第36話:リプレイデータ
◇
「過去に開かれた大会のダイジェスト版か……、コウヤは観た事あるのか?」
「レアものプレミアデータだからな。オレもお初にお目にかかるぜ」
派手なキャプションがフェードアウトして画面が暗転した。そしてしばらくして本編の映像が始まった。
「 「 「ライトニング・スティーングッ!!」 」 」
始まると同時に叫び声が響き渡り、咄嗟にモニターの音量を下げる。
俺達と大して変わらない年齢に見える赤髪の少年が威勢の良く敵に攻撃を仕掛けている。
「亥人ッ! 右三歩後方ッ中段来るッ!」
「オーケー明人、大丈夫だ見えてるっターゲットそっちに渡すからタゲ取りまかせんぜッ」
赤髪の少年は後ろにも目がついているのか、前方への攻撃に集中しているにもかかわらず後方にいるチームメイトに的確な回避指示を出していた。
ちなみにいまの会話から指示を受けたのが亥人でこの赤髪の少年が明人だと判断できた。
「スタン撒くぜッ! はああッ! グラウンド・ステップッ!! うおおりゃああーッ」
亥人は浅めの攻撃で敵を誘導して器用にタゲ回しを済ませると、打撃武器を地面に突き刺し範囲状態異常効果を周囲に展開した。
「ナイスッ! ファントム・ブレイカアアッ」
まるでゲーム実況動画でも見ているような、自分が理想としてきた機械的で効率重視の理想としてきた攻略法とはあまりにかけ離れた動画の内容は俺が思っていたVRCの模擬戦とはかなり違っていた。
「なっ、なんて言うか……」
「コウヤが二人いるみたいっ!」
「な、なんか馬鹿にしてねーか? それ」
実際おまえはバカなんだから仕方ない。
それはそうと……
「これ三人いるな。動画間違ってる?」
「つーかツール縛りか? なんで三人とも鉄パイプ使ってんだ」
「鉄パイプ最強説じゃんっ! ほらー! ほッらぁー! ふははーッ!」
タイトルとキャプションにはコンビって書いてあったが時折女の子が画面に見切れる。
近接二人に遠距離一人。確実に三人いる……まあ三人チームでの戦闘なら今の俺達には都合が良いか。
とくに赤髪の明人って人は、斬り込んで場をかき乱していく感じがコウヤにそっくりだ。違う点はチームメイトが立ち回りやすいように時折状態異常や足止めを挟み、俗にいう『戦況管理』をしっかり行っている所。これは良い参考になるぞ。
しかしあれだな、三人目の女の子……どことなく雰囲気がユナに似ている気がする。装備が鉄パイプってのもあるかもしれないけれど、楽しそうに戦ってる姿が……。まあいいか。
「ナユ! この人たちすごいねっ、息ピッタリだよっ! それにみんなすんごく楽しそうっ! 凄いレベル差あるのに全っ然引けを取ってないよっ!」
「それどころか全くダメージ受けてないな。ここまでノーダメージじゃないのか?」
乱戦を華麗に捌き次々とモンスターを倒していき数が減り戦闘の規模が小さくなってくるとシーンが切り替わりボス戦の映像に切り替わる。
そこには見覚えのある憎き大型爬虫類の姿があった。
「みんなッ! 中にはいる! 援護よろしく!」
「あいよ! 一応自己障壁掛けとくぜッ」
明人さんがドラゴンの懐に飛び込むと見に覚えがある連続攻撃が彼に襲いかかった。
「オラオラッ! おっせーぞトカゲぇッ! そんな計算どおりじゃあ攻撃なんてあたんねーぜッッ?」
攻撃モーションよりも早くステップを踏んでいることから、完全にフィーリングで動いているのは明白だと思うのだが完全に敵の攻撃を見切ってきっちりカウンターを返す明人さんの動きを見て口が開きっぱなしになってしまう。
「まじかー……アレ避けられんのかよ。スゲー反射神経……」
コウヤの目には身体能力で避けているように映っているようだが、反射神経だけで避けられる代物ではない。経験上、俺には分かる。
明人さんと比べてもなんだが、俺の時は予備動作を見て受け流すのが精一杯だった。それどころかあの攻撃は変則的な無作為に放たれるからパターンを読むことも不可能なはず……だと思う。もしかして予備動作+反射神経ならできることなのか?
