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第30話:ドラゴンブレス

◇◇


「「聖なる騎士(インペリアル)による()大いなる一撃(スラッシュ)ッッ!」」


 昆虫のような屈強な甲殻を背負う中型モンスターに剣を大きく振りかざし、恥ずかしげもない叫び声が辺り一面にこだました。


「ユナちゃん作戦通りにね! ナユおめーもだぞッ!」


 背の丈を優に超える棺桶のような外見の城盾(シールドツール)を片手で軽々持ち上げるコウヤは甲殻獣(モンスター)と交戦しながら念を押してきた。

 

 現実世界ではあのような巨大な盾を片手で持ちあげ、反対の手で無駄に長いロングソードを振るうなんて真似は出来ないがここ、VRCの中ではそれが可能だ。

 武器(ツール)と呼ばれる電子構造物を使いモンスター(アンチデータ)をぶっ壊す。物理法則も身体能力も全てはリマイナーの技量と与えられた数字(ステータス)で自由自在。それが電子世界なんだ。


 コウヤは筋力と反応速度を向上させて現実世界のアドバンテージをより伸ばすキャラメイキングをしている。

 同じくユナは得意の知性と計算力を駆使して詠唱法術系の俗にいう『魔法』が使える。

 そして俺は脳筋前衛職と後衛火力の負担を減らす為に足止めや遊撃を担当する器用貧乏(トリックスター)というバランス良い組み合わせでチーム戦に臨んでいる。


「わーってるよッ! カウンター、来るぞッ!」

「あいあい、――っと」


 気のない返事をしつつも指示通りにバックステップでコウヤが間合いを取ると甲殻獣の攻撃は空振りした。

 そして隙が出来た所を一気に距離を詰め、こちらに気づかれない内に素早い連撃をガラ空きの横腹に撃ち込む。


「はああッ! 乱・連・撃ッ」


 隙を作りやすいというのがチーム戦の利点なのだが、ターゲット管理や仲間の動きなどソロプレイでは気にも掛けない流動的な要素(デメリット)の方が多く感じもする。

 そもそも計算と意図を遡ってスマート攻略を目指すのがプレイスタイルの俺にはチームメイトの存在は不確定要素で掴みづらい。いわゆる協調性のないダメなやつってわけか。


「チームってなぁ、むずかしいな……ッ?!おっと!」

「あははっ、ナユはチーム戦苦手だもんねっ」

「ナユーッ、その発言、協調性に難アリ。だぜ?」

「みなまで言うな……ッほいっと!」


 しかしながら選抜戦のルールが三人一組のチーム戦なのだから仕方がない。

 言い訳していてもその事実は変わらないのでボヤキながらも不慣れな連携攻撃を続ける。

 それにこれはユナのおかげで参加できてるのだから、戯言は失礼ってもんだ。


「効率厨で悪かったなッ、プレイヤーの動きってッ……読みにくいんだよ。――うりゃあッ」


 まあユナとコウヤは気心知れてる相手な分、その点楽っちゃ楽だけれどもな。


 軽くとも手数のある攻撃を与えた続けた結果ターゲットが自分に移り、甲殻獣の不細工な顔がこちらに向く。

 手首に装備した小手(ガードツール)で攻撃を受け止め勢いの死んだ甲殻獣の鉤爪を右手に持つ剣で払うように弾いた。

 重い一撃はバックステップで避け、鉤爪による攻撃は防いでから押し返して隙を作ると側面から二人がすかさず殴り掛かる。


「このままこっちにターゲット引っ張るから二人は左右から削ってくれッ! こいつ側面の方が脆い」

「了解っりょうかーい! せーのっ!!」


 力いっぱい振り下ろしたユナの鉄パイプは軽くへしゃげ、打撃耐性の高い装甲のような甲殻に一撃を止められてしまった。


「――ッつううっ! こんの石頭ーッ、こいつ硬すぎいーっ!!」

「任せとけッ! ユナちゃん援護すんぜーッ!」


 火力不足のユナを見かね盾を構えたコウヤが体当たりしてそこに加勢した。

 ダメージが通らなかったのが余程悔しかったのかユナは打撃耐性を気にかけず同じ位置に攻撃を集中させる。


「今度は両手でっ……腕力、二倍で、火力が、ドーン!! えいッ」


 勢いに押されて甲殻獣は脚を止めその場に縮こまり、執拗に一点に集中する打撃によって硬い甲殻には徐々にヒビが走っていき弱っていくのが見て分かる。


「おおーッ! いーいぃ感じ? じゃねえ? ナユッ! トドメは任せたぞッ! うおおおッ攻城(ウォークライ)崩撃(・バッシュ)ッ!!」


 盾を逆手に構え懐に飛び込むとアッパーのような動きで打ち上げ攻撃を放つ、すると甲殻獣の防御姿勢は崩れ隠れていた弱点があらわになった。


「ナイス、コウヤ! 角度ばっちし、丸見えだッ――閃撃ッ!」


