第32話:反省会
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目を閉じて心の中でここ数日の事を振り返る。
数日前に選抜実技試験の参加ルールが変更されてからこうして毎日放課後にVRC端末の使用許可を取り特訓をしている訳だが、この通り連敗記録を絶賛更新中で……今回ので三四連敗目だ。
試験内容はある程度公表されていてその内容は各種モンスターの討伐ミッションで制限時間は20分、公平を期すためにステータスレベルは50とされ敵のレベルは非公開。使用武器の制限は無く試合中の変更も許されているが、ステータス再割り振りは不可なので『近接特化』から『魔法特化』への切り替え等の大きなスタイルの変更は出来ない。
連携と個人技といったプレイヤースキルがクリアの鍵になるようにゲームデザイナーがそこに重点を置いて作ったのが伝わってくる。
まあつまりは『三人で協力してザコがわんさか居る中でボス級をブッ倒せ』ってことだ。
敵のレベルが分からないのでとりあえず過去の実技試験や卒業試験を参考にプレイヤーから±20レベル程度に設定して練習を重ねているが未だにクリアした事がないのは難易度の設定高くし過ぎってこと、……ではないよな。
……今日はもう少しで倒せそうだったのに――悔しいな……。
「「ほっんと。どうしてうまくいかないんだろうねっ、ゲームではばっちり連携取れてるのになぁーっ」」
ユナの声が聞こえて目を開くとそこは低い天井と見慣れた壁紙に囲まれる俺の部屋だった。
VRCルームでうなだれていたはずが、いつの間にか自分の家のソファに座っていて三人で反省会をしている。
それもそのはず、今日の特訓で精神力を使い果たした俺はあれからずっとうなだれ、同じ事を考え続けていた。
『なんでクリアできないのか?』と。それはみんな同じでそれを模索する目的で反省会を開く流れになった、はずなんだが……。
何故か手には携帯ゲーム機を持っている。これではどうみても反省会ではなくゲーム大会だ。
仰向けの体を起こして放置していたゲームを再開する。
「そりゃ、協力ゲームだからな、コレは、……ッパスパス!」
「おっけー! ユナちゃん左サイド空いてるッ! それそれッ」
そもそも明確なルールが決められ行動制限があるスポーツゲームとVRCを比べるのは無理がある。
「コレとは土壌が違い過ぎるよ。 ……ほらユナ! シュートシュート!」
コウヤから回ってきたボールを転がして相手の守備を引きつけ、逆サイドにいるユナに向けタイミングよくロングパスを飛ばすと、不満を口にしながら力強いシュートをする。
「む。じゃあっ、なにと比べれば……――ッ、いいんですかッ! っと」
『――GOOOOOOOAL!!』
見事ゴールを決めると実況者が陽気な巻き舌で叫ぶ。
画面が切り替わるとリプレイシーンがループ再生する。
一段落したゲーム機をテーブルに置き、伸びをしながら立ち上り冷蔵庫にアイスキャンディを取りに行く。
「これは俺の考えなんだけどさ……模擬戦闘訓練ってゲームより格闘技に近いんだよ。状況判断と駆け引きが主役で過程よりも結果を重要視する作りになってるからな……ゲームとして扱われているけど実際はそんなことない……と思う」
「ふーんっ、でもナユはVRCの成績いいじゃん? ゲームだからじゃないのっ?」
ほう。それは褒めているのか? それとも俺にはゲームしか取り柄がないって言いたいのか? 合ってるけど。
だが、棘のある言い方をする悪い子にはちょっとしたお仕置きが必要だなッ。
「おまえアイス無しな。コウヤは食うよな?」
「食う食うッ! オレ、グレープ味ィ! しっかし、オレも自分が人よりVRCが得意なのは、ゲームだからってわけじゃなさそうだぜ」
「私はソーダ味……って、え⁈ ええーっ!! なんでよっ!」
「そう、ゲームだから得意なわけじゃねんだよっ……っと、くうう冷てーえッ。エクセレント」
やっぱりアイスはソーダ味に限るぜッ!
冷凍庫を漁り、床に寝転がるコウヤに発見したグレープ味を放り投げてから、その場で袋から取り出しアイスを口にくわえる。
そして至福の時を満喫しながら来た道を戻り指定席に付くと最初は拗ねていたユナが険しい表情で獣のように喉を鳴らしてソファの後ろから手を伸ばして襲いかかってくる。
「私も食べたいッ!! 喰わせなさいっ!! うがああーッ」
こいつ食い物の事となると豹変するな……特に甘いものだと。
暴れるユナを片手で払い、中断していた話を再開させる。
「正しく言うと俺が得意なのはVRCじゃなくて授業の方な。あれは単純に『出題を正しく理解して課題を把握し、実技を効率的に消化』してるだけだから選抜戦とは別物だよ、ある意味ロールプレイングしてるってわけ。――ちょ、やめてっ、叩かないで……ったくしゃーねえな。ほらっ……半分食ってどうぞ」
「やたーっ!! んんーっおいしいいいッ!! でもさっ、やっぱりゲームだよねっソレ」
一言多いんだよ……可愛くねえなッ。
「やっぱそれ返せッ」
「もうたべましたーっ! 残念でしたあーっ」
「こ、コイツ……」
オモチャを買ってもらった子供の様にさっきまでの不機嫌そうな表情はさっぱり消え去り鼻歌交じりに隣に腰かけて勝ち取ったアイス頬張り幸せで緩みきった表情を浮かべている。
「つーかよ? せっかく実技選抜試験を受けられるようになったてのに、このまんまじゃ負け確定じゃんか。あーあどっかに攻略本落ちてねぇーかな……にしても今日もアツいな」
「んな都合よく攻略法なんて見つかる訳ないだろ? あー……たしかにな。もう九月だってのに暑いな」
「いや、オレその暑いじゃ……まー暑い……か」
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