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第19話:仲裁


 食堂に着くと、自分たちが弁当も何も持ってきていないのに気がついた。あのときはそれほどに動揺していたのだ。

 仕方なしに食券買って学食を注文するも、どうも食欲がわいていなかった俺はユナの言うとおり、甘いものでも食べて血糖値を上げるとする。少しふらついているのもそれで収まるかもしれない。


「私はどれにしようかなーっ、フレンチトースト魅力的っ! でもあんみつも捨てがたいっ! よしこっちにしよっ」


 ユナは元気なふりをしている。彼女だって相当ショックだったはずだからな、きっと俺達を気にかけてくれているんだろう。

 他人(ひと)の事ばかり気にせず、少しは自分の感情を素直に見せてもいいとは思うんだけれども、でもまあそれがユナの良い所なんだよな。昨日の勉強会然り、いつだって俺達の面倒をみてくれている。


「ううーんっ…。やっぱりお弁当取ってくる! 作ってきたのに食べないのもったいないしっ」


 あれだけ真剣に迷っていたにも関わらず、発言撤回してお弁当にシフトするまでにかかった時間はものの数秒。

 学食で甘いものを食べようと言いだしたのはユナだったと思うんだが、きっと俺達を気遣って思いつきを言葉にしたのだろう。

 まあ、こういう天然な所もユナらしい良い所の一つかな。


 めんどくさがって学食で済ませることにした俺とコウヤを残し、ユナは教室へお弁当を取りに戻ってしまった。


 ここに来るまでもそうだったが、誹謗中傷がいつもに増して耳についてしまう。

 注文したメニューが出てくるのを待っていると、またどこからともなく自分たちに向けた言葉が聞こえてくる。


「(見たかよあいつの点数……選考会のときはあんだけ大口叩いてたくせにダッセー)」

「(その選考会もズルして勝ったんでしょ? ずっと逃げてただけって聞いたぜ?)」


 根も葉もない噂話ならまだしも、彼らの話す内容はどれもその通りだ。選考会では卑怯とも取れるやり方で得点を稼ぎ、選抜試験では注意事項をろくに読まずに成り行き任せで筆記試験を受けた。正論過ぎて言い返す言葉が無い……。

 ユナとコウヤは俺を信じて付いて来てくれたのに……申し訳なくてまともに目も合わせられない。


 二人きりになった俺達は起こってしまった事に対して後悔と反省を交わす。


「何やってんだよ俺は……ッ。全部俺のせいだ……」

「んなことねえーよ。せっかくユナちゃんが教えてくれたのに結果出せなかったのはオレも同じだよ」


 社交辞令として言ったに過ぎない言葉だと分かっていても、反論したい気持ちが湧いてしまう。

 結果が出せなかったことを嘆いているのではないんだ。俺が勘違いさえ……いや、筆記試験を甘く見ていなければこんなことにはならなかった。そのことを反省しているんだ。

 今となっては何も出来ない自分が情けなくて、恥ずかしくて、悔しくて後悔しているんだ俺は。


「でもユナちゃんは合格出来てよかった……ああいや、三人一緒じゃなきゃ……、意味無いか……それに一番楽しみにしてたのはナユだもんな」


 強がってはいてもコウヤだって悔しいはずだ。三人で決めて、三人で挑戦して、三人で挫折した。悔しいのはみんな同じだ。

 けれども俺は二人みたいに強がることが出来ず、どうしても自己憐憫に陥ってしまう。


「楽しみにしていたのは……みんな一緒、だろ。 それなのに……畜生……ッ」


 努力しても報われない。あのヒーローもこんな思いをしながら戦っていたのか? 俺にはとても真似できない。

 中学生の時に俺を助けてくれた“ 名無しのヒーロー ”の事を思い出す。

 彼のカッコいい後ろ姿に憧れて、俺は柄にもなく筋トレをしたりランニングをしたり、自分に才能が無いことは分かり切っていたけれどもいつかあんな風になれたらと夢みていたのが懐かしい。


