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第1話:偽りの始まり(下)

挿絵(By みてみん)



 ユナは小学校からの友達、いわば『幼馴染みたいなもの』で、小学一年生ぐらいの時に学校の帰り道の公園に独りでいる彼女を見かけて声をかけたのが出会い。当時俺も友達が少なく寂しい思いをしていて、加えて俺は両親とはうまくいってないことあって何となく彼女の孤独感をくみ取ったんだろう。

 ちなみに当時も何も今だって友達少ないだろって意見は受け付けない。絶対にだ。


 ともあれ、それがきっかけでユナと友達になった。

 偶然とも言えるきっかけで知り合った訳だけども、『ナユ』『ユナ』と似ている名前や家に帰っても両親が居ない等共通点が多かったんだ。

 彼女の両親はフォルトの引き起こした災害で他界してしまい、知り合いの家に引き取られて暮らしていたらしいが小学生が対応できる変化では無かったのだろう。俺と遊ぶようになるまでは自分の殻にこもりがちで一人でいることが多かったそうだ。

 それからは毎日のように二人で遊んだ。外で遊ぶこともあったが俺の両親は共働きで帰りが遅かったからほとんど毎日俺の家に集まり買い与えられたゲーム機で暗くなるまでずっと二人で夢の世界を冒険した。


 そんなゲーム浸りの三年間はあっという間に過ぎ進学の次期になったある日、ユナが引っ越すことになり別々の学校に進学してからはユナとは暫く疎遠になった時期がある。『幼馴染みたいなもの』というのはそーいうことだ。


 中学校で一人になった俺は部活にも入らず毎日ゲームの事ばかり考えゲームに生きた、そのおかげで見事成績は最低。

 ある出来事から≪ASH(ヒーロー)≫に憧れて筋トレを始めるも三日坊主でニューゲーム。

 受験シーズンになって初めて自分がオワコンと言われる存在だと自覚した……。

 そんな中学時代の出来事で唯一胸を張れることと言えばユナを助けたことぐらいかと思う。


 中学三年の夏休みだったか連休だったかに繁華街に遊びに行った時に『イジメ』を目撃した。イジメ自体は珍しくもなかったし、関わりたくはなかった。嫌な話ではあるけどもそれが現実だ。触らぬ神に祟りなし、自身がクズだと理解しても見て観ぬふりをしようと俺はその場を去ろうとした。でも名前を呼ばれた気がして振り返ると目が合ったんだ。


『……ナユ?』


 小さく震えるような声で呟くように彼女は俺の名前を呼んでいた。薄灰色のミディアムに伸びた髪、水色の目、足を止め彼女の顔をハッキリと確認するとそれは『幼馴染みたいなもの』の彼女だった。なぜ? 何で? どうして? 色んなことが頭をよぎった。彼女の不安と恐怖に怯える目を見つめていると、いてもたってもいられなくなって俺は助けに入った。

 今思えば考えなしに複数相手に飛びかかった貧弱モノはどうかしてたとしか思えないが、しかしまあ“男子(おとこ)”としては正しい判断だったのではないだろうか。少しは今まで見過ごしたイジメの罪滅ぼしはできたかもしれないしな。


 ちなみに今までの人生でこういうシュチエーションはゲームでしか経験した事が無い自分がかっこよく助けられるはずもなく醜態を晒す事となったのは言うまでもない。助けたというよりも彼女の代わりに痛い目に合っただけだった。ダッサい事この上ないよな。

 でもそれでよかった。唯一の友達を守る為なら、手段なんて選ばない。たとえ単に身代わりになるだけだってそれは彼女を救うことになったのだから。後悔はしていない。あの時何もしなかったら、殴られた時の痛みよりもっとつらい痛み(想い)に苦しんだはずだから。

 

 その日を境にユナとの交流が再開した。離れていた三年間を埋めるために沢山話をした。ほとんどがゲームとアニメの話だったけど、まあ俺にとってはひさしぶりの幸せだったわけ。この三年間そういった話が出来る相手はいなかったからさ。


 ちなみに繁華街で、ユナは一目で俺に気づいたと言っていたが、俺の方はずいぶんと雰囲気の変わったユナに最初気づくことが出来なかった。それを伝えると、きっと拗ねるだろうからユナには内緒にしているけども。

 ちなみに雰囲気が変わったというのは良い方向へという意味でだ。身長も伸びてたし随分と大人っぽくというか、そうだなあ……四文字に集約するならば『超可愛く(・・・・)』なっていた。かな。


 ともあれ、二人で同じ学校に進学しようと決めてこの技育専≪リマイナー学科≫に入学した。彼女は「私、特に行きたいところないし」と言っていたが嘘だろうな。勉強もできるしもっと上の進学校を狙えたんだろうけども、俺に合わせてこの学校に進学させてしまったことに申し訳ない気持ちが多少はあったけど、正直な気持ちはまた二人で一緒に居られると思い高校生活が楽しみで仕方がなかった。


 入学してからは四六時中ゲームとアニメの話題で盛り上がった。次に遊ぶゲームを選ぶにあたり、ユナにどんなジャンルのゲームが好きかって聞くと決まって「わたしは、みんなで遊べるゲームなら何でも好きだよっ! ……とっ、友達は少ないけどさ……」と返してくる。俺は『特にこだわりもなく、強いて言うならストーリー性があるゲーム』が好き、だから結局はジャンルを絞らずビジュアルや感覚で選んだり、期待作を片っ端から遊ぶ流れになるけども、ユナは謎解き要素や隠し要素がある『やり込みゲー』をプレイしてる時が一番楽しそうにしている気がする。


