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第8話:死に急ぐ者


 授業が終わり一旦は騒めきを取り戻した『活気ある教室』に、担任の教師によって再び『静寂』が齎される。

 しかし、ホームルームを始めるや否や。担任の教師はこれと言って大した連絡も無いのか、明日の時間割りを読み上げ終わると早々にクラス委員に号令をかけさせた。


 別に珍しい事ではない。『帰りのホームルーム』というのは大した連絡が無い時は『挨拶』だけで終わる場合もある。

 それこそ、あっと言う間。

 それなのに毎日開かれるのは何故なんだろう。教師も挨拶の為だけに態々教室に顔を出すのは面倒と感じていないのだろうか。


「あーそれから――実技選考会に参加を希望する生徒はライフスーツに着替えてVRCルームに集まる様に……」


 全員が起立して『礼』の声を待っていると、思い出したかのように連絡事項を告げる担任。

 大切な事は最後に持ってくる主義なのか、単に適当なのか。


 さらっと言ったけど先生、結構重要な連絡事項ですよね? ソレ。


「「礼ッ」」


 クラス委員の号令と共にホームルームは終わり、再び水を得た魚の如く活き活きとした表情になるクラスメイト達。

 ユナは世界史のノートを写させてもらっているみたいだから、俺は本日二回目となる<インベントリ整理>をしながら待つ事にした。

 隣のクラスもホームルームが終わったのか、廊下が騒がしいな。


 すると、誰かが開け放った扉からお調子者が入って来る。


「おぉ! オレの事待っててくれたのか!? ってあれ、ユナちゃん何してるの? ノートなんて明日まで借りちゃえば良くない?」


 はは、お前を待っていたわけじゃないぞー? 面白い事を言うねコウヤくん。

 なぜそんな発想になんだよ……ったく。


「借りちゃえば良くね? じゃないだろコウヤ。ちょっとは遠慮ってものをだな……」


 教室に入って来るや否や提案された図々しい考えにユナがたじたじしている。

 でもまぁ一日借りられるとしたら凄く助かる事は確かなんだよな。選考会に遅刻はしたくない。


「なあなあ! 悪いんだけどよーお願いがあるッス! オレら選考会行かなきゃなんねーからさ、このノート明日まで借りてもいいか? なんだったら今度埋め合わせするからさッ、一生のお願い! ダメかー??」


 仕切り屋って訳じゃないけど、こういう所があるんだよなコイツ。ほら、クラスメイトも嫌な顔して……ないな。

 はいはい出た出た。『スクールカーストの一軍生徒』は何しても許されるってやつだこれ。嫌な顔所かちょっとうれしそうじゃねぇかよ。


「えっえっ!? うそーっ佐藤君も選考会に参加するんですか? だったら私も参加しようかなぁ」


 簡単に承諾してくれたクラスメイトはコウヤとの会話に夢中で、ペコペコと頭を下げるユナを気にも留めてない様子だった。


「ノートオッケーDAZE! ほら二人とも早く荷物まとめろよ」


 後から来たコウヤに言われるがままに荷物を纏め、ライフスーツの入ったリュックを背負うと俺たちは教室を後にする。

 道中もコウヤとノートを貸してくれたクラスメイトは何やら楽しそうに話しているが、羨ましくなんてない!!

 ただ不公平な世の中に不満があるだけだ。

 そうだな、『なにアイツ(・・・・・)』いつリア充爆発するの?って感じだ。

 ほらみろ、あまりの嫉妬に字が集約できてない……。


 そんな不満を眉間に寄せていると、気を利かせたわけでは無いだろうが、空気を読んだユナが話しかけてくる。


「待っててくれてありがとっ! でもさー、更衣室は男女別々なんだから私の事、待たずに先に行っても良かったんだよっ?」


 いつも待たずに先に行くと拗ねるでしょお嬢様。

 でもそれを言うと、それはそれで拗ねるだろうから、口には出さないけどさ。


「はっはあぁーん……? ナユ……、さてはユナちゃんの着替えをこっそり覗くつもりだっただろ!? そうだろ!? 相変わらずむっつりスケベめ!」


 ホントさ、常々思うが――何言ってんだコイツ?

 むっつりスケベはお前の方だろ。俺は、そうだな……こっそりスケベの類だなッ! うん。俺も何言ってんだ? 肯定してどうする。

 そんなくだらないことで一々反応してたら疲れるから、口には出さないけどさ。


 つーか、そもそも色々おかしいだろーが!!

 『覗き』ってのは元々『こっそり』するもんだ。それ以外の覗きは存在しない。あと、覗いてる時点で『むっつり』所のレベル越してるからな。


「覗、き……え、そうなんですか? 間君ってそういう事する人だったんですね」


 女子いいいいいぃいいぃッ! 真に受けてんじゃねぇよッ!

 これに対しては声を大にして否定させてもらう。


「 「ッんなはずないだろッ!!?? のッ、覗かねぇよッ!」 」


「まった、またぁ~。ナユくーん? 声裏返ってるぞぉ?」

「しつこいぞ! 覗かねえっての! ……あとそれからッ。正しく言うなら『こっそりと着替えを覗くつもりだった』だからな。変な所強調しなくていいから!!」


 ついでなので間違った使い方を訂正して――。


「え、なんでそんなに覗きに詳しいんですか? 間君って変態だったんですね。近寄らないでください」

「「そういう意味で言ったんじゃないからッ! 変態じゃないからッ!」」


「ナユ必死過ぎて……、逆に怪しいよ」


 クラスメイトの誤解を解こうと熱くなるにつれ墓穴を掘り進め、最初は笑っていたユナも俺の事を疑う始末。

 日本語って、なんて不完全で不安定な言語なんだろうか。語弊、マジ勘弁。


「大丈夫、大丈夫ー。二人が着替えてる間、オレがしっかり見張っとくからさっ!」


 更衣室に着くころには周りから冷たい目で見られ、挙句クラスメイトには『覗き趣味の変態野郎』というレッテルが張られてしまっていた。ちくしょうッ選択肢ミスった。『口は災いの元』スルーするべきだったか。

 四文字に集約するならば『四面楚歌(・・・・)』。俺は何もしていないのに、否定しただけでこの仕打ちッ。


 というかコウヤ、元凶のお前がヘラヘラ笑ってんじゃねぇよッ……って、お前ッ!?

 まさか!? 見張っとく、って何時ッ? 何処でッ?


「…………。へへっ」


 コウヤの野郎は驚くことに、さり気無く二人と会話を続けながら、一緒に女子更衣室の中に入っていったではないか。


「ま、マジでかアイツ……」


 一瞬の静寂と湧きあがる殺気が廊下まで伝わってくる。



「「キャアアアッ!!」」 「「何で男子がああああコッチに入って来ンだゴラあああぁぁッッ!!」」 


「 「 「出てけええええええーっ!!!」 」 」



 文字通り、更衣室から蹴り出されたのか、勢いよく廊下に飛び出したコウヤの口からはブクブクと泡が吹き出していた。

 ――頭おかしいのかな? マジばかなのかなッ?


「まぁ……そりゃこうなるわ。なにやってんだか……。生きてっかコウヤー?」

「……」

「うん、死んでるな」


 そんなんだから彼女できねえんだよお前。

 ……まあ人の事言えないけど。


 謎は謎のまま。未だ何でこんな『お調子者』と友達やれているのか謎。


◇◇

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