第二話
ここがはじまりの町ってやつか。
「お兄ちゃん、おまたせ」
「おう、ミツキ。こりゃまた随分と弄くったな」
背丈は現実の妹より10センチは高いし、ボディのメリハリがやたらとある気がする。
顔も大分違うな。現実でも十分美少女だが、こっちの顔はややハーフっぽい印象がある。
「ゲーム内でも私はミツキって名前だよ。お兄ちゃんも、現実より随分とかっこよくなったね」
「う、うるせー」
さて、ここにログインしている俺の知り合いはもうひとりいるのだ。
そいつを捜さないといけないが……。
「カイトさんに集合場所、言ってなかったよね……」
「だな。……まあ、その辺うろついてればそのうち会えるだろう」
「それもそうだね。それじゃ、さっそく狩りにでも――」
ピピピッピピピッ。
「ん? 何だ今のアラーム音?」
「お兄ちゃんにも聞こえた? えっと確か、メールが届いたときにアラームで知らされるって書いてあったかも。
メニュー画面を開いて、メールのボタンを押せば見れるはずだよ」
「メールって……カイトからか?」
「私たちのキャラクターネームを知らないはずだし、それはないと思うけど……。
あ、運営の人からみたい。なになに……」
こんにちは。ソリチュード運営チームでございます。
ソリチュードの世界へようこそお越しくださいました。
突然ではありますが、只今よりお客さまによる自発的ログアウトは禁止とさせていただきます。
ログアウトするには、この大陸のどこかに存在するグランドボスを倒す必要があります。
ゲーム内でHPがゼロになりますと、お客様の身体は破壊されますことをご承知ください。
「……げ、これって昔ラノベとかで流行った、デスゲームってやつじゃないのか……?」
「ま、まさかそんな。きっとイタズラ……だよね?」
そう、例えデスゲームが始まったのだとしても、それだけならまだよかった。
問題は、メールの最後に書かれていた一文。
……なお、グランドボスの出現条件は『現在ログインしている5000名のプレイヤーのうち、4999名が消失していること』となります。
孤独に満ちた世界に降り立つ魔人の誘惑を断ち切り、この世界から脱出できるのはたったひとりのみです。
脱出できるのはひとりだけ、だと……?
次第に周囲のプレイヤーが騒ぎ始めた。
「マジだ。マジでログアウトできねえぞ!?」
「そんな……変な冗談は止めて、さっさとここから出して頂戴!!」
「そうだ、早くここから出せ!!」
俺は、どうしていいのか分からなかった。
ひとりだけしか生き残れない?
それは、俺かミツキのいずれかは死ぬことが確定されているということ?
そもそも本当の話なのか? 5000人もの人間を閉じ込めておくことなんてできるのか?
そうだ。本当だとしても、すぐに外部から助けが来るに決まっている。
「お、お兄ちゃん。私、怖いよ……」
「だ、大丈夫さ。お前だけは守ってやる。だから心配するな」
そうは言っても、俺の足元は既にガクガクである。
正直、とてつもなくビビッているのだ。
「……キャアアアアアッ!!」
突如、背後から鳴り響く悲鳴。
何だ、いったいどうしたってんだ!?
「冗談じゃねえ、冗談じゃねえぞ! 俺は絶対生き残ってやる! だから、全員殺してやる!!」
そう喚く男の下には、うずくまっている女性プレイヤーがいた。
それに構わず、男はうずくまった彼女に剣を浴びせる。
ついに倒れた彼女は、俺たちの目の前でポリゴン片となり、散っていった。
……え?
今のでまさか、本当に死んじまったのか……?
「そ、そうだ! 生き残りたかったら殺るしかない! 俺は行くぞ!」
「そ、それなら俺も! こんなところで死んでたまるか!」
鬼の形相で得物を振るう者たち。
死に物狂いで逃げ惑う者たち。
あっという間に阿鼻叫喚の地獄となったはじまりの町で、俺たちはただ立ち尽くすしかなかった。
やばい。このままでは……このままじゃいけない……!
「お、お兄ちゃん」
そう妹に呼ばれ、俺はハッとした。
「室内なら……PK禁止だから安全……! 早く、建物の中に行こうよ……!」
「よ、よし。お前、走れるか!?」
ミツキはこくりとうなずく。
その後、俺たちは一目散に駆け出した。