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第17話:記念写真

挿絵(By みてみん)



「ナユでも苦手なゲームあるんだな。スーパーエリートゲーマーであるオレ様がお手本みせてやるよッ。そこで見ていたまえ、この鍛え上げられたテクニックを! ハッハッハ」


 素直に負けを受け止められないでいるとコウヤが追い打ちをかけてくる。こ、このやろう……。


 そこまで言うなら見せてもらおうかお前の言う『お手本』ってやつをなッ!

 大口を叩いたわりにコウヤはコインを入れずにキョロキョロしている。やっぱり口だけかと落胆していると、通りかかった店員さんに声を掛けた。


「スンマッッッセェェェェーン!! これズラしてもらえないっスか? どーしても欲しいんっスよ」

「ズルくない!? ズルくないかな!? コウヤさんッ??」


 店員(スタッフ)さん呼ぶのかよッ!

 しかし、その手があったか。取れる位置までヌイグルミをずらしてもらえば例えアームが弱くても何回か繰り返せばずり落す事が出来る。まぁズルくも思えるが機転が利いたいい作戦だこと。


「ハーイ! あらっ……キミ。たしか先週のっ。も・し・か・し・て・っヌイグルミを取ってあげるのがキミの常套手段なのかしら? ウフフ」

「あーあの時のお姉さん! そういうのじゃないっスよ! 誤解を招くじゃないっスか!」


 それにしても気後れせずに年上の女性と会話を交わせるなんて流石はコウヤ。羨ましくなんてない。

 それはそうと、聞き捨てならない事を言っていたような……。


「誰にプレゼントしたのかなコウヤ君」


 ユナもさっきとは打って変わり、輝いた目をしている。


「おやおやーっ? コウヤっ先週は誰と来たのかなーっ? あっ、もしかして彼女とデートで来たのかなーっ? 正直に言いなさいよー! ムフフ」


 やっぱり気になるよな。俺達に内緒でデートしたって事よりも、彼女の存在を黙っていた事の方が重い罪だ。

 どうやら、コウヤは事の重大さを理解していない様だが、俺も鬼では無い。釈明のチャンスぐらいは与えてやろうと思う。


「ちょッ! ユナちゃん冷やかすのは無しだぜー? そんなんじゃないんだよ。あーっとな、実はこの前――」

「……おっとコウヤッ! 一つヒントをやろう。異議を唱える時は考えてからな。事と場合によっては、お前の残機はゼロになる」

「あれナユ? それヒントじゃないよね? オレ死ぬよね。え? オレ死ぬの?」


 殺人予告とも受け取れるヒントを与えられたコウヤは事態を呑みこめないでいる。

 ユナに至っては既にコウヤが墓穴を掘ることを見越して、彼に向け軽く会釈しながらそっと手を合わせた。


「……ご臨終ですっ、アーメンっ!」

「ユナちゃん、それもう死んでるよね。せめてご愁傷様でしょ?」


 思い返せば、スタッフさんにお願いしたところであんなに簡単にズラしてもらえるというのもなにかおかしい。

 まさかとは思うが、あの妖艶な雰囲気のスタッフさんとも<口に出せないような(ムフフな)>関係……なのか? 許せねぇえええッ。


「よし。まずは店員さんとの関係から白状してもらおうかコウヤくん」


 動揺するコウヤを物凄い目つきで睨みつけていると、遂に観念したようで、彼は重い口をゆっくりと開いた。


「白状も何も……妹に、連れてこられたんだよ、先週。それで今日みたくズラしてもらった……だけ」

「へ? 妹? そんだけ?」

「んッだから言っただろ! 誤解なんだって」


 誤解を招いた張本人(スタッフさん)は「ウフフ」と微笑みながら他の客の相手をしている。無責任にも程がある。

 しかし、些細な会話でここまで他人を窮地に追い込むとは――大人な女性恐るべし。


 とりあえず誤解は解けたが、妹の存在が露出してしまったコウヤはユナの質問攻めにされている。


「ねえねえっ! コウヤの妹ってどんな子っ? いくつ? コウヤに似てる? 可愛いっ?」

「妹は……普通だよ。1つ下で中三。兄妹だし似てると思う、たぶん。でも可愛い……のかなアイツ」


「馬鹿な。中三の可愛い妹、だ……とッ⁈ いやいや、信じがたいな。俺は会うまでは絶対に信じないからな! しゃ、写真見せろッ話しはそれからだ」

「ナユ。少し落ちつこうね」


 別に彼女が欲しい訳でもないが、なんかコウヤに変な嫉妬心が……。


 コウヤは学校では人気者、家では可愛い妹と一緒に同居。かたや俺は学校ではモブキャラ、家では……画面に二次元の妹。俺はギャルゲの悪友かよ?! マジミジメ!!

