第47話:必殺の一撃
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「二人ともそのまま引き付けてっ! 私回り込むからっ!」
自らの鉄パイプに打撃強化の効果と他に珍しい詠唱魔法を重ね掛けしながら大きく回り込む姿には迷いはなく、その声からもいつにも増して強い意志が感じ取れた。
詠唱しながら走れるなんて流石は優等生と言ったところか。
「おっユナちゃんが自分から指示出すなんて珍しいねー。秘策でもあるのか!?」
「らしいな、このドラゴンの攻撃パターンだと簡単に俺らじゃ懐に入れない。ユナがラストチャンスだ」
「おっし、へばってねーでやんぞナユッ」
恐らくチャンスはあと一回だ、切り開くのはユナしかいない。俺らの全力をユナに注ぐ!
「――極眼覇陣、アーンド、約束されし聖なる加護ッ、かーらーの、城崩突破オオオ!! オラアアアッ全部乗せだああッッ」
出し惜しみなくスキルと短縮魔法を発動させてコンビネーション技をくり出すコウヤに後れを取るわけにはいかない、負けじと俺も技名を叫びドラゴンの注意を引く。
「ああっっと――三連でつぇ、ッいっだぁッッ!!」
「っぷ。何っ噛んだ? アハハッ笑わせないでよっ!! もうちょっとで詠唱終わるから待っててねっ!」
邪魔をするつもりは無かったんだがまさか噛むとは。……そんなに笑うことないじゃないか。
よほど大きな構成なのかユナの展開する魔方陣は鉄パイプの丈よりも一回り程大きく広がっていく。
流石にそんなに大きな詠唱となると誘導値が高くなりドラゴンのターゲットがそちらに引っ張られてしまう。
「まずい! 止めるぞコウヤッ!」
剥がれたターゲットをもう一度こちらに引き戻そうと手数重視の攻撃を行うも砕けた地面に足を取られて上手く当てることが出来ない。
そうしているうちに完全にドラゴンはユナに狙いを付け、大きく翼を広げ攻撃モーションに入ると瀕死とは思えない力強い衝撃波が吹き荒れた。
「うぉッ! んだよこの突風ッこんな攻撃もあんのか!」
「攻撃パターンが増えてるッ! ユナッ! 待ってろ……って、これじゃ近づけねえッくっそおおお!!」
物凄い風が足元を吹き抜け体が宙に浮きそうになるも、剣を地面に突き立ててなんとかその場に食い付くがそれが精一杯で援護どころではなくなってしまった。
顔を上げるといつだったか腹をぶち抜かれた見覚えのある尻尾を使った攻撃がユナに放たれようとしていた。
それにはコウヤも気づいているようで彼の顔にも焦りの色が見える。
「アアーッ畜生! こうなりゃアレやんぞッ! 闘魂天限ッ! 吹っ飛ばしてやるからアイツの脳天かち割ってこいナユッ! つぅッかーまーれえええーッッ」
そういうとコウヤは盾を垂直に構え、俺の背中に押し付けた。
盾の反射能力を使った斥力跳躍は前にやったことはあったが、その時は辛うじて姿勢制御出来る程度で本当に大ジャンプの域をでないそんな性能だった。
それを今回は本職の能力値補正で何倍にも強化されている。さらにはこの向い風だ。本当に成功するのかさえ分からない連携を練習なしのぶっつけ本番で行うなんて正気の沙汰ではなかった。
だがしかし、ここでドラゴンを止めなければユナが危ない。
口論している余裕はなかった。
「えッま、マジかよ! そもそも何処に掴まるんですかッ⁈ ……だああッ! もうッ! どうにでもなれ!! やってくれコウヤ!」
腹をくくると狂気の人間砲弾発射へのカウントダウンが始まる。
「……3、2、……1ッ!! ――臨界斥力ッ……解放ッッ!!」
手加減を知らないコウヤにより全力で撃ち放たれた俺はまさに弾丸のような猛スピードで加速し、ドラゴンの衝撃波をものともせず跳躍する。
急加速した人間砲弾は思惑通りに真っ直ぐ目標に向け距離を縮めていく。
「うおおお゛お゛お゛お゛お゛!! 今度はエンディングで終わんねぇぞ!! これがエンディングの先!! くらぅ゛えぇえぇええ――ッ」
高速発射された俺はドラゴンの眉間をかすめる。そのすれ違いざまに剣に体重をかけ勢い任せに脳天を打ち貫いた。
「「――グァア゛ウアオオオオ゛ッォオオ゛ン」」
それでもドラゴンは倒れず、鋭い牙がびっしりと並ぶ大きな口を開き、宙に浮く俺に噛みつこうとしてくる。
「あ、やっば。ッく、喰われる――」
「「ナユ!!」」
