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第35話:驚異の胸囲


「「うひふょええっうあッッ」」


 自分でも恥ずかしいような高い声で何語とも分からない驚きの言葉を叫んでしまった。

 さっきまでグウタラしていた二人も大声に驚き飛び起きて事態を把握しようと周りをキョロキョロと見回す。


「ふふっいやあ、すまないねぇ。驚かせるつもりは無かったんだ。しかしなんだいっ? その奇声は。面白いなーキミ!」

「ああーっと、ええーと。ありがとうございます?」

 

 突然の急襲に慌てふためき頭の中は真っ白になりパニック状態に陥り、先輩の言う『面白い』とは褒めているのか小馬鹿にしているのかニュアンスが分かりずらかったのでつい語尾を上げて疑問符を付けてしまった。

 振り向いた先には見覚えのない上級生の女生徒の姿があった。

 過去に会ったことがあればまず忘れないであろう特徴的な凹凸が邪魔してジャージのジッパーが胸の所で止まってしまっている。

 目を疑ってしまうほどの、驚異的な胸囲の脅威がそこにはあった。


「ナユ、知り合いか?」

「あー、いや? 初めまして……ですよね?」

「やーやー、そうだよ。キミたち一年生代表チームだろ? かったいねー! そんな浮かない顔してさ、もっと肩の力抜いてゲームを楽しまなくっちゃ損だろっ損――ゲーマーなんだろ? キミたちも」

「えっ、すごいっ! どうして私たちがゲーマーってわかったんですかっ! 匂い……とかっ。かな?」


 クンクンと鼻を鳴らすユナを見て我慢できずに吹き出して笑いだす先輩の事を不思議と馴れ馴れしい人だとは感じず、すこし身近に感じた。

 それもそのはずだ。身構える俺達に笑顔で先輩は当たり前のその事を丁寧に説明ししてくれる。


「っぷ! ぷはぁははっ! に、匂いって、なんだいそれ? そんなの決まってるじゃないかっ、bitさ! これは新作ゲームのテスターに選ばれる為の試験だからねぇっ。誰よりも早くプレイしたいって、みんなそれだけの為に必死こいて死に物狂いで練習してるんだろっ。そんなことするのはゲーマーだけさね! 少なくともアタシはその部類さっ! しっかしまあ、ゲーマーだからこそ挑戦するってのも幾らかあるけどねぇ」


 改めてその事を聞くと分かり切っていた事なのにまるで知らなかった真実を聞かされた時のような何か不思議な感覚に包まれた。

 そうだった、これは直接成績に影響しない自由参加型の選抜試験だ。今まで外野に好き勝手に言われていたから勘違いしていたけど、参加者自体はみんな俺達と同じでテスターになりたいゲーマーなんだな……。そしてこの先輩もその一人なんだ。


「まっ、話しかけたのには理由があってねぇ。お節介かもしれないけれどひとつ塩でも送ろうと思ってさ。他の生徒を観戦するのもわるかないけど……やっぱり参考になるのは最強最高のプレイだとは思わないか? そこでだっ! この動画みせようと思ってさっ」


 テンション高めの先輩は卓上モニターに自分の携帯端末をかざすと映像中継されていた画面が切り替わり『亥明コンビ神プレイ』という映像データのタイトルが表示された。


「イメイ?」

「ちっがうぜ! ナユ! カイメイコンビだよ亥人さんと明人さんのリプレイデータだよこれッ! 先輩これすげーレア物じゃないっすか!」

「おーっ? キミは二人を知ってたか。まっ、有名だからねぇ! 技育専の卒業試験より断然難しい最大難易度の大規模討伐をクリアっ! そのうえ彼らのスコアは未だに破られていない。ふふっ、委員会の仕事でサーバーを整理していた時にアーカイブから見つけたお宝動画さ!」


 亥明という単語を聞き大はしゃぎするミーハーは情報通気取りで得意げそうに上から目線で冷やかしてくる。


「にしても、亥人さんと明人さんを知らないなんてナユ君はまだまだモグリですなー」

「うっせ! こんにゃろー……!」


「たしか、技育専(ココ)の卒業生だよねっ? 明人さんって人は。亥人さんは違うみたいだけど。クラスの娘が噂してるのを聞いたことあるっ」


 詳しくはないけれども名前ぐらいは知っていたらしくユナが欠落した情報を保管してくれた。

 卒業生って事は今頃はリマイナーに就職して世界を救っているんだろうか? なんかカッコいいな。


 元々高めだった先輩のテンションは限界まで引き上げられピークに達する。

 そしていざ動画を再生しようとするとVRC端末の方から先輩を呼ぶ声が聞こえてくる。


「それじゃ早速っ、きっとシビレるぜぇーッ!? れっつ、さいせ――」

「おらー! いつまで油売ってんだコラ! 次だぜ次ッ!」


「 「んーっ!!! こーれからがイイ所だったのにいいッ! くぅうッッアンタら、先にやってればいいじゃないか!」 」

「ざっけんな! ハヨ来いやッ」


 チームメイトに呼ばれるもごねる先輩に追い打ちをかけるようにアナウンスが流れリマインまでのプリカウントダウンが始まる。


『――エントリー三九、お待たせ致しました。端末の準備が整いましたので六十秒以内にリマインを開始して下さい』


「……あーあ。せぇーっかく一緒に見ようと思ったんだけどなぁー。……ッン! でも仕方ない!」

「あの先輩? どうして俺達にコレ見せようって思ったんですか? 一応敵チーム同士ですよね」

「ふふっ、そりゃライバルってのは強い方が燃えるからに決まってるからねッ! ……まっ、アタシら負けねーけどッ! そんじゃお先っ!」


 がっくり腰を落し落ち込んでいたが、整った顔をパンパンと叩き気合を入れると先輩は勇ましさを取り戻し、俺達に手を振りながら駆け足で去って行った。


「なんだかおもしろい先輩だったねっ」

「つーよりも変な先輩だったろ」


 でもまあ、いい先輩には違いないのかな?


「…………オッパイ先輩。走ると一段と凄いな。また話す機会あるといいな、なあナユ?」

「それは世間ではセクハラだぞコウヤくん、台無しだっつの」

「……んじゃー、パイパイ、っとかどーよ?」

「ああー、二つ付いてるしなぁ……」

「はぁっ……ホっント、ドのつくサイテー」


 いきなり現れていきなり去って行った台風のように巨大なオッパ……いや、パイパイ先輩の呆気にとられ小さく首を傾げながら残された俺達は卓上モニターを前に少し息をついた。


 そして短い沈黙が続き、コウヤが残りの待ち時間の潰し方を提案する。


「さってと、なあなあ、時間あるしよ? 見てみようぜッ! せっかくだしよ」

「そだよ! そだよ! うわあッ、ワクドキするねーっ!」


 モニターに先ほどから表示されているデータに手を伸ばし、優しくタッチするとデカデカと『亥人明人コンビ・ゲーミングスクール合同実技試験・最大難易度・ダイジェスト』とキャプションが表示された。

 派手な字体と無駄にカラフルなキャプションにはセンスを疑う。このデータを編集した奴は熱狂的なオタク系のファンに違いない……。

 あとどうでもいいことだが、ユナは何にでもドキドキして人生楽しそうだなとたまに思うことがある。


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