第11話:ボーナススコア
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この仮想体験戦闘プログラムVRCは、体感系アクションゲームに近いけれども『“ プレイ ”する』というよりも、身体を乗り換える感覚に近い。
実際、他のバーチャルゲームとは差別化されて<Remain>残留・存続すると呼ばれているぐらいだ。
言うならば『“ 転生 ”する』と表現するのが近いだろうか。
そして、もう一つ特徴的なのは『攻撃手段』だ。俺が今握りしめている武器は、剣の形をして見た目こそそれっぽいけれども、データ上はある種のクラッキングプログラムで構成されている<改竄ソフトウェア>なんだ。
これをあの<アンチデータモドキ>に当てると、奴のデータは破損してシステム障害を起こす。物理的な攻撃に見えても、本質的には昔ながらの電子戦で争っているというわけだ。
とは言え、走れば息は切れるし汗もかく。体のデータが破損すれば、感覚としてフィードバックが返って――来るッ!
「うぉ……、いっきなりかよッッ」
油断していた所に敵の攻撃が振り下された。間一髪でガードには成功したものの、全身に<フィードバック>が走る。
「ッッ! コウヤの奴こんな重い攻撃、よく受け止めてたな……こんな、シャレになん……ねぇ……ぞッ!!」
剣身を寝かせ、防御した攻撃を地面に受け流す。柄を握る手の痺れがその威力を物語っている。
現実世界で優秀な人間は電子世界でも優秀というのは羨ましい限りだ。残念ながら俺はコウヤと違って運動が苦手で、そんな運動神経なんて持ち合わせていない。
だがら俺は、すかさずに距離を取り<戦闘スタイル>を変える。
第一陣のおかげで今回の配点はある程度予想がついている。
恐らく、『敵に与えた累計ダメージ』『残り時間』『被ダメージ』の様な三つの要素からスコア計算が行われている。
一つ目の要素でスコアを稼ぐには、上限値があるから無しだ。回復手段を持たない敵に対してコレは稼ぎにはならない。
二つ目の要素も同じでタイムアタックにも、制限時間があるから無し。
残る要素は
――『被ダメージ』
コレは簡単に説明すれば、回避率と被弾率による加算ボーナスのこと。今回の<グリッチ>はここにある。
間合いを一気に詰める。敵の懐に飛び込んで、すかさず攻撃態勢に入ると、人体で言う所の心臓に位置する部位にある<脆弱性>を狙い、鋭く突きを放つ。
そして剣先が触れた瞬間――。
「――今……かな? よっとッ!」
その動きはまさに神技の域。
平然と死線を越える姿に歓声が沸く。最強にして最大の攻撃≪アクティブ・カウンター≫を完全に見切っていた。
奴のカウンターは“ 見て ”からでは到底回避不可能の攻撃だが、俺は事前に“ 観て ”いたから予測回避する事が出来た。
制作者の思惑や狙いを想像して、それを逆手に取って戦う。
VRC本来の目的は戦闘訓練。だから俺の作戦はリマイナーとしては邪道であり、外道であり、間違っているスタイルだ。
だけども『大所高所』は俺にとって『武器』であって『才能』。
――四文字に集約するならば『ゲーマー』である事こそが、俺のアドバンテージなんだ!!
「すげえアイツ完全に見切ってやがる」 「あれ、でもなんかおかしくね?」 「何で倒さないのかしら?」
「……よっ! ……もうチョイ寄って……おっと! ほらきたッ! ここで右に二歩ずれる……三発避けたら、弱突き一回でッ! ――ッ! バックステップっと」
単調な連続攻撃を、口に出して一つ一つ確認しながら落ち着いて避け、間違っても倒してしまわないように威力を最小に抑えた反撃で相手のカウンターを誘発させる。
おっ、これパターン入った……。このペースで行けば大丈夫そうだな。
「「おい! 逃げてばっかりじゃなくて戦えよ!」」 「「遊んでんじゃねえよ」」 「「オイッ! 何がしたいんだッて、言ってんだよ!!」」
先ほどの歓声とはうって変わって、今度は酷い罵声が飛んできているが気にしない。
「ハイよッ! ウスノロさん、そんな攻撃じゃワンパターンってもんだって! よっと!」
完全にパターンに入ったことで天狗状態になった俺は、なんだか面白くなってきてしまい、罵声に火に油を注ぐ様にコミカルな動きで『作業』を繰り返した。
まあ、見てろよ。スゲー結果見せてやるってッ!