ふと、声のほうを見るとユナの多重展開した魔法が強化効果に乗算され鉄パイプが光り輝き、数十連撃分のダメージが一振りに集約していく。
「「いっただっきまーっすッ!!」」
重複処理された連撃とも取れる一撃は厚い背鱗の装甲を粉々に砕き、突き抜けた衝撃が空っぽの体内をかき混ぜて反対側に大きく真紅の花弁を咲かせた。
間一髪のところでユナの攻撃がドラゴンに届いたことにより閉じかけた口は再び大きく開かれ、咀嚼されずに吐き出された俺は地面に放り投げられた。
チートレベルの一撃にドラゴンは声を失いその大きな体を寝かせ、広げていた翼を丸めて長い尻尾からは力が抜ける。
そして末端から音もなく電子断片化していき小さな光の粒へ姿を変えていく。
どうやら詠唱が長かったのは強化スキルを複数回反復処理して効果を何重にも重ね掛けするループ系の魔法を演算していた為だったようだ。
「……ははは、アハハハハっ。本当に倒しちゃった……」
練習では何度やっても倒せなかった宿敵を遂に倒し、実質的な初勝利に身を震わせて喜ぶユナの元にコウヤと肩を組み歩み寄る。
「……すっげえ一撃だな。何だよあの威力、……痛ッ、それに比べて俺は……」
ほっんと俺ってカッコつかねーな。肝心な所で詰めの甘さからいっつも死に欠ける……うーむ。そうだな、このダサさを四文字に集約するならば『情けない』っつーかなんつーか。
「油断禁物っ、四文字に集約するならねっ! ちゃんと先のこと考えて行動しないの悪い癖だよっ!」
「そうそうッ、ユナちゃんが間に合わなきゃ今頃アイツの腹の中だったぜーナユくん!」
情けない上に四文字集約まで奪われるこの仕打ち。主人公にはまだまだ遠い……ん?
「――っと! あぶねえぞユナ、油断禁物、なんだろ? 勝ったには勝ったけどまだ終わってないんだから気抜くなよ?」
油断していた所に何処からともなく矢が飛んできて、当たりそうなところをそっとユナの手を引いて体を引き寄せた。
「最初はどうなることかと心配だったけど、何とかなったなーッ! ――うおッあっぶねーな、さっきからどっから撃ってきてんだ?」
「あっ、ごめん……ありがとナユ。えっと、いつの間にか囲まれちゃってるけど、どーしようか?」
ドラゴン退治に夢中で気づかなかったが、辺りを見渡すと一面雑魚敵だらけで逃げ道をふさがれていた。
「っふ。ザコがいくら束になったところでボスぶっ飛ばしたオレらの敵じゃねーぜッ」
「同感だ。そういうところは気が合うなコウヤ」
「ちょっとー! まーた無茶する気ッ! 油断大敵なんだよっこういう時こそ落ち着かなきゃダメじゃんッ!」
禁物なのか大敵なのか。まあどちらにしろ似たような意味合いだろう。
仲間と一緒という事もあるが、最強の敵を倒したことにより自信がついたゲーム脳が勢い余って裏返り、中二思考を始めてしまう。
「……怖いならユナは下がっててもいいぜ? ヤツらの相手なんて俺達だけで十分事足りるしな! なあコウヤッ」
「強がるなよナユ、オマエこそ休まなくていーのかよ? オレは別に一人でもかまわねーんだぜ?」
馬鹿な掛け合いをしながら強化スキルを発動して武器を強化して戦闘準備を済ませる。
「むっかーー!! べ、別にビビってないからっ!! 誰がトドメ刺したと思ってるのッ! 私も戦うからっ! ……もうっせっかく心配してあげたのに損した気分なんですけどッッ」
「はははッ、冗談だよユナ。一緒にやろう。そして見せてやろうぜ? ドラゴンを倒した実力をッ!!」
「んじゃ、さくっと。やーりますかッ! しゃあッオラアアアッ!!!!」
どっかのアニメで見たことのあるような、フランクな会話を交わしながらコウヤと肩を並べ敵に向かって走りだす。
先陣を切り敵の足を止めたコウヤの後ろから変則起動の攻撃を放つと例のごとくユナが後ろから遅れて着いてくる。
「なーんかいやな予感するなぁっ……待ってよーっ、私も戦うってばーっ!」
いつだったかはクリアしても虚しいだけだった。だけど今日は違う。
一人じゃないというだけでこんなにも見える世界が変わってくるものなんだな。
こいつはめちゃくちゃ楽しいぜッ!!
上下左右に鋭角に切り返し敵を翻弄する太刀筋はミツバチのように目標を捕らえ、鋭く相手の体に突き刺さる。
「「ザコはそこに突っ伏してやがれッ!」」
…………。
……。
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