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第12話:試験範囲

◆◆


 カーテンの隙間から入る光が顔に当たり、俺は薄らと意識を取り戻した。

 昨日遅くまでゲームしていたから、首が痛い。床に落ちてしまったのか本来あるはずの所に枕が無い。職務放棄とはやってくれる。


 別に寒いわけでもないが、頭から布団を被りベットの中で丸くなっていると小さく電子音が鳴った。

 ――シャラリン!


 枕元で充電していた携帯端末を羽毛の城塞に引き入れる。

 画面の光が眩しい。設定を『暗い』に落してから、俺は音の理由を調べた。


「メール、ユナからか……。え……? 今何時なんだ?」


 受信日時に表示される、コロンで区切られた四ケタの数字を見て驚愕した。寝過ぎ。今日は休日なのでこれと言った予定も無く、完全に気が緩んでいた。

 一人暮らしをしていると不規則な生活になるのは仕方ないとしても、流石に二回以上の食事を逃すのはまずい。

 案の定、メールの内容も超過睡眠を心配するものだった。


 窓から差し込む街路灯の光で目を慣らしていく。

 城塞から這い出してゆっくりと立ち上り、大きな伸びをすると目が覚めてくる。

 とどめに顔を洗うと夜の冷たい水が肌を締め付け、少し痛く感じた。


 とりあえず、失ったカロリーを補充するために冷蔵庫を漁り、片手間で携帯端末を弄る。


「コウヤから……着信きてるな。あっ、ユナからも……二人と何か約束してたっけ?」


 別々に連絡するのが億劫で俺は二人を≪会議通話≫に招待した。


 通話が繋がると同時に喋り出す二人の声が脳味噌に響く。


「「ナユお前寝てただろー? こんな時間まで寝てるって事は……昨晩はおたのしみで? 三回もコールしたんだぜー? オレ」」

「「もーっ、心配で見に行こうかと思ったよ? メールもしたのにー! なっんの反応も無いんだもんっ!」」


もう夜だってのに元気ね、あなたたち……おかげで完全に目が覚めたよ。


「あーうん。寝てた。今日何か約束してたっけか?」

「別に大した用でもないんだけどよッ、選抜試験の予選内容発表されたろ? どーするよー?」


 そういやこの前メールが着てたな。

 選抜試験は筆記による学力試験とVRCによる実技試験の二回に分けて行われるらしい。ゲームテスターの選抜に座学の試験を行う意図が全く読めない。二段階選抜において『足切り』が行われることは別に珍しい事ではないんだが、異なった科目で『ふるいにかける』のはいかがなもんかと思う。

 ゲーミングスクールなんだから、実技レベルは高くても勉強が苦手って生徒は少なくないと思うんだ。

 俺みたいな<実技優等生(ゲーマー)>の事も考慮してほしいもんだな。


「オレ勉強は苦手なんだよなー。ナユーどうすんだよ」


 ほらココにもいた。


「コウヤ、お前の場合『勉強は』じゃなくて『勉強も』だろ? 選考会(このまえ)もダメダメだったじゃんか」

「おまッ! またそれ言うかー! もういいだろー無事入賞出来たんだしよ」


 というのも、実技選考会でコウヤの順位は六位だった。そのうえ、七位との差は僅か50ポイント程……辛うじて入賞するのを『無事』と言うには難しい。

 ちゃんと作戦を実行しないから危ない橋を渡るハメになったんだぞオマエ……。

 ちなみにユナは安定したヒット・アンド・アウェイで難なくクリアしたそうで、三位にランクインしている。


 断トツ一位の俺に、何も言い返せないコウヤはユナに泣きつくも「えーっと。ドンマイっ?」と軽くあしらわれている。大分ユナもコウヤの扱いに慣れてきた様子だ。微笑ましい。


「でもコウヤっ、筆記試験は三年生の内容だからね! 油断しないでしぃぃいーっかり勉強しなきゃ駄目だよっ? 選考会は何とかなったけどさ、私も今予習してるし」


 甘いなユナ。座学なんて物は勉強して法則や原理を理解するのではなく、それら全てを暗記してしまえばいい話。教科書を丸暗記すれば教科書持込みOKの試験と同じッ!

