第34話:待ち時間
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一悶着あったが、気を取り直して卓上モニターを起動すると上級生のプレイ中継が映し出される。
自分たちの順番が来るまでそれを観戦することにした。
しばらくして機嫌を直したユナがモニターを指差して声を上げる。
「あっ! ナユっ、このチーム私たちに似てるんじゃないかなっ! 盾と魔法の組み合わせだよっ参考になるかも!」
「すっげー先輩達も相当気合入ってんなー」
指摘されモニター内の三人組を分析する。
似てはいるけれども参考にはならないか。
「盾持ちつってもこの人は槍型の武器だからなぁ。コウヤとは違って直線的な立ち回りになるし、魔法職の人も身体強化系で完全に支援に努めてる……。ぱっとみ同じように見えるけど立ち回り以前にチーム編成のコンセプトから違うようだ」
「そっかぁっ……難しいなぁ」
「言わんとすることは何となく伝わってくんだけどよー? 具体的なイメージがなー。なんつーか……わかねえーんだよなあ」
しかたなしに俺は二人にも分かりやすいように、慣れ親しんだアクションRPGを例えにして自分たちのプレイスタイルを振り返り、個人的に感じている改善点を挙げていく。
「そうだな……。とりあえずコウヤの改善点はライフ気に掛けながらターゲット管理しっかりする事かな。盾職は前衛らしく前線保持ッ!」
盾をつかって前衛を担当するコウヤは<前線維持要員>に相当するんだが、ライフ管理とターゲット管理が雑なため実際には<斬り込み隊長>寄りの立ち回りになってしまってるんだよな。
肉を斬らせて骨を断つ戦い方はチーム戦には不向きだ、特に今回のチームにはってことだけど。
「そうはいってもナユよ、ターゲット管理って意外と難しいんだぜ? アクションゲームみたくマーカー出るわけじゃないし誰を狙ってるかとか分かりずれーんだよVRCだと」
「ったく、オマエはー。……まぁわからんでもないけどな。だけど数値的な管理が難しいなら、格闘ゲームか何かだと思って敵の『視線』や攻撃モーションの『予備動作』を注意深く観察して動きを先読みするんだ。んで、あとは相手の進行方向塞げばターゲット固定できるって寸法。運動神経とかない俺でもできるんだからおまえならもっとできるし。いやなにより、『もう手足の感覚がねえ』とかバカな事言って遊ぶ余裕あるなら出来んだろ?」
ぶうたれるコウヤに具体的なターゲット管理の方法を説明するも、なにやら不満がありそうな表情をこちらに向けてくる。
「んだよー。あん時、ナユだってノリノリだったじゃねーかよー。それにあれでも頑張ってた方なんだぜオレー」
「何が頑張ってただよッ、VRCにスタミナの概念はねえから! あの時まだ動けただろオマエッ」
つーか、せめてユナの詠唱が終わるまで堪えてくれればどうにかなったかもしれないのに……タンクが途中で諦めたら駄目だろ。
コウヤに対して一通り要点を伝え終ると今度はユナに対して、思い出したようにツールについての指摘をする。
「ユナはさ、ツールを汎用型のブレード系に変えた方が良いと思うぞ? 硬化より敏捷系の付加効果使える方が何かと便利だし、鉄パイプってデカいし詠唱の邪魔になってるだろ」
詠唱魔法は高火力が期待できるが、ユナの使う鉄パイプのような打撃武器には詠唱硬直や構成速度のボーナス効果が付かないため結果としてDPSが下がり火力職としてのメリットが活かせない。
その点、汎用型のツールにはステータスの底上げと硬直短縮効果がある為それを勧めたわけだ。
「えーっ私はクラックツールのままがいいなあっ! だってさ、なんか鉄パイプでガツーンってやった時のこの……手に伝わる打撃感! そして……打撃音が!! 『ダメージ与えてますよーっ』って感じして好きなので変えたくないデス!」
「ゆ、ユナちゃんユナちゃぁーん? ガツーンからの打撃音って……分からなくもねーけどよ。やっぱりナユの言う通りだと思うぜオレも。個人的なこだわりは捨てて勝つことに集中しねえとさ? なッ?」
ニヤニヤしながらの発言が気に障ったのかユナはむきになってコウヤの痛い所を突く反論する。
「鉄・パ・イ・プ・が・いいのッ! コウヤだってあんなにゴツくて重そうなの持ってるじゃんっ! あれってナユの小手と同じリフレクター系で反射率おんなじぐらいなんでしょ知ってるんだからッ!」
「え、た、たーしかに性能は同じかもしれねーけど耐久値が……あとほら! 見た感じからして小手じゃブレス弾ききれねえし! そ、それに……それにつ、ツールってのは見栄えも考えてトータルコーディネートをだな……」
「あーっ! それってダブルスタンダードじゃないっ? ズルいよね! ズルくない⁈」
猪突猛進な前衛と殴り仕様の後衛、そして二人を援護する為に俺に器用貧乏なポーンの役回りが俺に回ってきて最終的にはお互いの能力を殺し合い全滅してしまう。こうして考えるとやっぱりVRCってのはゲームを模してはいるかあくまでリマイナー育成目的の訓練プログラムなんだと痛感するな。
ゲームの醍醐味であるはずの『こだわり』や『縛り』といったものが攻略の妨げになってしまっている。もっと効率的に機械的な作業としてプレイしなくちゃ駄目なのかもしれないな……。
VRCには現実世界同様に物理法則と環境変数などの世界を構成するのに必要最低限の要素しか設定されておらず、システム自体には明確なルールは存在せずその代わりとして『課題』という名のルールをその都度生徒に課し目的として提示する。言うならばこれは物理シュミレーターだ。
実技の授業ではルールを正しく理解してクエストを把握してゲームを効率的にクリアすればいいだけ。
だから俺の得意分野ではある。それなのに今回の選抜試験では『敵を倒す』というのが課題でそれのクリア条件もまた『敵を全滅させる』とされ、ルールとクエストが漠然とし過ぎていて普段みたく逆算式で効率的な攻略法が導き出せないで困っているわけだ。
個人の技術や協調性を計る為のプレイヤースキル重視の無理ゲー……クリアのヴィジョンが全く浮かばない。特に協調性のステータスはひどいからな。
どんぐりの背比べで疲れ切ったユナとコウヤは机に突っ伏して、それを横目に溜息をつきながら卓上モニターを操作して何かヒントになる物がないかと探していると耳元にくすぐったい音と息がかかる。
「――上々かい?」
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