 その一瞬を見逃さなかった俺は武器(ツール)(ソード)から(ブレード)構造改変(モードチェンジ)させて居合斬りを仕掛けた。


 鮮やかな太刀筋は閃光の如くソレを両断すると、妖艶な軌道をなぞりながら元の構えに戻る。

 そして少し遅れて甲殻獣の体は二つに裂けて崩れ落ちた。


 やっとの思いで甲殻獣を倒すと間髪入れずに次の敵に向けてコウヤが走り出す。


「おーっしゃッ! ナユッ次はドラゴン行くぞッ! ユナちゃん援護よっろしくー」

「ちょっと、コウヤ待ってっ!! 回復しなくて大丈夫なのっ!?」


 ゴリ押しパワープレイで傷を負っているのを気にするユナの制止に聞く耳を持たずにコウヤは威勢の良い雄たけびを上げながら突っ込んでいく。


「ばっかッ! コウヤッ! 消耗戦してんじゃねえんだから、一度下がって回復しろッッ」

「んな、ゆーちょーな事言ってらんねーよッ! 敵は待ってくれそうもねーぜ! ――よッ! 降り注ぐ(フラッシング)聖剣の雨(・スタッヴ)ッ!! オラッオラオララッ」


 ドラゴンの初撃を盾で押し返し、開いた空間に潜り込むように踏み込み、凄まじい速度で太く長い首元に繰り返し剣を突き刺したコウヤはすぐに身を引き今度は盾に身を隠し体重をかけてドラゴンの反撃に備える。

 圧倒的な巨体から繰り出される攻撃を城盾で防ぎ、弾き、跳ね返しては隙を突く。


「――グッ! ――ダッアあッ、ハアアアッッ!!」

「「グオォォオ゛゛――――ッ!!」」


 まるで手押し相撲でも見ているかのような一進一退の攻防は、ドラゴンの重く鋭い一撃によってその均衡を崩されコウヤが一気に劣勢に傾く。


「――グッハアッッ、、。今のは効いたぜ。。でも……まだまだッ!! ハアハアっ……」


 防ぎはしたものの衝撃は盾を貫き彼の体を震わせダメージの蓄積した膝が折れその場に跪き息を切らす。


「言わんこっちゃねえ! 無理すんなッ、こっちに引きつけるッ! ユナ周り込め!」

「うんっわかった!」


 ユナに背面を取るように指示を出してから小手の内側からクナイを取出しドラゴンに投げつけ注意を引く。その間もコウヤはドラゴンの猛攻を受け続ける。

「おらああ!! かき集めし(インペリアル)……ああッッ!! くそ! 技名が思い浮かばねえ!!」

「もう少し待ってろ、コウヤッ! 今ターゲットを引きはがす!!」


 気迫、根性と高い身体能力でゴリ押すコウヤの戦い方とは打って変り、軽快な身のこなしでドラゴンの放つ無造作に見える攻撃をなんとか見切り、上半身を小さく捻りバランスを崩しつつも必要最低限の動きで一つ一つ丁寧に左右に捌き距離を詰めて行く。


「ッく! きっつ!!」


 図体の割に細かく手数出しやがって……避けんのが精一杯だぜ。

 すきあらばクナイを投げつけようと思っていたが、軽々避けているようように見えて回避行動はその見た目より困難を極めた。


「立てるかコウヤッ」


 何とかターゲットを取ることに成功し攻撃対象を変更させることには成功したが、疲弊しきったコウヤは地面に突き立てた剣を支えにして盾にもたれ掛りグッタリしている。


「……へへっ。せっかく助けに来てもらったところ、すまねえ、、んだがよ……」


 近寄られることを拒むようにドラゴンは大きな翼で突風を引き起こし、その衝撃波で両脚が地面から浮き押し出されるように吹き飛ばされた俺はコウヤから引き離された。


「うおっ、チッ! いいから下がれコウヤ!! 範囲攻撃(ブレス)くんぞッ!」


「……もう、手足の感覚がねえんだわ。。ッわりい。スタミナ、切れ……だ。ッ――今までありがとよッナ……ユっ」


 喋るのも辛そうにするコウヤはゆっくりと体を起こし俯いてた顔を上げると声を荒げる俺に別れの言葉と共に笑顔を向けた。


「なっ、お前……なに言って……」


 吹き飛ばされた体に鞭を打ち体勢を立て直して、精一杯腕を伸ばし悲しげな笑顔に駆け寄ろうとする。

 しかし未だ吹き付ける翼風が両脚を強く地面に張り付け、無力な俺はこれから起こることに対して抗うように叫ぶことしか出来なかった。


「「コウヤッ! コウヤアアアーッッ!!!」」


 こだまする金切声をかき消すように業炎が襲いかかり目の前でコウヤは炎に包まれその体は蒸発していった。

 己の力不足で友を失った虚しさは絶望を帯び全身の力が抜け呆然となる。


 ブレス攻撃が収まるとそこには耐久値の高い城盾と突き刺さったまま丸焦げになり今にも崩れ落ちそうな長剣がまるで墓標のように残され、他は全て消え去っていた。


 全ては一瞬の出来事だった。


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