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第31話:尻尾


「……こう、やッ。……くっ」


 失った物を乞い力なく腕を伸ばし続け、打ちひしがれているとかざした手の向こうにユナの姿が見える。

 悪い予感がした俺は咄嗟に逃げるように叫ぶ。


 コウヤが死んでしまいターゲット優先度が更新されて未だ魔法詠唱を続けるユナめがけて動き出すドラゴンが視界の端に入る。


「――ッ!! まずいッ、ユナ!!!」

「え!?」


 幸いにも俺の声が届きユナは詠唱に集中する為に閉じていた目蓋を開くと事態を把握しようと此方へ視線を向けてくる。

 声を荒げ慌てふためく様子を見てユナの表情は徐々に不安に変わり、見つめ合う瞳には焦りが映っている。


「逃げッ――」


 具体的な指示を伝えきる前に狭まった視界からユナの姿は消え去り、代わりに舞い上がる電子断片がきらめき、遠くに彼女の小さな体が宙を舞う。


 か弱い人間を弄ぶドラゴンはあざ笑うかのように咆哮する。


 今すぐにでも駆け出したい気持ちを落ち着かせ剣身に手を添え短縮魔法を展開させて地面に突き立てる。

 すると魔法が付与された剣から白く輝き強い閃光が放たれ、その光を直視したドラゴンの目をくらませ混乱状態にする。

 そして間に合わせの足止めが効いているうちにユナの元へ急いだ。


「ユナ! ユナッ!!」

「あー……。ごめんねナユっ。失敗しちゃった……よ。」


 横たわる彼女の体はひどく傷つき生きているのが不思議に思えるほどだったが、役に立てなかったことを詫びる姿に必死に笑顔を取り繕い少しでも勇気付けようとする。


「ゆ、ユナッ! しっかりしろっ……大丈夫だ、まだ……大丈夫。お前のせいじゃ、ないから……大丈夫」


 横たわるユナを労わろうと艶がある頬にそっと手を触れる。するとそこから小さなヒビが入り、灰のように脆くなっていた全身に亀裂が広がっていき終いには小さな光の欠片に別れ粉々に砕け散ってしまう。手に残ったのはただの電子の欠片。


「……――っっッ!!」


 湧き上がる言葉にならない怒りにも似た激情を奥歯に噛み締め、眉間にはシワが寄る。

 光が散り行く中、傍らに残されたへしゃげたユナの鉄パイプを手に取り立ち上がると、ギチギチと音が立つほど力強くパイプを握り締めながらドラゴンを睨み付ける。


 体中の血液が沸騰しているかのように全身が鼓動する。しかし恐ろしい程に思考はハッキリとし寒さにも似た身震いが指先に走る。


「……覚悟しやがれ爬虫類やろうッ! ――本気の戦いってのを教えてやるッ!!」


 俺は決着と復讐と使命感に駆られ走り出す。


 踏み出した一歩は腰の高さが二つほど下がった低い体勢で地面すれすれを這うように物凄いスピードを生み出す。

 走りつつ鉄パイプを胸の前に横向きに構え打撃武器(クラック・ツール)の固有スキルである硬質化魔法を詠唱し、自らの体に自己障壁代わりの物理反射効果を付与した。

 それらは今までの軽快なスタイルとは違う攻撃的な立ち回りを始める下準備だった。


 近づくにつれドラゴンの衝撃波攻撃の頻度が増えるが、縫うようにジグザグに進みそれらを目で追うのも難しい俊足のステップで避けながら進む。


「……右、左左、右……、左右……」


 ドラゴンの視線からヤツが衝撃波が発動する前にソレの着弾点を予測していくスタイルは観察眼によるもので反射神経に頼らずとも容易に攻撃を回避することが可能。

 経験が物を言うこの先読みスタイルはゲーマーだから成せる(テクニック)だ。

 身体能力の低いものでも、やり続けたものだけが持つスキル!


 お互い近接攻撃が届くショートレンジまで近づくと、ドラゴンが先制攻撃を仕掛けてくる。

 横から巻き込むような曲線的な軌道の噛みつき攻撃が左側の死角から近づいてきている。うまく言い表せないが見えてはいなくても殺気のようなモノがハッキリと感じられる。


「もう、少し……。ここだッ!」


 ギリギリまで敵の攻撃を引きつけてからタイミングを見計らい地面を蹴り体を浮かせ、空中で両脚を大きく広げコマのように腰を捻じり遠心力を使い上半身を引っ張り上げスレスレの所を紙一重で避ける。

 あとは重力に身を任せ腕を伸ばしバランスを取りながら『その時』が来るのを少し待つ。


 腰の高さより少し下で膝よりほんの少し上、殴るにはちょうどいい位置に意識を集中させる。


 そして『その時』が訪れたのを確認すると俺は無防備なドラゴンの大きく突き出した頭を下に突き落とすように、振り上げていた鉄パイプで叩き抜く。


「ハアアッ! ――喰らえッ!」


「「――ギャ゛オォ゛―ッガルウ゛ゥ゛ーッツツ゛」」


 後頭部への一撃が相当効いたのかドラゴンは頭を左右に揺らすと身を引く、そして引き起こした巨体から鋭い鉤爪を伸ばしカウンター攻撃を放つ。

 未だ跳躍中の俺は脚が地面から離れていてソレを回避することはできず、両手に構える鉄パイプに身体を預けて攻撃を受け止めるが、そのまま地面に叩きつけられてしまい、周囲は砕けた地面から飛び出した瓦礫と砂埃に包まれた。


