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第15話:チェックシート

◇◇


 結局、勉強会は明け方まで続いた。

 家に帰っても寝る時間は無く、シャワー浴びて無理やり眠気を覚し、軽い朝食を済ませるとスグに制服に着替えて学校に登校するという、過酷なスケジュールをこなすこととなった。

 正直な所、ヘトヘトで筆記試験に臨むには万全とは言えない。

 

 普段から勉強慣れしているのかユナはそんなに辛そうな顔をしていない。

 何だかんだで俺達に付き合って朝まで勉強していたんだし、当然ユナも眠いとは思うんだけどな。


 それとは別に、少し気になる事がある。学校に着いてからコウヤがずっとブツブツと何かつぶやいているんだよな。


「(位置……質量……物体……力……)」


 新しい技名でも考えているのだろうか? 最初は気にしていなかったが、こうもずっと隣で何か言われ続けると嫌でも気になるってもんだ。


 俺は好奇心を抑えきれなくなり、呪文のようなソレに耳を傾けてみた。


「(二つの位置に……それぞれに質量が……異なる物体がある時……物体が受ける力は……次の式で求められる……)」


 あ、コウヤまずいんじゃないかそれ。

 頭がパンクして知識が口からこぼれはじめてる。ここで忘れたら、徹夜で覚えた意味が無い。もう少し保持しとけ!


「コウヤッしっかりして! つらくっても試験終わるまで寝ちゃダメだよっ!」

「(二人の位置に……しっかりに質量が……辛い物体がある時……試験が受ける力は……終わるまでに求められる……)」

「こ、コウヤ……混ざってる」


 コウヤを気遣ったのかユナが励ましの言葉を掛けたが、むしろ逆効果だったようだ。

 励ましの言葉は呪文に組み込まれてしまい、もう元の内容が何だったのか分からなくなってしまった。


 選抜戦の筆記試験は参加者が限られているので特別教室で行われる。だから今日は普段とは逆方向にある東棟に向かっている。でも何だが不思議な感じだ。

 別に悪い事をしている訳でもないのに、ルーチンワークから逸脱した、非日常的な行動は俺の背徳感を刺激する。どことなくこの雰囲気、避難訓練を連想させる。


 しばらく歩くと、東棟の特別教室が見えてきた。

 特別教室は他の教室より大きく、もうホールと呼んでもおかしくない程の広さだ。

 そして、既に教室内には受験しにきた生徒で溢れていた。


 どうやら席順は決まっているらしく、それを記したプリントが教卓に置かれているらしい。

 しかし、これだけの参加者に対して一枚のプリント。当たり前だが、人が多すぎてここからではよく見えない。

 仕方なく俺達は人が掃けるのを待つ事にする。


「……。大丈夫かな? なんか心配になってきた」

「勉強の神よ。どうか今こそオレに力をお与えください」

「ナユ緊張しすぎだよーっ、もっと肩の力抜いてっ! ほらっコウヤもっ! てか、何言ってるの?」


 そう言われても、普段の点数を考えると筆記試験を突破できるか不安で仕方がない。もっと普段から勉強していたら、この不安は多少軽減されたのだろうか? 手足が冷たくなり、体の芯がソワソワしている。


 試験の開始時間が近くなると、流石に教卓の周りに残る生徒も減っていき、俺達も席順を確認することができた。

 何を基準に決めたのかは分からないが、俺達はバラバラの席で試験を受けることになった。別に三人仲良く隣同士が良かったという事では無いが、……両サイドを知らない生徒。それも上級生に挟まれるのはどうも落ち着かない。今日は落ち着かないことだらけだ。落ち着かない。


 試験用紙が配られ始めると騒がしかった教室も静かになり、いよいよ始まるんだなと実感する。

 間もなくして、試験開始の秒読みが始まり、緊張もピークに達する。

 こんな緊張、ゲームでは味わえない。といっても、正確には味わう緊張の種類が違うけどな。

 ゲームでは<脳汁(アドレナリン)>と<手汗>が大量に分泌されて体が熱くなるが、今は違う。同じ緊張状態でも、口の中が渇き体温が低くなっている。吸血鬼にでもなったみたいだ寒くてたまらない。


 震える身体を縮こまらせていると、突然の合図で試験が始まり、今まで静かだった教室内に一斉に紙をめくる音と筆記用具の音が響いた。


 紙をめくる音なんて微々たるもの。図書館が静かなのはその為だ。

 しかしそれを数百人が同時に行うと、こうも大きな音がするんだな。

 そんな現象を目の当たりにし、少し呆気にとられてしまった俺は出遅れた事に気が付く。


 受験生たちは名前の記入が終わると各々の息はバラバラになり、そして再び静かな教室に戻った。

 とりあえず俺も用紙に名前を記入して、早速はじめるとしますか。


 出題形式はともかく、俺の目を引いたのは≪回答形式≫の方だった。

 解答用紙には解答欄の代わりに、数字の書かれた小さな丸が並んでいる。


「(よっしゃ! ラッキー)」


 嬉しい事に、この試験はチェックシート式の選択問題だ。

 選択問題は正解か不正解の二つしかない。しかし、ランダムに答えても半分正解するという訳でもない。これは選択肢の数によって『確立』が変わるからだ。

 今回は四択なので、最低点数は25点といったところか。まあ、実際には機械的に正解が割り振られてはいないだろうから、もっと複雑な式になり、確立の変動も起こる。だからこの点数は目安でしかない。

 でも、解けない問題も四分の一の確率で正解するんだと考えれば多少気持ちが楽になるってものだ。


 みたところ<英数国社理>の基本五教科と<電子解析>の全六教科で構成されている。

 電子解析とはプログラムやアルゴリズムの構造解析を学ぶ科目なんだが、その内容は大分簡略化されている。英語と数学が混ざったような、云わばゲーミングスクール特有の専門(スペシャル)科目だ。

 リマイナーになる為に必要な基本知識なんだそうだが、ゲーマーの俺にはその価値が全く分からない。

 たとえば風呂上りにドライヤーで髪を乾かすために態々、熱風が出る仕組みから勉強する馬鹿はいない。『電源を刺して、スイッチを押す』それだけで十分じゃんか。

 つっても今更、この学校の教育方針に文句を垂れても筆記試験の内容が変わる訳でもないから、とりあえず幾つか問題を解いてみる。


 すると徹夜で勉強したかいあってか、暗記科目は元より、読解力や応用力が必要な科目も簡単に解けてしまった。なんだか拍子抜けだ。

 特に数学と電解に至っては基礎を叩きこまれた分、まるで小学生用の問題を解いてるかの様に感じる。

 覚えた所がドンピシャで出題されている。ユナ先生の出題予想は完璧だったな。


 そうして俺はこれといって躓く事なく、スラスラとチェックシートを塗りつぶしていった。

 

 昨日もそうだったが、“ 集中していると時間が早く過ぎる ”気がする。

 気が付くと試験時間も残す所数分。始まる前の緊張が嘘のように今は落ち着いていて、ケアレスミスが無いか最後の見直しに気を配る余裕まである。

 試験でコレほど点数に自信があった試しは無い。かなりよく出来た。

 分からない問題も無かったし、これはもしかすると満点さえ取れてしまうかもしれないな。


 しばらくすると監督官が試験終了を言い渡した。


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