
そんなこんなしていると作戦会議を提案した張本人がその場を纏めた。
ちなみにその日は珍しくコウヤの昼飯は学食のメニューだった。
大抵は弁当かコンビニのサンドウィッチなのに今日に限って学食なのが不思議に思え、菓子パンを頬張りながら聞いてみると、彼は得意げに説明してくれた。
なにやら、土日に練習がある部活には定期的に学食の食券が配布されるらしくそれを巡って争う事が多々あるらしい。そして先輩とのフリーキック対決で勝利したコウヤは学食の食券を何枚か勝ち取ったそうだ……。
うん。なんというか、アレな……スポーツ賭博の魔の手がこんなところにまで伸びているとは恐ろしい。
◇
イラストは空紗さんに描いていただきました!