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ショート・ショート展覧会  作者: 悠介
第1部 有限の地球
9/9

第9話 作戦勝ち

「幾ら私が寛大な人物だからと言っても、こればっかりは、どうしようもない事なのだよ」

 と、椅子の上でふんぞり返っている人物が言った。彼はエヌ氏と言う、ある貿易会社の社長だ。大きなプロジェクトに成功し、今では天下の大富豪と言われるまでに上り詰めた。

「そ、そんなあ。貴方と違って、僕はもう限界なんです。何人もの借金取りに追われていて、毎日ボコボコにされてるんです。明日までにまとまった金が入らないと、身を投げなきゃならなくなるんです……」

 そう言ってエヌ氏に懇願している青年は、エヌ氏とは、エヌ氏の古い友人のいとこの父の初恋の相手の高校の頃のストーカーに昔麻薬を売っていたと言う関係がある。何処で繋がっていたかの説明は長くなるので此処ではやめておこう。

「お願いします。僕に何か、仕事を回して下さい。これは、僕の生死に関わる問題なんです……」

「そんな事を言ったってねえ……じゃあこうしようか。君以外には頼めない仕事だ。君は昔非合法な職業に就いていたんだよね。だから警察から逃げるのにも慣れている筈だ。それにそういう仕事をするのにもね……」

「えっ……確かにおっしゃる通りですが……そういう仕事では困るんです。せっかく金が入っても、警察に捕まってしまったら元も子もないでしょう……ねえ、もっと別の仕事はないんですか」

「う~ん……仕事を回してやりたいのは山々なんだがね……残念ながら、今私の所に、君の望むような仕事はないんだよね……」

 青年は、ないと聞いて、首をうなだれた。

「はあ……そうですか、ではやりましょう、その仕事を」

「ああ、そうか。では、契約書を書いてくれ。これはビジネスだ」

 青年は、エヌ氏の差し出した紙に、小さくサインをした。

「どんな仕事なんですか、それは」

「うむ。私の元には腐る程金がある。それで、私の相続人を狙っている奴が殺し屋を雇って、私を消そうとしているのだ」

「えっ、そ、それは本当ですか」

「ああ。もしかしたら、君がそうかもね……」

「い、嫌ですねえ先生。そんな事ある訳ないじゃないですかあ」

「ふうん。話に戻るが、君に、その殺し屋を殺して貰いたいのだよ」

 青年はエヌ氏を怯えた目で見た。エヌ氏は平然としている。

「そ、それは本気ですか」

「自分を消そうとしている奴を殺して、何が悪い。いや、殺すと言うより、正当防衛と言うべきかな」

「やはり引き受けなければ良かった」

「ふん、君はもう契約書にサインをしてしまったんだよ」

「ふ……ふふ……馬鹿な人だ」

「な、何? 俺の契約書に手抜かりは無かった筈だが……」

「確かに俺は契約書にサインした。だがその名前は、俺の友人の名前なんだ。それにその友人は死んでいる。つまりその契約書に、俺を束縛する事は出来ないと言う訳だ、ハッハッハ」

「ふん、それがどうしたと言うんだ。君はもう、此処に閉じ込められているんだぞ」

「な、何! ではこのドアは……」

 青年はドアに近寄った。そしてドアノブを引く。開かない。押しても引いても、青年の力では、どうする事も出来ない。

「クソ、閉じ込められた!」

「ははは、私はこの会社のドアのマスターキーをいつも持ち歩いている。つまりそのドアは、私には開けられて君には開けられないと言う訳だ。更にだな、この部屋には無数の穴が開いていて、そこから毒ガスが噴射される仕組みになっているのだ、つまり君は此処で死ぬと言う訳だ、ハハハハハ……」

「ふん、それは嘘だろう……」

「な、何っ! 何故それが分かった……しまった!」

「いとも簡単に口を滑らせたねえ。実はお前が此処に来る寸前、罠は仕掛けられていないかと、この部屋の壁を念入りに調べておいたんだ。そんな穴、何処にも無かったぞ、フハハハ」