いったいどうやっているんだ? あの完璧なまでの動きにはチートさえ疑ってしまう。 それに……なんでこんなに楽しくやれてんだろう……。こんだけ上手いと余裕ができるのか? 羨ましい。
画面に目を戻すと、ドラゴンが懐で暴れる明人さんに気を取られている間に遠方から大型詠唱を終えた亥人さんが魔法を放ち、遠距離へターゲットを移す。
その一瞬の隙に中距離からドラゴンに間合いを詰めた謎の少女と明人さんは爆縮系の効果を付与させた鉄パイプをドラゴンの腹に突き刺した。
「うまいッ!」
「あっ! ねえねえ今の動きってさ、この前ナユが一人でやってた奴じゃない? 失敗しちゃってたけど……。やっぱり三人で連携してるとドラゴン相手でも楽そうだねーっ」
言い訳をさせてもらおう。一言だけ。
「尻尾が伸びなきゃもっといけたハズだから! ……た、たぶん」
「往生際が悪いぜナユー。次は結果出そうぜ」
ぐぐッ。炎に呑まれて蒸発した奴に結果を出せとか言われたくねえぇえぇえ……。
自分たちが苦戦しているドラゴンをいとも簡単に倒した三人は拳を合わせると、コチラまで幸せになりそうな満面の笑みを浮かべお互いを称賛し合っている。
陽気なファンファーレが流れ、カメラが三人に近づくと明人さんが指をさして決め台詞を叫ぶ。
それは画面のコチラ側にいる、見ている俺に直接投げかけられたように感じるほど真っ直ぐな眼差しだった。
「 「――コレが世界の先だッ!」 」
その言葉を最後に動画は終わり、卓上モニターの画面は元の観戦用の中継映像に切り替わる。
俺達は余韻に浸り複雑な表情を浮かべる。
「…………うっはぁあああッ!! かーっくいーッ!!!」
「すごかったねーっ! 私たちもあんな風に戦えたらなぁっ」
試合の条件は違えど明人さんの近接戦は目を張るものが在ったし、亥人さんともう一人の娘の連携プレイもすごかった。
そして何より三人の戦闘からはもっと大きなヒントを得ることが出来た。
「俺さ、今の試合見て閃いたんだけどさ。今回の実技試験はプレイそのものが採点される訳だけども、無理に気張って最高のプレイを目指す必要は無いんじゃないか……と思うんだ。確かに明人さんたちのプレイは最高最強だった。けれど本当の勝因はそこじゃなくて、ノーミス、ノーダメージでクリアした所だと思える。それってつまり他人のプレイを見て、ミスを覚えて、ソレを避けるようにすればいいって事じゃないかな? ……ってさ」
「んーと……? 上手い人を真似するのと何が違うの……かな?」
「えっと、間違ってはないんだけど……」
言いたい事が上手く伝わらず、首を傾げる二人に苦戦する上級生の中継映像を指差しながら分かりやすく要点をまとめて説明し直す。
「あーっとさ、明人さん達みたく、陥りたくないシュチエーションを避けていけば自然と勝てる。そんな気がしたんだ……。効率よく落ち着いて。でももちろん、なりたい自分を目指すのは当たり前の大前提にあるんだけどさ。……分かりずらい……っか」
なんてーんだか……こういう時にかぎって文字を集約できねえ……。
自分でも具体的なイメージが纏まっていないのに他人に伝えるのはやっぱり無理があったかな? でも少しでも伝わったならきっと今日は上手くいくんじゃないかと。そんな気がしたから口にしたんだが、失敗だったかな?
『――エントリー四五、お待たせ致しました。端末の準備が整いましたので六十秒以内にリマインを開始して下さい』
そうしてる間に自分たちの順番が回ってきてしまった。
しかし、二人は嬉しい一言を口にした。
「うーっし! 今日は亥人さんみたく状態異常とかつかって被弾減らしてみるかー!」
「じゃあ私はあの女の子の真似してみようっと!」
動画を見ていたせいで大した作戦会議もしないままだったがアナウンスを聞いたコウヤはジャージを脱ぎ捨てて肩をグルグル回しながら歩き出す。
コウヤの口から初めて前衛職らしい言葉を聞いたかもしれない。
「え? あ、おう! 攻撃止められなくても、動き遅らせてくれるだけでもだいぶ楽になる! 頼むぜコウヤッ」
「今日の目標! 全滅ルートを回避っ……だね!」
なんだ。伝わってんじゃんか。
先輩から貰った動画データはいい刺激になった。感化された俺達は自然と言い方向へと方向修正出来たみたいだ。
「言わなくても分かってると思うけど、コウヤは突っ走らずに周りをよく見る。ユナは大技だけじゃなくて支援もよろしく! んでもって俺はッ……俺は……もっと周りと連携を……」
「それはこっちのセリフ! ナユもっと私たちに頼っていいよっ! 前にでて、そして後ろは任せて!」
「そうだぜナユ! こーいうのは信頼関係が重要ッ……だろ? つっても、現状オレらの方が頼っちまってるからな、だからよーッ! 今日は気合入れていくぜッ!!」
目標は……『絶対勝利』ッ! そのあとは『圧倒勝利』!
VRC端末に腰かけてリマインを開始する。
電子世界に入ると目の前に百鬼夜行が広がり、これから行われる戦いが厳しくなることを予見させている。
「――ナユッ! 必ず、生きて帰るぞ!」
「ちょっとコウヤっ! それ死亡フラグじゃんっ!」
「分かってないなーユナちゃん。 それは違うぜッ、フラグは折る物ッ! 行くぜ! ライトニング・スティーングッ!!」
明人さんの技名を丸パクリしたコウヤがいつも通り敵に飛びかかり、それに続くように俺も斬り込むと遅れてユナが追いかけてくる。
「うりやぁあぁ、ぁ……って、おいぃッ! これじゃあ、なんだかんだで、いつも通りじゃねえかッ!」
まあ、……とりあえずやってみるか!
◆◆




