第50話:閉会式
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「一撃でも当たれば即死必須の超高難易度。普通の人なら無理ゲーだとすぐに諦めてしまう。その絶望的な状況下で微かな希望を見出すことができるそんな逸材を求めているのです」
「逸材って……そんなのまぐれとかじゃないと気づけないじゃないですかッ! そんなの……っく」
「私の作品にはそういった狂気とも似た天才的な才能を持った……。そう、病的なゲーマーが必要なのです。ふふっ」
妙に説得力のあるぶっ飛んだ思惑を黙って聞くが、実際狂気じみているのは本人の方だった。
でもそんな狂った人が作ったゲームだから同じ思考回路を持った人間にしかテスターが務まらないというのは一応だが理に適っている。
でも、それじゃあこの選抜試験は『死にゲー』と同じだったってことか……そんなの
「――そんなのクリア出来ないじゃないですか。とでも言いたげですね。ふふ、クリア出来たじゃないですか。だから君たちは選ばれたんですよ。自信を持ちなさい間君」
心の中を覗かれ口に出してない疑問に答えてくる榊さんに恐怖を感じる。
こいつは本当にサイコメトラー説が濃厚になってきたかもな。
……ってか、完全に俺に向かって話してたよな今。名指しだったし、まずいんじゃないか? 納得できないでいる不満タラタラの先輩をシカトすると怒り狂って騒ぎ出すんじゃ?
案の定、蚊帳の外に置かれた先輩が弁えずに声を荒げる。
「「馬鹿げてるッ! そんなの納得できるわけないじゃないですかッ! サカキさんッ再試験をッ――」」
「――分からない人ですねキミは。ゲームを創った者がルールを決める。そのルールは絶対普遍なのです! それは当然のことで、それに納得できないというならどうぞ結構。辞めてしまえばいい! リマイナーの真理を知ろうともせずにクリア出来なければ幼児の様にダダをこねる。ままごとは命を危険にさらします。クリア条件さえもマトモに把握できないのでは私の世界では足手まといにしかなれません。ワガママと主義主張を履き違えている内はそれ以上先には進むことは出来ませんよ? 分かりましたか?」
冷たく強烈な説明で突き放されて言い返す言葉が見つからない先輩は口を噤み、唇を噛みながら突き付けられた現実に不満そうな表情を向けている。
彼でだけではなく会場全体がシンとなり凍りついたかの冷たい空気に満たされ、静寂の中には立体投影機の無機質な動作音だけが静かに響く。
先ほどまでは一触即発だった会場が榊さんが登場にしたことにより事態は完全に収拾してしまった。
カリスマ性とかプレゼン力とかそういう次元ではなく絶対的で神の啓示とでも言うべきか。どんなに理不尽な事でも素直に聞きいれてしまう。そんな凄味があった。
でも正直、イカレてるともとれる言動には身震いしてしまい、本能的に恐怖に似た何かを感じた。
「コホンッ! それはさておき。本来の目的に戻しましょうか。私は今日、激励の言葉を伝えにきたのです! 改めまして。えー、これは、……このクリアはエンディングではありません。言うならばこの試験はチュートリアルに過ぎないのです。貴方たちの物語はここから始まるのです。そうですねオープニングムービー、とでも言うべきえすかね。ハハハッ! それでは廻結名クン、間名由君、それから、えーっとサインの……確かサトウ、君……でしたっけ? ア…ハハッ! さ、三人のbitでの奮闘。期待しています」
突拍子もなく始まった祝辞だったが、榊さんから直接言い渡されるというのは悪い気がしなかった。
むしろ全てを忘れて心の底から自分たちが優勝した事を喜べた。
「ああーそうそう、忘れていました。私としたことが……とはいえさほど重要な事では無いのですがね。――補習。頑張ってくださいね。ふふふッ」
意味深な言葉と裏がありそうな不敵な笑みにクエスチョンマークを浮かべ俺達はお互いの顔を見合わせた。
「……? ホシュウって何のはなしだ? コウヤお前なにか知ってるか? 情報通だろ?」
「ふふふっ、よくぞ聞いてくれました……たぶん、いや恐らく、きっと、それは……補習の事だろうなッ!」
「……つまり初耳だと?」
「YES!」
情報通が聞いて呆れる、何も知らねえのかよ。
「そこはいざって時こそ、知っとけよッ!」
「ナユ君⁈ 無茶!? それ無茶だから!!」
つっても聞いたのは俺なんだけども……まあ補習については何の情報もなく多分、新たに設けられたイベントなのだろうと予想を立てる助けぐらいにはなったかな。
「……それでは、クローズドβで再びお会いしましょう。ハハハッハッハッハッ」