「目に見えない程小さい穴だとしたら?」

「そんな穴から出るガスなんて、たかが知れている。ガスが充満する前に、脱出方法を考えるさ……」

「クソ、だがまあ良い。こういう不足の事態が起こらぬようにと、俺は殺し屋を雇っているんだ。君はもうすぐ、木っ端微塵だ……」

「ははははは、何を言ってるんだ、その殺し屋なら、既に買収済みだ……」

「な、何! 買収されただと!」

「そうだ。その殺し屋は実は、俺の友達なんだ。既に多額の金を渡している。つまり、殺し屋なんか何処にも居ないと言う訳だ、ハハハハハ」

「む、むむむ……何たる偶然だ、しまった……」

「どうだ、参ったか。この頭脳戦は、俺が制したのだ」

「ふははは、頭脳戦だって! こうなりゃ腕ずくで君を殺すまでだ!」

 エヌ氏は青年に飛び掛かった。だが、部屋のドアが開き、ピストルの弾丸が飛んで来た。それはエヌ氏の脳天に命中した。青年は言った。

「ああ、念には念をだ。殺し屋を雇っていて良かった……考えてみれば、これが1番簡単な方法だったんだ……」

 その時、ドアが開き、“本物の”エヌ氏が現れた。

「ハハハ、何とも安易なおつむだな。俺が替え玉を雇っているとも知らずに……」

「な、何と言う事だ。替え玉だなんて。そこまで頭が回らなかった」

「ふふふ、この頭脳戦は、既に俺の物だ。これから警察に電話をして、お前を逮捕して貰う」

「ま、待て。俺は知っているのだぞ。お前が、悪徳な商法でとんでもない詐欺をやっている事を……」

「何だと、嘘だろう」

「本当だ。連行される時、テレビ局のカメラの前で、この会社の裏を全てベラベラと喋ってやる」

「待て、それだけはよしてくれ。長年掛かって、ここまでこぎ着けたのだ。幾ら欲しい?」

「そうだろう、それが懸命と言う物だ。お前のおつむも、まるきり捨てた物じゃないと言う事だ。そうだな……毎月1000万ずつと言う所かな」

「な、何。そんな大金を払っていたら、倒産してしまう。お前も損をするのだぞ。それでも良いのか」

「損などするものか。こうやって、俺は金づるを幾つか持っているのだ。ここが倒産しても、また別の所があるのだ……」

「く、くそ……始めからこうなる事は決まっていたと言う訳か……。うぬ、殺してやる!」

 エヌ氏は机の引き出しを開け、裏ルートを使って手に入れた拳銃を手に取り、言った。

「この拳銃は、俺の権力を使い作らせた特別な拳銃だ。防音装置と、狙いを定めるレーザーが付いている。お前も木っ端微塵だ」

「そんな拳銃ならこっちにもあるのだ。良い気になるな」

「ふん、本当はないのだろう、分かっている。うちの護衛は、持ち物検査も手抜かりはないのだ」

「く、くそう。撃つなら撃て! さあ!」

「ふん。すぐに撃ってしまったら、つまらないではないか。だんだんと、痛め付けてやる」

「うわあ、助けてくれ! もう殺してくれ!」

 青年は、エヌ氏に飛び掛かって首を締めようとした。だがエヌ氏ともつれ合っている内に、拳銃のレーザーが機能し、青年の腹に命中。青年の腹部は吹っ飛んだ。エヌ氏は言った。

「ふん。呆気無いもんだな」

「呆気無いだって?」

「や。その声は……」

 エヌ氏が振り向くと、そこには、死んだ筈の青年が立っていた。だが、おかしい。青年の死体と、生きているもう1人の青年。2人の青年が居るのだ。

「く、替え玉に気付かないふりをして、自分も替え玉を使っていたとは。何て卑怯な手を……」

「卑怯だって。人の事を言えるのか。新型の拳銃がありながら、いたぶってから殺すと言ったのは、何処のどいつだ。今度こそ、何か手を打たれる前に殺してやる」

「い、嫌だ。死にたくない」

「実はな。俺は最初からこうなる事を予測していたんだ。おっと、マスターキーで逃げようとしても無駄だぜ。もう手は打ってるんだよ。何人もの刑事を呼んで、このビルを包囲させてある。俺がこのビルに入る前に連絡を取って、この会社の社長のエヌ氏は、悪徳な詐欺で何人も騙して来た、僕が潜入して、捕まえて来ます、関係を持っているので、怪しまれない筈です、と言っておいたのだ。勿論その刑事達は既に買収済み。それにこの詐欺に勘づいていた者達でグループを作って、お前を陥れようと頭を捻ったのだ。逃げてもこの先、罠だらけだよ」

「ち、畜生。どうせ死ぬなら、お前も道連れだ」

「ど、どういう事だ」

「いざという時の為に、ダイナマイトを仕掛けた。場所は教えないがな。ははは、これでお前も……」

「何だと。俺は死なない。これからこのナイフでお前を殺してからマスターキーを奪い、ゆっくりと逃走する」

「そんな時間は無いのだ。実はダイナマイトの爆発時間は、今から30秒後にセットしてあるのだ。さあ、30、29、28……」

「た、大変な事になった。死ぬのは嫌だよう」

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1! ……あれ?」

「ははは、爆発しないのも当然だ。実は俺はダイナマイトの解除方法を知っている、技師。ダイナマイトを裏で売っている商人が、お前がダイナマイトを購入しようとしている事をベラベラ喋ってくれたから、そのダイナマイトにちと細工をしておいたのだ。爆発はしないぞ」

「く、くそう。またしてもしてやられた」

「もう1つ面白い事を教えてやろう。お前が狙われているので助けてくれと言うお前の依頼。実は、俺がその殺し屋なんだ。死ね、エヌ」

 銃声。それに続いて、人が倒れる音。

 この頭脳戦は、青年が制したのだった……。

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