第45話:醍醐味
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ガイコツ野郎の相手をするので精一杯なのにこれだけ大量の敵を捌けるわけがないので、盾持ちのコウヤが他のターゲットを引き受けるのは理に適っている。
でも十体以上いる敵の攻撃にコウヤが耐えられるはずない。どう見ても無理ゲー。
二人の様子を窺う間、ボクシングでクリンチと呼ばれる行動制限テクニックを流用してガイコツにくっ付けていた上半身を離す。
そして牽制目的に剣を振り攻撃の出ばなをくじくと大きく距離を取る。
「ユナッ! 閃光だ! 一旦退却して立て直そう! コウヤはスタン確認したら手持ちの煙幕全部撒いてくれ!」
一瞬肝を冷やしたがコウヤが早々にターゲットを一か所に集めてくれたおかげで一回の閃光魔法で全ての対象をまとめて状態異常させることが出来た。
ひとまず隠れたとはいえ追い詰められたことには変わりなく、煙幕が晴れて奴らに発見されるまでそんなに時間はない。
思考を巡らせこの無理ゲーをクリアする方法を考える。
ルールとクリア条件を思い出し、選抜試験の内容を客観的に分析する。
第一グループは全滅。実際に見てはいなかったが第二グループでもクリアチームは無かったみたいだ。
これはあくまで推測だが、この流れで行くと俺達を含め最終グループでもクリアできるチームはゼロ。
もしだ、もしも勝者が出なかったら何を基準に選抜チームを決定するんだ?
難易度を下げて再試験って事も考えられるが、その場合全体の日程に影響を及ぼして技育専としてのメンツを傷つける可能性がある。それは政府軍立校として避けたい事態のはず。
勝者の無いゲームでの順位の決め方。この試験で得られるチームの格差を示す情報。それはゲームオーバーまでに獲得した暫定スコアじゃないか?
下手に学年別や成績順ではなく、あくまで選抜試験内での実績を基に判断すれば、後に問題視されても実行委員会は言い訳が出来る。
「とりあえず、うまいこと逃げられたけどよ。これからどーすんだよナユッ、ドラゴンどころか雑魚相手にこれじゃ幸先危ういぜ……やっぱり作戦会議しときゃよかった……」
流動的な戦闘では機転を利かせて状況に対応できるかで勝敗が決まる。これは現実世界でも同じだ、行動を起こすか否かでその先に待つ絶望を避ける事が出来る。古いアクション映画で主人公がそんなセリフを言っていた。
――それなら……それならいっそ……先人の言葉に従ってみるのも悪くもないかもな。
閃いた作戦は馬鹿げた賭けだったが、それが今は最良と判断して二人に今後の動きを説明する。
「まあ落ち着けよコウヤ。今からでもおそくない。ところで、一番経験値多いモンスターってどいつだと思う?」
「へ? こんな時に何だよその質問。そりゃボスだろボス。常識的に考えれば一番強い奴が一番多い」
――ボス戦はゲームの醍醐味だから当然そうだよな。
変な質問に疑問を抱きながらも答えてくれたコウヤにさらに念を押すかように質問を続ける。
「普通そうだよな。レアモンスターとか稀に例外は存在するけど一般的にはボスが一番スコアが高い」
過去の失態を受け、少し遠回りしながら段階を踏み二人に分かりやすく説明を続ける。
「採点が存在する以上は基準点と加算点が必ず設定されているのは分かるよな?」
「うんっ、シューティングゲームとかの最後に表示されるトータルスコアとかのことだよねっ? えっと、今回は殲滅戦だからベーススコアは……クリアしたスコアになるのかな? だからリザルトはそこにクリアタイムとか被弾率とかボーナスが上乗せされて――」
「惜しいなユナ、クリアスコアはあくまで結果に過ぎないんだ。殲滅戦ではクリア条件に隠れてパッとしないけど、トータルスコアを計算する関係上必ずゲームに組み込まれている最下層のベーススコア……各モンスターに設定された歩合制の点数……」
核心に迫っているのを感じ取ったのか二人の顔つきが何とも言えない難しいものになっていく。
物言いたげな表情はまさに……
「……まさか」
と言いたげだ。
実際に言うとは思わなかったけど、そのまさか。
「ナユお前自分で言ってたじゃねえかVRCはゲームじゃねーんだぜ?」
「いいや、選抜試験はゲームだよ。大切なのは捉え方、心構え……雑魚とボスを一から十まで(全部)倒すんじゃなくて、ボスだけ狙う! 四文字に集約するなら『一か八か』のゲーム。ゲームだからクリアできる! 常識に囚われて全滅するぐらいなら、ボス戦に挑戦しかないだろ?! 倒すぞドラゴン!」
それは自分への言葉でもあった。少しでも疑いが残っていたらこの作戦は失敗する、だから言い聞かせる『全部はゲーム』だと。
「つまりナユが言いたいのは、同じレベルなら一番ポイント高いモンスターをやっつけよう。ってこと? いくらなんでも無茶だよっ! 本気!?」
気でも狂ったかとそう言えば済む話をオブラートに包んで言ってくれたのは有り難いけれど、俺はそもそも正気だ。
それどころか過去最高にテンションが上がってる。
「二人ともそーいうの得意だろッ? この状況を楽しまなきゃ損だ! ゲームっつったらボス戦!」
「で、でも、その作戦は、私はっ……私は……ッ。 ううん! そだよねっ楽しくなくっちゃゲームじゃないよねっ!!」
「まッ、嫌いじゃねーな。でもお前が楽しむだなんて言いだすなんて。一応確認すっけどナユ、別に諦めちまったわけじゃねーよな? 玉砕覚悟の神風特攻ならオレはお断りだぜッ?」
プレイヤースキルだけではなく戦闘中の判断力計測もルールに織り込まれているとしたら、もしそうならこの判断は正しい。
もし間違っていても、全滅した事実はどのチームも同じで俺達が不利になる訳でもない。
それになにより、これは待ちにも待った選抜試験なんだと考えると楽しくなってくる。
そのうえ隣には俺を信じて付いて来てくれる友達がいる。
それはもう、とても楽しい思いだ。俺達は今ゲームの中にいて、主人公なんだッ!
「……ばーか。――こっから本気モードだって!」
「……そっか! なんかナユ変わったな」
「確かに!」
「まあ、そりゃそうだろーな。っと、そろそろだみんな」
きっとそれはお前らのおかげだ。そんなお前らに恩返しをしなくちゃいけない。こっからは足手まといにはならない。
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