 その上、一年の内容なんて中学の延長線だし受験勉強で予備知識ばっちり。だから筆記試験楽……勝……んッ?


「「「三年の内容ッ?!」」」「「「三年の内容ッ?!」」」


 あまりの衝撃に、馬鹿とハモってしまった。恥ずかしい。

 三年のテキストなんて持ってない……! そもそも俺達はまだ青春まっしぐら一年生。

 持っている方がおかしい……。え? ていうか三年の内容? マジ?


「……えっ? そうだよ? 出題範囲に書いてあったから、私先輩にテキスト借りて勉強したよ……っ?」


 そっかぁ上級生と交流があるなんて凄いなユナは、……でもどうせ借りに行くなら俺達も誘ってほしかった。俺には三年の教室に出向いてテキストを借りるなんて発想、どこにも無かったよ。

 それ以前に、クラスメイトとさえもあんまり話さない俺に、三年生との交流なんてあるはずがない。


「え……? 嘘でしょ? ウソッ! もしかしてっ、二人とも勉強してないの? 試験明後日なんだよっ?」

「ああ。今壮絶に後悔している。」

「まさか! 三年の内容とは……オレ勉強苦手なのに……もっと労わってくれよおおおおぉ」


 とりあえずやばいぞこれは。よく考えればそりゃそうか。


「もうー……よしっ! 私が教えてあげるから明日一緒に勉強しよっ! 山当てるしかない!」

「うおおっ! まじ天使ーッ! スゲー助かるぜーッッ! けど『教える』ってユナちゃん、全部覚えてんの? ホントに?」


 おい! 口を慎めコウヤ。天使に疑いの目を向けると神の機嫌を損ねかねない。

 こういう時は素直に「ありがとう」と「すごいな」だけ言っておけばいいんだ。


「ユナ……すごいな。ありがとう!」

「フッフッフッ、私っ優・等・生だからねっ! 物覚え良いんだ! そうだっ! 試しに、なにか問題出してみなさい!」


 ほら簡単。褒めれば天狗、責めれば鬼。まぁでも本当に凄い。

 全部覚えたって、それもう卒業まで勉強しないでいいって事じゃんッ! 羨ましいッ!


「マジかぁユナちゃんぱねぇ。試しにじゃあ……『アルゴリズム教本31P』の問三の答え!」

「……えっ? といさん? そ、それはちょっとわからない……っかな。って!? そういうんじゃなくてっ! 内容だよ! な・い・よ・うっ!」


 問いの答えを聞いてどうするんだよ。コウヤ、一回医者に診てもらえ……。もしかすると脳味噌にクレヨン入ってるのかもしれないぞ。


「馬鹿だなコウヤ。『アルゴリズム教本』って最初に“ 内容(・・) ”言っちゃ意味無いだろ」


「……あっナユ。それもちょっとニュアンスちがう……っむぅ。はぁー……教えた所で二人には意味、ないかも……」


 携帯端末越しだが、ユナに哀れみの目で見られているような、そんな感じがした。


「あっ! そういえばさっ! 二人が私の家来るの、はじめてだよねっ?」


 そう言われてみると、ユナの家には行った事がない。休みの日は大抵、ゲーム機が揃っている俺の家に集まろうって流れになるからな。今まで意識したこと無かった。


「はじめて初めて! つーかオレッ、女の子の家に遊び行くこと自体、初めてだー! うっひょー! 今夜興奮しすぎて寝れねえかも!! うっわー、ユナちゃんの家ってどんなのかなー楽しみだなー!!」

「ええっ学生住宅だから別に普通だよ? ナユの家と間取りいっしょだしっ……てか! 変な期待しないでっ! なんか緊張するしっ!」


 コイツらは一体何を期待して、何に緊張してんだか……行ったところで『勉強漬け』なんだと思うと俺は気が重いよ。正直――


「……メンド」


…………。


 ――ピンポーン!

 神様お許しください。

 メチャクチャ楽しみで昨日寝れませんでした。正直、夢が胸いっぱいです。


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