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偽りの笑顔の彼は

作者: 佐倉綾女



右隣の席が埋まってから一週間たった。

しかしながら、俺はその転校生と隣の席であるにも関わらず、未だ一言も口をきいていない。どうせ友達のいない暗い奴だとでも思われているに違いない。別に友達がいないわけではないのだが、それを別段主張するほとは落ちぶれてない(と思いたい)。ゆるゆるつるんでいる俺と友人たちは、会話は少ない方だとは思うが、まぁまぁ上手くやっている。そんなんだから、クラスメートに仲がいいのかと疑われてもしょうがないけど。なんなら、寂しい奴らの集まりだとでも思われているのかもしれない。まぁ、どう思われているにしても、俺の方から声をかけることはないだろう。彼はその外見も相まって、あっという間にクラスの人気者になったのだ。俺みたいなのなんかに、何も思うところはないに決まってるさ。



能登広樹、つまり隣の席の転校生が最初に教室に入ってきたとき、我がクラスメートは誰一人として声を発することが出来なかった。理由は至極簡単、能登の髪が真っ白だったからだ。文字通りに真っ白。染めたんじゃ絶対に有り得ない白さだった。顔をちゃんと覗き込むと、瞳はなんと、赤い。肌は病的な白さで、ところによっては血管が見えている。彼は、アルビノだそうだ。アルビノと一口に言っても程度があるわけなのだが、能登の場合は、色素が全くないと言う話だ。アルビノについての話は聞いたことがあったが、実際にあえるとは思わなかった。自己紹介は軽いノリで親しみやすい印象を受けた。しかし、俺はそんなことよりも、能登は何を思いながらクラスメートの好奇の視線を受けているのかが気になった。その笑顔がなんだか、貼り付けられたような気がしてならなかったのだ。




まぁ、そんな感じで彼はクラス、学年に限らず、学校中の有名人になったのだった。普通にしてても目立つのだから仕方ないのかもしれないが。おかげで、うちのクラスにはたちどころに野次馬だらけになった。俺から言わせてもらうなら、落ち着いて読書に打ち込める環境とは程遠く、それはとてもじゃないが快適とは言えない。我がクラスメートの中では、彼と会話することが一種のステータスと化しているようだった。そうして自分は有名人と友達であることをアピールしなければいけないかのように、能登の周りにはいつでもとっかえひっかえに人が群れていた。つまり、だ。俺の隣ではいつでも公害のごとく我がクラスメートが会話をしている。そこで、昼休みは昼飯を食ったらさっさと教室から退散することにした。大抵の行き先は図書館だ。

かと言って、それは根本的には何の解決にもなってない。俺だってそれくらいは解る。しかし、クラスメートに言及なんて面倒くさいことをするのもしゃくだ。俺に出来るのは精々、能登が取り巻きを引き連れて自席から立ち去ってくれることを願うくらいしかない。




しかしながら、だ。偶然と言っても過言で無いようなシチュエーションは起こってしまうわけであって。

それは能登が転校して来てから二週間と四日目の木曜日の話。不本意ながら、俺は部活中に読もうと思っていた本を教室に忘れてきてしまったのだった。我が学校の造りは、部室塔から教室塔までがかなり遠い。しかし、急ぐつもりが全くない俺はのんびりと廊下を闊歩して教室へとたどり着いた。で、誰もいないと思って教室の扉を思いっきり開けた。そうしたら、そこには能登がいたのだ。能登は扉が立てた音にかなりびっくりしたようで、口から息を呑む音がした。


「……、あー、悪い、驚かせて。」


謝罪の言葉が彼との初めての会話になるとは思ってもみなかった。能登は返事の代わりにゆっくりと一つ頷いた。さて、さっさと探し物をして部室に戻るとしよう。自分の机を覗き込めば、それは容易に見つかった。なんで忘れたんだ、俺。無駄な労力を使ってしまった気がする。

とかなんとか思いながら顔を上げたら、能登がこっちをみていた。目線が合う。


「あ、あのさ、高橋、」

「ん、何?」

「高橋って文芸部員?」

「え、あ、うん。なんで知ってんの」

「誰かに聞いた」

「誰かって、お前、」

「だって、」


いろんな人がよってくるから、と能登は控えめに言った。それなのに、なんで俺の名前は覚えてるんだ。わけわからん。っていうよりも、自己紹介の時とキャラが違いすぎないか、能登広樹。


「あれだ、自己紹介はせーいっぱいの虚勢デス」

「何それ」

「俺、こんななりだからさ、友好的なアピールしないと浮くし」

「そりゃ、そうだろうな」

「ほんとはかなり人見知り」

「ふぅん」


変なやつ。もっとチャラチャラしてるかと思ったけど、意外にそうでもないらしい。なんだ、普通じゃないか、転校生。


「で、高橋にお願いが」

「何」

「文芸部つれてってくれない、かな」

「……はい?」

「あ、つれてってくれなくても良いから、文芸部の部室を教えて欲しいんだ、けど……」

「……、」

「あー、こまるよな、ごめん。俺のせいで休み時間とか鬱陶しいだろうし」


あぁ、その通りだとも、能登広樹。俺は休み時間の度に騒音と隣合わせしているんだから。……しかし。よく見ているんだな。我がクラスメートの大半よりはよっぽど話が通じそうだ。気配りは出来るらしい。

それよりも、文芸部に入りたいんだろうか。本なんか読まなさそうなイメージなのに。何を読むんだろうか、と考えても一向に予想が立たない。


「案内しよう」

「え、」

「ちょうど部室にもどるところだ、困りはしない」

「あ、まじ?助かるよ」


能登が少し笑う。これは生きている人間の表情だ。張り付けられたイミテーションでは、ない。なんだ、人間らしい表情も出来るんじゃないか。俺もつられて少し笑った。

 ……、能登が好んで取り巻かれているわけではないことくらい、最初から俺もわかってたんだけど、さ。それでも、あの造り物の笑顔が気に入らなかった。取り巻かれている間、ずっと、上辺だけの表情でいる能登に嫌悪感すら感じた。だけど今、能登はちゃんと笑っている。

 とりあえず、好きな作者の話から始めてみようかと思う。




登録してみたはいいものの、最近書いた小説がなく6年前に書いたものを引っ張り出してきました……笑

ちなみに、私は中学にも高校にも文学部はありませんでした。



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