 そんな全く授業と関係ない昔の事を思い返しているといつの間にか予鈴が鳴っていて、退屈な一日の前半戦が終了する。


「はい。それではクラス委員、号令して下さい」


 クラス委員の掛け声に合わせルーチンワークとして頭を下げると正式に授業は終わり昼休みになった。

 そうして今日も机の上に出すだけ出して最後まで使わなかったノートとテキストを鞄に戻し、意味もなく携帯端末で現在時刻を確認する。

 昼は決まって食堂に行くのが日課と化しているんだが、ここの食堂はテーブルが広くて昼食目的以外で使う生徒が多いから早めに行っていい席をキープしたい。

 とはいえ遅れたところでテーブルの数はかなり多いし、席順というかそれぞれのマイテーブルもほぼ決まっている訳だけどもさ……。 


 鞄を手に席を立つとユナは板書しているのか、目に見える程の『今わたしは集中してます』オーラを放出しながらまだ席に座っているのに気付いた。

 こういうのを見ると邪魔したくなるのがヒトの性というものである。

 最近のアクションゲームには背面攻撃というシステムが存在することが多い。忍者のように背後から忍び寄り一撃必中の必殺技の類だ。伝説の傭兵並みのスニーキングテクニックをみせてやるぜッ。


 ポケットから手を出し彼女の死角に回り込み、完璧な位置取りとタイミングからの『背後からの一撃(バックスタブ)』を発動させる。そして放たれた手が板書に集中している彼女の肩にヒットする瞬間――ユナの頭が持ち上りこちらに振り向く。


「――な・に・っ?」


 殺意じみたものが込められた冷たい一言に背筋が凍ってしまった。

 背中に目がついているのかと恐ろしくなるぜ……女の第六感ってのはチートなんじゃないか。と思う時がある。今まさに。


「あ、あー! ち、ちょっと探し物を……どーこだっけなー! はは……、なんて……。」


 そっと構えた手をポケットに戻し誤魔化すようにぼやきつつ無意識に頭に浮かんだ『あのゲーム』のゲームオーバー演出を思い出した。


 終わったはずの授業が再現されたかのような緊張感と静寂。本当に退屈だ……何もやる事がない。

 こういうやる事も無しに待っている時間というのはものすごく長く感じるのは俺だけだろうか?


「……。ユナさんまだすか?」

「あと少しかなー。退屈? ごめんねもう少し……」


 ああ。退屈だ! 暇過ぎて死んでしまう程になッ、だから退屈しのぎにこういうのはどうだろうか。


「……なぜ、廻結名は授業中にいつもいつも、アホみたいに眠くなるのか? それを今ここで徹底討論しその原因と改善策を……イダぁッ!」


 暇を持て余すばかりバカな事を言ったら制裁をされてしまった……。


「結構いい話題だと思ったんだけどな? もし居眠り癖を改善させる方法が判明すれば今後きっと役に立つだろうし、それに――」


「「ホント何いってんだかーっ! アホじゃないから!」」


「え?そっち?」


 ええー、そっちなの? 『アホ』の部分に怒ってたの? 普通違うだろうッそこじゃない!うるさいとかそういうところで怒るんじゃないのか!?

 この娘やっぱ少しアホなの?ズレてるの?


「んっ? 何が?」

「……あ、いや何でもない」


 最後の一行を書き写した彼女はノートを閉じると立ち上がり大きく体を反らして伸びをする。


「もーちょいぃいいいぃ……よっしっ! おわりぃっ! ふあぁ……腕が疲れたよ」


 ヘソ見えるぞヘソ。


「お待たせナユっ! ありがとね、待ってくれて……って目見開いて、……どうしたの?」


 ヘソチラの次には両手を後ろに組み、少し前のめりになって上目使いで顔を近づけてくる。

 この娘はこれを天然でやってるから怖い。

 頭はいいが、たびたびどこか抜けていて油断も隙もあったものじゃない。前に一度学校帰りにCD屋に行ったんだが、目を離した隙になんか他校の生徒に絡まれてたし。ほっときゃいいのに、反応するからな。

 世の女性は変な奴に絡まれたら即座に無視か、防犯グッズでご挨拶、もしくは我が国の国家権力を召喚しなさい。特に国家権力召喚したら、作戦は『ガンガンいこうぜ』でいい。

 だが、俺みたいなひ弱なモブキャラと一緒の場合は必ず仲良く『逃げる』を選択してくれ。作戦は『いのちだいじに』で頼む。間違っても『バッチリがんばれ』とかダメだから。いやマジで。


 不思議そうに覗き込むユナの目を見つめているとポケットの中で手が少し汗ばみ心臓が鼓動を早める、今にもくっつきそうになる顔を背けて照れくさそうに返事する。


「へぃえ? べ、別に……食堂、先行くぞ」


 なんかどもったし。恥ずかしい。なに? 俺は死にたいの? 死ぬの? 茶化されるともっと恥ずかしい思いをするからそそくさと立ち上がり教室を出た。待っていたにもかかわらず置いていくとは本末転倒というもので我ながら呆れるが、これが俺の精一杯の照れ隠しなんだ分かってくれ。


「わーっ! ちょッ、待ってよ! せっかく待ってくれてたのにっ、ここで置いてかないでよー!」


 鞄に荷物を押し込みユナが小走りで俺の後についてくる。

 俺たちが廊下に出ると教室の照明は自動で消え、ユナがさっきまで必死に写していた黒板の文字が綺麗に消えていく。俺たちが使っていた机と椅子も床に収納され教室は広々とした空間になった。


 そうそう言い忘れたが――今は2050年だ。ちなみにまだ車は空を飛んでいない。


イラストはtsukasaさんに描いていただきました!

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