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第3話:ミス・パーフェクト

◇◇


 生徒の七割が昼休みを過ごす食堂は既に人でごった返していた。しかし幸いなことに出遅れたにもかかわらず俺たちのマイテーブルはまだ空席のままだった。マイテーブル。正式には指定席や予約席といった制度は無いが多少のルールは存在している。

 広めのテーブルが多く配置されている中央は三年生、その周りの比較的人通りの少ない長テーブルは二年生、そして窓際のラウンドテーブルに一年生が座る。

 誰が決めたのかそんな風に振り分けられている。そして存在自体があやふやな『振り分け』によって分けられたエリア内に相応の利用者がお好みの席に座る。

 それがルール。


 これがショッピングモールのフードコートなら開いている席を利用する人がほとんどだろうが、ここは学校だ。同じ面子がルーチンワークとして繰り返し通う食堂となれば、そんな無秩序な事は起こらない。

 人は日常変化を嫌うからなのか、縄張り意識が強い生物だからなのか。一度決まってしまえば無意識に同じ動作を繰り返してしまうようだ。その結果として制度や制約が存在しなくともマイテーブルやマイプレイスというものが産まれてくる。


 そして俺たちのマイテーブル。五、六人用のサイズだけれども椅子は三つしかなくグループでの使用には適さない大きめのラウンドテーブル。

 壁際で端に位置するこの席は利便性最悪だが他と比べて大きめのテーブルだから気兼ねなく荷物を広げられるところが気に入っている。まさに俺たちのために存在する席だ。


 テーブルに付くと朝買った菓子パンを鞄から取り出した。食堂に『持ち込み』をする生徒は珍しくない。普通の学校ならば『ルール違反』だろう。一般的に昼食は『弁当組』は教室で『青春組(リア充)』は中庭、屋上でというのが相場だと思う。でもこの学校ではほとんどの教室に<オートルーム>が配備されている。だから校則で『教室での飲食は禁止』、そのため弁当組もこうして食堂をラウンジ代わりに利用することが多いって訳だ。

 <オートルーム>と呼ばれる全自動室内環境管理システムは云わば各教室に美化委員と用務員さんが備え付けてあるようなものだ。掃除もしなくていいし、備品の用意も必要無い。そう言った事は全て機械が自動でやってくれる。

 そんな全面がハイテク機械で覆われている教室内で飲食禁止というのは当たり前と言っては当たり前なのだが、俺としては精密機器なんだからせめて「生活防水ぐらいしとけよ」と言いたい。


「きょ、今日も菓子パン⁈ それも甘いのばっかりだし。あのさぁ……ナユ、バランスよく食べなきゃ駄目だって言ったでしょ? 何回も何っ回もー! 言った気がしますけどッ!」


 机の上に広げた『俺の昼食』をみたユナが呆れ半分に心配してくる。気を使ってくれるのは有り難いけれども、好きなものを食べて何が悪いんだ。それに甘いものばかりじゃない。飲み物は牛乳だ。


「午後はVRCの授業あるし糖分補給。ゲームだって脳味噌使うだろ。それにユナみたく料理できないんですよ俺は。この世に生まれ落ちてステータス振り分けを間違ったんでね」


 実質独り暮らし状態で育ったけども加工食品が普及した今日では自炊する必要性は薄く生活技能(サブスキル)で『調理』は取得さえしていない。『料理何それおいしいの』だ。あーいや料理はおいしいけれども、そういう意味ではない。

 ともあれそんな俺と違ってユナの料理スキルは結構高い。過去に奪取したおかずはどれも美味しかった。『三ツ星料理人見習い』的な肩書(サブタイトル)が入手できていても不思議ではないレベルの美味だった。


 料理が出来てゲームが得意なのに勉強も出来る、顔も悪くないしスタイルもスラっとしてて……せ、性格も良いっ! つまり俺が言いたいのは『どういうステータスの振り方をすればこんな完璧になれるのか』ってぐらいユナはなんでもこなせるってこと。

 そうだな四文字に集約するならば『完璧女子(・・・・)』。ミス・パーフェクトとでもルビを振っておこう。

 そんな次元の女子力を持ち合わせている。

 男の俺が嫉妬しそうなくらい主人公補正がされてるな。ハァ……。


「あの子でしょ授業中に居眠りしてた子」「目立ちたいからって調子乗りすぎじゃない?」「少し可愛いからって何しても許されると思ってるんでしょ」「特待生は余裕あっていいよね」


 鼻歌交じりに弁当を広げるユナを横目に周りの席に意識を向けた。

 気になるわけではないが自分たちに向けて発せられる誹謗中傷は嫌でも耳につくものだよな。


 大した理由が無くても突っかかって来る輩は何処にでもいる。せっかくの楽しい昼食だってのにイライラで腹より胸がいっぱいだっての。


 特待生――それは成績優秀な生徒に与えられる特別なレール。

 才能のある人間は何処の世界でも優遇される。当たり前の事だけどもそれでユナを妬むのはお門違いだ。彼女の才能は産まれ持った物じゃない、努力して手に入れた結果というのは羨むものではない。……それに努力してないのは俺の方だ。


 中学の時からゲームばかりしていた俺はクラスメイトから陰口を叩かれていた。だから俺にとっては誹謗中傷なんて日常の一部、ダメージは無い。でもそんな慣れてしまった自分が惨めで、どこか悔しい気持ちはある。そのことに腹が立つ。

 この湧きあがっちまったイライラを吐き出してしまいたい。アイツらに何か言い返したい……。


 八つ当たりは最低だ。でも考えてみる、それが『誰かの為に何かをする』という大義名分ということならどうだろうか。

 俺がここで立ち上がってアイツらに何か言ったところでユナの助けになる訳じゃない事は分かってる。

 でもユナの為に、今こそ自分たちの為に行動を起こす時なのではないだろうか? 


そうだッ! 言葉じゃないッ! 重要なのは……言うことだッ!


 覚悟を決めて椅子から立ち上がり、大きく息を吸――


「……いやぁ寝すぎたわぁ。授業おわってもだーれも起こしてくれねぇんだもんなぁー」


 遅れてやってきた『お調子者』が調子よく俺の肩に手を回して体を半分預けながら『わざとらしい愚痴』を溢した。せっかくカッコつけようと思ったのに台無しだ、ヒーローは遅れてやってくるってのはこういった漁夫の利で得しようという魂胆からなのかと錯覚してしまう。


 人気者が言う皮肉ってのはああいう輩にはよく効く。さっきまでケラケラと俺たちをあざ笑っていたグループは、ばつのそうな顔をするとどこかに去って行った。

 しっかしホント、変な所タイミング良いんだよなコイツ。


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