「「いい加減にしろってッ!」」 「「うっぜえな……、なめてんのかあ!」」
罵倒を気にせず、延々と同じ動作を繰り返しながら、インターフェースに表示される制限時間に目を向ける。
「……さて、そろそろ良い頃合いだな」
<完全に作業>な立ち回りで敵を<弄ぶ>すること早数十分。
――仕留めるとするか。
「 「いいかよく聞け! 俺はゲーマーだッ! だからやる事は一つ! <出題>を理解して<課題>を把握し<実技>を<消化>するのみ! 俺にクリアできないゲームなんてない!! とどめだッ!」 」
誰に向けてというわけでもないが、俺はコウヤ張りの威勢の良い台詞を叫び、それから限界まで減った敵の体力を会心の一撃で削り取った。
≪――討伐対象の消滅を確認しました。十秒後にリマインを終了します≫
さて、不可解な行動の意味。制限時間を目一杯使い、攻撃を誘発させて、それをひたすら回避し続けた理由……それは『被ダメージ』のボーナス計算式にグリッチがあることを発見していたからだ。
第一陣のスコアリザルトとハイライトから、この式は『敵の攻撃回数×残りライフ値』でスコア加算しているのが分かった。経験上。
これはノーダメージで避け続ければ十分に一位を狙えるスコアが稼げてしまう事を意味している。
正確に弱点を、選考会そのものの≪脆弱性≫を突いた完璧な作戦!!
嗚呼、なんて簡単で退屈なゲームなんだろうか。こんなんじゃ歯ごたえが全然たんねえよ。ってな。
……ジジジッ
≪――1-1 間名由 65000点 一位にランクインしました≫
「 「どうだぁッ! ……これが、実技選考会の――この“ ゲーム ”の≪完全攻略方法≫だッ!」 」
俺は現実世界に戻るや否や、すぐさまVRC端末から立ち上り、スコアボードを背にドヤ顔で言い放ってやった。
来い! “ 黄色い歓声 ”達! そして俺の超絶スコアの前に平伏すが良い“ 野郎 ”共ッ!
「(まだアイツやってたの? 時間掛かり過ぎウケルー)」
「(また、お遊びゲーマーの独り勝ちかよ)」 「(独り勝ちと言うよか独り善がりだろアレじゃあ)」
あっるえぇぇえ? コウヤの時となんか反応違くないですか? というか……人、少っなッ!
落ち着いて見渡すともう、ほとんど生徒の姿は無く、それどころかライフスーツ姿なのは俺だけだった。
「 「…………ッツ! 何故だッ!! 技名か?! 技名叫ばなかったからかッ!? 俺とコウヤで何が違うって言うってんだあああッ!!」 」
ぢ、ぢぃぐじょぉお! お、俺だってさ頑張ってたんだぜ? ほら見ろよ……。ランキングのトータルスコア……。二位とダブルスコアの三万点以上離して一位なんだぜ?
「コウヤーっ、ナユいたよーっ! もうーどこ行ってたの? 探したんだよっ」
「おーナユ! ゲームのやりすぎで電子分解されたかと心配してたんだぜッ!」
状況がよく分からない。うぇあいず、応援……玉手箱的な次元断層に時間を吸われたのだろうか?
「いや、今までVRCを……」
だ、だれも見てなかったのか……いつから?
……もしかして、やりすぎた?
「ナユ! すごいじゃん! 一位っ!」
「ッ、うお!? ……マジかー。さすがゲーマー! つっても、ナユなら楽勝かー」
うぅ……。こいつらだけだ俺のことわかってくれるのは……。
「くぅーッ! やっぱりナユが優勝かー! まっ、驚きはしないけどよー毎度のことだし」
「私もナユに言われたことやってみて三位だったよー!」
制服姿のユナは携帯端末に表示されたランキング表を指差して、無事入賞した事を自慢してくる。
ユナは三位か……あんなテキトウな指示だけ聞いて結果を出せるユナの方が余程すげえ。
「しっかし、ユナちゃん男子から人気だよなー!」
「い、いやあ、な、ない! ない! ないからッ!」
なにその全否定。照れ隠しにしては必死過ぎね?
俺もウワサで、ユナのファンクラブあるとかないとか聞いたことがあるもんな。しかし、何を今更って感じだ。だってユナはミス・パーフェクトだからな、ミス・ユニバースの上位的存在。
「しかもオレの組の女子も応援してたぜ!!」
「ッえ! そ、そうなんだぁ。それは、嬉しいかも……」
同性はいいのかよ。分からん女心わからん。
そして、照れくさそうにするユナが思い出したように話を戻す。
「あっ、それよりナユ! 私もう、先に着替えちゃったよ? 早く着替えてきなよっ」
――まあ、いいか。
兎にも角にも、断トツ一位で実技選考会は終了した。
「そう言えば今日は金曜日か、早く帰ってゲームやろうっと……」
「ナユ君ナユ君? 曜日関係なく毎日ゲーム三昧の奴が何を言ってるんだね?」
「き、金曜日は特別なんだよ! ウィークエンドイベントとか開催されてレアアイテム配布されたりだな、経験値アップが……」
「ねえねえっ! 帰りにさっ、何か甘いもの食べてかえろっ? ねっ?」
そして何より、優勝したって事は、これで選抜試験に挑戦できるわけだ! 待ってろよ≪CβT≫ッ!!
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