 実際に窮地に立った俺はこのざまで、肉体だけではなく精神的にも彼に追いつくことは出来ていない。未だに<ヒーロー(かれ)>に憧れているだけのモブキャラのままでいる。一年近く経ったのに何も成長していないなんてダメだな俺。


 昨日までの日常が嘘のように感じてしまうが、それは錯覚に過ぎない。本来<天才でない(おれたちのような)>人間は他に蔑まれながら細々と生活を送るしかない。どんなに不服でもそれが俺たちの日常なんだ。

 仕方がないんだ、当たり前なんだ。


 黙って聞くことしか出来ないのが無力である証明にも感じ、持っているフォークさえもがとても重く感じてしまう。

 聞こえて来る野次は一向に減ることはなく、むしろ落ち込むにつれて鮮明に聞こえる様になっていく。


「(普段から不真面目なくせに、あれが特待生だなんてウチの恥さらしだよねー)」

「(もっと遠くに座ってくれないかな――仲間だと思われちゃうじゃん)」

「(負け犬は負け犬らしく、お遊びしてろよ)」


「――ッ!! テメエ今なんつったッ!!」


 俺達が何も言い返さないのをいいことに好き勝手なことを言い出す彼らに痺れを切らしたコウヤが立ち上がろうとしたが、いま何を言おうとそれは言い訳にしかならない。

 俺が軽く肩を押さえつけ、首を横に振り「やめとけ」と伝えるとコウヤは不満そうな顔をする。


「……でもよッ! アイツら適当なこと言いすぎだろッ! 腹立ってしょうがねえーよオレ!!」


 腹が立たないと言えば嘘になるけれども、今は何もせずにやり過ごすのが賢明な判断だ。そう言い聞かせるが、俺だって本心は腸が煮えくり返る思いだ。

 人がそっとしておいて欲しい時に限って周りは御構い無しに意見する。向こうが止めないなら……もうこちらが黙るしかないんだ。


 不満を溢すコウヤをなだめていると、そこに騒ぎを聞きつけた三年の先輩がやってきた。


「ハイハーイ。そんぐらいにしとけよー、お前らーっ! なーに騒いでんだよっ」


 仲裁に入ったのは、スクールカースト一軍の中でも俺が特に苦手な脳筋タイプの体育会系な先輩で、前にコウヤが紹介してくれたサッカー部のキャプテンだった。


「晃也ーっお前も、たかが試験の結果ぐらいで熱くなってんなよー」


 しかし先輩の言葉は俺達を擁護する所か、むしろあたりが強いものだった。

 先輩の言う『たかが試験の結果』は俺達にとっては重要な要素で、決して『たかが』とは言えない。だからこれほどに落ち込んでいて、周囲はそれを馬鹿にしているわけだ。


「どうゆうことッスか? たかが試験?」

「そうだろー? あんなのにもマジになってもどうせエリートしか入れないんだよあれは。しかも三年生が圧倒的有利じゃねえか」


 今の俺は黙っている事しか出来ない。


「…………」


「というか、間だっけ? お前、ほんとウケるよな。あんだけ余裕ブッこいて。けっ、結局予選敗退ってッ……だハハっ! 笑いが堪えらんねぇ」

「おい、先輩。オレの友達バカにすんなよ……?」

「いや、だってよ晃也……ハハッ。なかなかできねえよ。あんな事。そういやよ、廻だっけ? あの子は受かったんだっけ?」


 口を開いた所で現状を打破する自信がない。


「…………」


「んっだよ、黙んなよ。間ァ、その子にこんど合コンに来るように言ってくれよ。お前より俺らと一緒にいた方が楽しいんじゃねーの」


 なにいってんだこいつは……ユナのことはお前には関係ないだろッ。

 ついつい行き場のない怒りが爆発しそうになる。


「てめぇ…いい加減に――」

「 「先輩。止めて下さいッ! 私そういうの興味ありませんからっ!」 」


 ユナが帰って来て会話の流れが途切れ、脱線しかけていた会話が元の話題に戻る。


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