 ――立ち上る砂埃の中から視界の通らないドラゴンへ向け爆縮魔法が付与されたクナイが飛び出す。


 それと同時に側方へ抜け出ると続けざまにクナイを投げつけて追い打ちを掛けながら体制を立て直す。


「……ふうっ。小爪見てから防御姿勢余裕でした、っと。 つっても次は無いですよっと」


 展開していた自己障壁が音を立てながら剥がれ落ちていく。

 おかげで自身にはダメージこそなかったがモロに攻撃を受け止めた鉄パイプは破損が進み、再び固有スキルを発動することは不可能な状態になってしまっていた。


 もう直撃はもらえないので咆哮を上げ乱雑な攻撃を放ちながら追いかけてくるドラゴンからバックステップで距離を保ち、攻撃に当たらないように後退する。


 先ほどのカウンターに似たタイプの、発動後に硬直時間が発生する大振りの攻撃モーションに合わせて両脚を揃えてジャンプするように大きなバックステップを踏むと、距離が離れたことでドラゴンの攻撃パターンが変化しコウヤを蒸発させたのと同じ範囲ブレスの体制に入るのが確認できた。


 それは計算通りだった。


 ショートレンジでは捌ききれない量の連撃と衝撃波による浮かせ攻撃。ミドルレンジ以降はノンターゲット式の範囲ブレス攻撃を仕掛けてくる。


 この攻守一体の攻撃パターンを破るには……入り込む隙があるとしたら『近距離』から『遠距離』に切り替わり大技を発動している最中を狙うしかないッ。


 大きく息をため込み胸を膨らませ首を反らすドラゴンは喉を鳴らすと勢いよく爆炎を吐き出す。


 バックステップ中に足元を確認すると着地点(そこ)は見覚えのある場所だった。

 着地の勢いで城盾(コウヤの形見)を蹴り起こし、流れるような動きで目と鼻の先まで迫る業炎から身を隠す。


 自らが放つ炎によって視界が遮られているドラゴンはこちらの様子が把握できず、脚を止めて執拗に火炎を吐き続ける。

 放たれる続けるブレスは盾で左右に分散されていき瞬く間に周囲は一面の炎の海になり轟音と共に燃え上がる。


 流石の大型盾(ヘヴィツール)でもその熱量を弾き続けるのは限界があり城盾は周辺から徐々に燃え落ち初め、体がはみ出さない様に身を丸めチャンスを窺う。


「……3、2、……1ッ!! ラストッッ!!!」


 完璧なタイミング。

 破損が進み構成力を失い断片数列に砕け散ろうとする盾の反射能力を限界まで上昇させて、その残骸のような盾から発せられる斥力を足場として利用しカタパルトの要領で大きく跳躍してドラゴンに飛びかかった。


「「「――おりゃああッッ! これが、俺達の! 一撃ッ!! 鉄パイプ(エンディング)だああッ!! 喰っらえええええ゛」」」


 威勢よく飛び出して渾身の一撃を与えようとドラゴンの頭上に迫り、握りしめたパイプを振り下ろしたが、観た事も無い未知の攻撃モーションが視線の先から迫る。


「――ッ!!」


 今までパターンに織り込まれていなかった予想外の一撃――『初見殺し』が鈍い音と共に体に突き刺さる。


「ッ……うぉっ、、ッいっッッ! 、、グッハッア――」


 下腹部に経験した事の無い痛みが走り意識が遠のく……居心地の悪い嘔き気が喉元まで上ってくる……、四肢の感覚が薄れ寒さだけが伝わってくる……目の前が暗転して世界が暗闇に包まれる……。

 …………。

 ……。


 ――ピッ、ピポリン!

『オールアウト。結果――討伐失敗_▼』

『コンティニュー_Y/N』


 黄泉の世界には場違いな気の抜ける電子音が脳内に鳴り響き、現実を思い出させる先進的デザインのシステムポップアップが前方に表示される。

 手をかざすとユーザーインターフェースが投影され、俺は言葉無くそれを操作する。


 ――デデーン!

≪GAMEOVER≫


 ゲームオーバーの文字が表示されデマインまでのカウントダウンがアナウンスされる。


 暫くして現実世界へ戻されると無駄に高いVRCルームの天井が最初に目に入った。

 ……ジジッ


「……これで三四戦、三四敗。っか」


 コウヤの奴、なにが作戦だよ。……戦闘に感情移入したところで勝てるはずがないだろッ! これじゃただの中二病(ゴッコ遊び)じゃねーか!

 脱力感に見舞われて起き上がる気にならず、眩しい照明を遮るように顔の前に腕をかざしてうなだれると、そのままVRC端末に横たわったまま再び目を瞑り大きなため息をついた。


「っ、はああ……。尻尾、伸びんのかよぉぉ……っ」


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小説に登場するキャラクターたちに今…声(いのち)が宿る!
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OVER ENDING(5:12)
【公式サイト】
(アンエク)UNDOT EFFECT
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