エコーが効いた無邪気な笑い声が徐々にフェードアウトしていくと、それはどこが不気味な高笑いのようにも聞こえてくる。
榊さんとの中継が終了して立体投影機の光が消えていくと一旦会場は真っ暗闇に戻り、そして会場の照明が再び点灯して明るくなった。
「また、意味深なこと言い残して……去り際に捨て台詞を残すのお約束なのか?」
あとあの高笑いも。
「ねえねえ! ナユ気づいた? 榊さん名前覚えててくれたねっ! それもフルネームだったじゃん! すごくない? なんか特別扱いされてるみたいでちょっと嬉しいかもーっ」
「オレ名字だけだったんすけどッ! それもちょっとうろ覚えっぽかったしッ!」
そりゃお前、ディナー来なかったからな。当然っちゃ当然だ。
「変な所、気にするよなお前」
「これが格差、ってやつか……。覚えてもらってる奴は良いよな、コッチはちょっと複雑な心境だぜぇ」
榊さんの登場ですっかり流れてしまったが、起こった事がなくなったわけではない。
忘れないうちにお礼を言っておこう。そして思い出したかのように唐突に隣にいるパイセンに声を掛ける。
「あ、先輩方、さっきはかばってくれてありがとうございました!」
「いいってことさね。カッコいい所は全部社長さんに持っていかれたけどねッ、ハハハ」
「そんなことないッス! パイパイ先輩マジ聖騎士。ちょーかっけーッス!」
さっきまで落ち込んでたと思ったが今はその影もなく、パイセンに憧れの目を向けるコウヤは遂に本人に向けてセクハラネームを口にしてしまった。
つーか切り替え早ええな。
「こらこら、仮にもアタシは先輩だぞ? オッパイ先輩だなんて呼ぶのは失礼だと思わないのかキミは」
「いや、さすがにオレもそこまで言ってないッス」「いや、さすがにこいつもそこまで言ってないです」
「にしても大丈夫でしたか? 先輩殴られたんじゃ」
「アハハッ、へーきへーき! 勢い殺して受け流してやったよ。アタシ一応総合格闘技やってるからねぇッ! あんなヘッポコパンチ止まって見えるよッ」
「総合格闘技……マジで、ですか」
その胸で総合格闘技、だ……と?
最近の格闘技界にはアイドル的な美人ファイターやきわどい衣装を身に纏ったソッチ系の趣旨のファイターが居るとコウヤから聞いたことがあったが、その時はどうせまたスケベが深夜放送で無駄に盛っていただけだと聞き流したが……まさか本当だったとは。
「鳩が豆鉄砲喰らったような顔だねーッ、意外、だったかい? 信じらんないってなら腕十字、掛けてやろーか? 手加減はしないけどねッ! ハハッ」
冗談で言われた事を真に受けて、ついつい寝技を掛けられる想像をしてしまう。
正確には寝技を掛けられた時に押し付けられるであろうパイの感触を想像したのだが、細かいことは気にしてはいけない。
そう、いけない。イカンぞ。妄想をこれ以上膨らませるのは良くないッ!
分かってはいても本能には逆らえない男の性がだな……。
「ナユ……。 か、顔ひどいよ」
「ぶえっ、別に何も想像してねえし!」
「はあぁ、やっぱりまた変なこと考えてたッ。 サイテーッ」
墓穴掘った。スケベな妄想に鼻血を堪えるのに必死で自ら妄想に浸っていた事を白状してしまうとは俺もまだまだ、っか。
『――それでは、解散となります。着替えの終わった生徒は速やかに下校して下さい。尚、優勝チームの三名は教職員エリアにて今後の流れについての説明を受けて下さい。……以上です』
ざわつく会場に閉会のアナウンスが流れ、選抜試験が正式に幕を閉じた。
するとパイセンのチームメイトが荷物を背負い俺達の元へ近づいてくる。
「正直よ。嫉妬してないって言えば嘘になるけどさ、応援したいって気持ちは本当なんだぜ。だからよ俺たちの分まで楽しんで来いな! そんでさ、一緒に遊ぼうぜっオープンテストでよ! アイツもおまえらの事気に入ってるみたいだし頑張れよな?」
「ハイ! 目一杯、楽しんできます!」
本音を隠さず応援してくれる先輩も少なからず存在していることに感謝する、それどころか背中まで押してくれるなんてこの人たちはいい人達なんだな。
学年を気にせずゲームで遊ぶ約束をするなんて初めての経験だけど、嫌な感じはしないな。むしろ楽しみだ。
「いい返事だ! さて行くわ。お前らも早く先生の所行けよ? ほれッ! オマエもいつまでもプロレスごっこしてんだよ、さっさと帰るぞッ!」
気が付くと、俺が先輩と話している隙にパイセンにコブラツイストを掛けられているコウヤが幸せそうな表情を浮かべていた。
「なるほどな。これが嫉妬からくる怒りってやつか。殴りたくもなるな」
……羨ましいぜ畜生ッ。
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