 俺が自身のシナリオに不満を抱いているうちに、ユナの襲撃に観念したコウヤはクレーンゲームを続けながら、小恥ずかしそうに身の上話を話し始める。


「オレの両親共働きでよ、夜中遅くまで帰ってこない事が多いんだ。だから小さい頃から妹の面倒を見るのはオレの役目でさ……」


 小さい頃って小学生ぐらいだろうか? 俺の両親も家を空ける事が多かったけれど、兄弟なんて居なかったからな。兄の苦労なんて想像もつかない。


「……アイツ泣き虫でよ、何か嫌な事があると、すーっぐに『お兄ちゃん! お兄ちゃん!』って泣きついてきて……。だからオレ頑張ろうって決めたんだ。学校終わったら家に帰って飯の支度したり……休みの日は洗濯とか掃除して。勉強も見てやったりもしたぜ? でもオレ頭悪いから全然ダメで……」


 クレーンゲームをするコウヤの後ろ姿はどこか悲しげに見える。

 感傷に浸り、昔を懐かしむ。こんなコウヤを今まで見たことは無かった。いつも俺たちに見せている笑顔の裏にはこんな表情が隠されていたんだと思うと、何だか複雑な気持ちになる。


「……中学生になる頃からかな。最近じゃことある毎に『あにきッ! あれ買って! 早くしろーッ』とか一丁前にオレに指図するようになって……。最近ではど、奴隷のように……うぅ」

「うーん。それはさっ、妹ちゃんも成長したってことじゃないのかなっ?」

「……ああ、なるほど。それもそうか。来年には高校生だもんな……」


 コウヤの妹は多分コウヤのおかげで独り立ちしたんだろうな。多分だけどな……。


「……わっり! な、なんか空気悪くなっちまったなッ!! んっと、それで先週も部活帰りに買い物つき合わされて、ついでに此処に来たって話し……っと」


 何だかんだ言って面倒見いい所あるよなコイツ。今だってユナのワガママに付き合って、俺の代わりにクレーンゲームに勤しんでる訳だし。

 普段、馬鹿な言動してるのはその反動なんだろうか?


 ともあれ、こういう真面目なコウヤは滅多にお目にかかれないからな。俺とユナは最後まで話しを聞いた。

 しみったれた話しだったけれど、要約すると妹と二人で暮らしてて、受験生の妹の代わりに家事全般をこなしていると。そんな内容だった。


「とりま、そんな感じだよオレの妹。……よしッ、取れたよユナちゃん! ほらヌイグルミ」

「わーっ!! コウヤありがと!」

「いえいえ、お嬢様のためッスからね」

「アハハ、なにそれ! あっ、二人とも今度はあれやろー次はアレで記念写真撮ろうーっ!」


 ヌイグルミを抱きしめながら楽しそうに店内を見て回る姿はとても幸せそうだ。

 きっとコウヤも妹に対してこんなふうに感じてるんだろうな。


「(――アイツも、ユナちゃんみたい……、なら……)」


 何かブツブツと言っているがよく聞き取れなかった。

 また妹の話だろうか? まあいいか。


「ほら、二人ともーっ!!」


 ユナに連れられ撮影機の中に入った俺達は備え付けの鏡で身だしなみを整えた。

 小さな鏡の隣には『女性同伴以外での男性の入室はご遠慮下さい』と張り紙がしてある。通常は男が入ってはいけない空間だと思うと、そこはかとなくドキドキしてくる。


「ほ、ほんとうに撮るの? なんか恥ずかしんだけど」

「いーからいーからっ! ハイもっと寄って!」


 ちなみにこの撮影機。ゲームセンターにあるにもかかわらず、クエスト等のそういったゲーム要素は一切ない。強いて言うなら撮った写真がシールになって出てくるぐらいだ。女子がコレを好きな理由が俺には全く分からない。


 初めて入ったダンジョンばりに周りを探索……もとい、キョロキョロしていると、ユナが慣れた手つきでタッチパネルを操作して準備を進める。


「ユナちゃん慣れてるなー。妹みてぇーだ」

「んぅーん? 中学の時に教えてもらったんだーっ意外と簡単だよ? ……一緒に撮る人は限られてたけど」

「……切なくなるからやめろよ」


 カウントダウンが始まると「ナユっもっと、こっち寄らなきゃ入らないよっ。ほらコウヤも!」と引き寄せられる。


「ほらっ始まるよッ! 二人とも笑顔っ笑顔! にーっ!」

「に、にーっ」


 慣れない作り笑顔に顔面が引きつる。絶対変な顔になってるぞ今。


 ――パシャッ!


 何枚か撮影するにつれ緊張もほぐれ、後半は自然な笑顔で写ることが出来た……気がする。

 背景やフレーム違い等いろんなバリエーションで、それもみんなで写真が撮れるってのは案外楽しいものなんだな。


 しばらくするとプリントされた写真が取出し口に出てきた。

 コウヤは何を考えたのか携帯端末にシールを張っている……いや、何も考えてないから貼ってしまったのか。恥ずかしい。そのシールに俺も写ってるのだと思うと物凄く恥ずかしい。


「ナユっ見て見てー!」

 

 ――お前もかいッ!


 シール以外にも、携帯端末にプリントされたのと同じ写真を待ち受けにできるらしく、俺はそっちにすることにした……。

 これはこれで恥ずかしいけれども、せっかくの楽しい思い出だからな。俺も二人のように、見えるところに残しておきたい。


「あ、私も待ち受けがいいかも!」

「お、それいいなッ! オレもそうしよ!」


 ――すんのかよッ!


 その後も俺達は勉強の疲れなんて忘れ、暗くなるまで遊んだ。

 結局その日はARやVR系ゲームではなく、一世代前のモグラタタキやタワー崩し、クレーンゲーム、太鼓、等のフワフワ系レトロゲームにつき合わされたんだが。まあ、たまにはこーいう楽しみ方も新鮮でいい……か。だけど……


「な、なあ最後にNEVER DOINGやらない?」

「うんっ、いいよっ! 付き合ってくれたお礼っ!」

「ナユ、そのゲーム好きだよなぁ。オレもすきだけど!」


 ――やっぱり≪ NEVER(この) DOING(ゲーム) ≫は外せないよな。


◇◇

イラストはモルトさんに描いていただきました!

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