第7話 ある土地
え? 私が何故あの土地に行かないのかって? そりゃあ、決まってるさ。変な噂が流れているからだよ。1回だけ行った事はあるがね。え? その時の話を聞きたい? 良いだろう。
その日私は、会社の上役に呼び出された。社員が皆帰った後来いとの知らせだった。約束通り私はその日の夜、上役の家に行ったさ。上役は言ったんだ。
「これを届けてほしい」
そして、大きなバッグを手渡された。
「これは何ですか」
と私は訊ねた。上役はこう答えた。
「このバッグには5000万円と言う大金が入ってる。絶対外部に情報を漏らすな。例え、お前の奥さんだとしてもな」
5000万!! 私は内心びっくりしたが、その事は顔に出さなかった。
「何故、そんな事を私が?」
と訊くと上役は、
「今月の君の働きぶりは素晴らしい。だからだよ」
と答えた。私はバッグを持って逃げようかとも思ったが、それでは昇進出来なくなり、悪い場合クビかも知れないと、思い止まった。どこに運べば良いかと上役に訊くと、
「東京のある支店だ。いきなり金を要求して来たんだ」
と上役は答えたのだった。
私は次の日、電車で出発し、次の駅で乗り換えた。しかしその時は冬で、モーターか何かが凍り付いてしまったらしい、電車が止まってしまった。幾ら会社の用事だと言っても、こればっかりはどうしようもない。私は近くのホテルに泊まる事にした。山奥のホテルで、いかにも地味だった。中に入ると、主人が良い笑顔で迎えてくれた。エアコンが付いているが、冬は関係がない。だが、おでん等温まる物のサービス等、なかなか良いホテルだった。
そして次の日、私はホテルを出た。そして、駅に入った。
すると、何か喚いている人が居る。よく見ると、その人はさっきのホテルの主人じゃないか。主人は2人の警備員に取り押さえられていた。
近くの人に事情を訊いてみると、何と相手はこんな事を言ったのだ。
「いや、あの人は、今日、これから精神病院に連れて行くんだって。山奥にはホテルなんかないのに、自分はそのホテルの主人だ、ホテルはあるんだ、何て言ってるそうだよ。全く馬鹿な話だよね。まあ、そのホテルに泊まった人が居るのなら、認めるけど……」