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第18話:手応え

◇◇


 今日は筆記試験の結果発表が気になり、午前中の授業は全く頭に入ってこなかった。普段もそうなんだが今日は一段と内容を覚えていない。

 昼休みなっても食堂へは行かず、こうして携帯端末を握りしめて結果が届くのを待っている。 


 全生徒が注目する一大イベントという事もあり全体の採点結果は廊下に設置された<掲示板(モニター)>で公表されるんだが、大人数の前で冷や汗をかくのは御免だからな。俺達は参加生徒の携帯端末に直接送られてくる個人通知で確認することにした。


 どんなに自信があっても試験の結果発表は緊張するもの。それは誰もが同じようで、俺達に勉強を教えてくれたユナ先生も組んだ手を口元に寄せ、祈りのポーズを取っている。

 

 今か今かと高まる気持ちを抑えては、やはり気になり携帯端末を確認してしまう。休み時間に入ってからこの動作を、秒針が一周する間に少なくとも三回は繰り返している。

 そのたびに携帯端末の待ち受け画面が表示され、ついついほころんでしまう。昨日撮った写真の中の俺達三人は肩を寄せ合い楽しそうに笑っていた。

 メールが届く前に充電が切れなければいいが……。

 

 願わくばこのまま何事もなく選抜戦を突破して≪bit(ビット)≫のβテスターに選ばれたいものだが、そう簡単にはいかないだろうな。

 実技選考会での順位を考えると不安を拭い切れないからだ。俺はいいとしても、ユナは三位……コウヤにいたっては六位だった。

 次に行われる実技試験では実際にリマイン経験のある三年生を相手にすることになる。二百名以上の中から上位三名しか選ばれないということは選考会よりも倍率は高く、行き当たりばったりでどうにかなるものじゃない。しっかりと対策を練って、事前に練習を行い、確実に結果を出さなくてはいけない。


 そのためにも今はメールが気になる。点数以外にも何か実技試験についての情報が記載されているかもしれない。

 前にも選考会の大事な通知が学内通信の最後に有ったぐらいだ。些細な情報も見逃すわけにはいかない。隅から隅まで目を通す必要がある。


 選考会での反省点を思い返していると電子音が鳴り、携帯端末にメールが届いたことを知らせる。


 ――シャラリン!


「なんだか緊張するねっ……、だッ、だれから見る?」

「「なッ! オレが最初とかムリムリッ! ほら見てくれよー、緊張しすぎて手震えてるもん!」」


 救いを求めるようにユナはコウヤの方を伺ったが、コウヤはそれ以上に緊張していた。

 俺とコウヤはともかく、何を緊張しているんだか。俺達に勉強を教えてくれたのはユナなんだから、もっと自信を持っていてくれよな。じゃないとコッチが不安になるじゃないか。

 あれだけ手応えがあったんだ、点数が悪いはずがない。……よな?


「そうしたら、三人同時に見よう。それなら緊張も感動も一緒に分かち合えるだろ?」

「そ、そうだねっ! そうしよ!」

「んじゃ、せいの、でなッ!」


「せ……、せーのっ」


 俺の適当な提案に合意した二人は覚悟を決め、三つの携帯端末を囲うように集まり、掛け声に合わせてメールを開いた。


「「よっしゃーッオレ72点ッ!!」」


「フ・フ・フッ! 俺の勝ちだコウヤ――76点だッ!」

「よかったーっ、私っ92点っ! 緊張したよーっ」


 メール本文にはまず個人確認の為か、学年・出席番号・氏名が書かれており、そしてその下には予想通りの……いや予想以上に良い点数が表示されていた。

 七六点という点数は、普段の小テストではまず取った試が無い、俗にいう平均点以上の満足いく結果だ。勉強しておいて良かった。

 一夜漬けとはいえここまでの成果を出せたのは一概にユナのおかげだと言えよう。


「あっ、下の方に順位載ってるよっ! 私っ29位……だって、あっ……れ? 意外と低いんだっ……でも、よかった! 予選通過って書いてあるっ」

「やっぱ受験生ともなると90点以上も多いんだなー。ちなみにオレは……」


 メールには点数以外にも何故か順位が記載されているらしく、ユナに言われ俺達も画面を下にスクロールした。


 喜びもつかの間、自分の順位を確認した俺とコウヤは息を呑んだ。

 目を疑った。

 夢ではないかと何度読み返しても内容は変わらない。

 一番下までスクロールすると何かの間違えとしか思えない、思いたくない数字が並んでいた。


「「お、おいッ……なんだよこれッ! 三桁っておかしいだろッ!!」」

 

 叫ぶのもわけない……そこには思いもよらない二百位以下という三桁の順位が記載されていた。さらにその下には最悪な三文字があった。


 ――“ 不合格 ”


まるでトドメを刺すかのように。そう書かれていた。

何かの間違い。絶対にそうだ……点数は悪くなかった……。平均以上の悪くない結果で……むしろ満足いく点数だと思う……たかだか15点でこうも、順位に差が付くはずが……無い。だって点数は……平均点で……平均……まさかッ!?


 つい感情が高まり、机に拳を立ててしまう。


「「――嘘だろッ!!!」」


 大きな思い違いをしていた事に気づいても今更どうに事も出来ない。

 俺は頭の中で犯してしまった過ちを整理する。

 点数が順位に反映しなかった理由はおそらく、平均点が高かったことにある。通常の試験では合格点が設定され、その点数を超えれば合格となる。

 だから自然と合格点の前後に点数は集中し、そこが平均点になる。一般的には単純に良し悪しを分けるために五十から六十点のラインに合格点が設定される。その結果、平均点は合格点から誤差十点前後の六十から七十点となるものだ。

 しかし選抜戦の筆記試験は点数によるランキング形式だった。この試験を足切りと判断してしまったのがそもそもの間違えだ。

 理解できていなかった……“ 間引く ”のではなく、最初から“ 選りすぐる ”事が目的の試験。云わばオーディションだったんだ。

 勝ち残るために自分を少しでも良く見せようと皆必死に背伸びをしたんだ、そう考えれば一点の違いがこうも大きく出たのも頷ける。


 満足点ではなく、満点を目指さなきゃいけなかった。

 俺はクリア条件を勘違いしていたんだ……ッ。


「えっと……。と、とりあえず落ち着こッ? そうだっ! 甘いもの食べたら何かいい考え思いつくかもしれないよっ? ね? そんな怖い顔しないでさ!あはは……おねがい……」


 不安そうにしながらもユナは必死に俺達のことを気にかけてくれているが、今頭の中は後悔と自責で満たされ何も入ってこない。


 俺は、手を引かれるままに教室を後にして食堂へと連れて行かれる。


 途中モニターの前を通るとまだ人だかりが出来ていた。

 教室で良かった……こんな、大勢の生徒に囲まれた中でどん底に叩き落されていたらどんなことになっていたことやら。今でさえこんなだからな、想像するのも恐ろしい。

 その内の何人かにすれ違いざま、嫌味なことを言われた気もするが、周りが煩くてよく聞き取れなかった。


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Nameless Hero/ネームレス ヒーロー
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