第5話 十秒後
十秒後の出来事を映す不思議な鏡。
ところがある日……。
Aは、鏡が好きだった。変わったデザインの物を見ると、すぐ買ってしまう。Aは、暇があれば鏡を見ているのだ。
ある休日。
Aは、旅行でやって来たとある街の商店街を歩いていた。すると、一つの商店を見付けた。
古そうな店。看板が取り付けられていないので、どんな物を売っている店かも解らない。
興味を惹かれて、入ってみる。
すると、店の奥の方に、一つの手鏡を見付けた。
Aは、それに一目惚れし、すぐに購入した。少し高かったが、Aは気にしなかった。人は誰でもそうだ。自分の為なら金を惜しげなく使うのに、人の為なら躊躇する。
しかし、使っている内に妙な事に気付いた。
Aが鏡に顔を映しても、Aの顔は映されず、代わりに妻の顔が映る。そしてその十秒後、妻が「何コレ~」と言ってAを押し退ける。
鏡の前で手を振っても、手は映らない。代わりに、十秒後の出来事が映るのだ。
こんな変な鏡だが、Aは決して手放さなかった。むしろ珍しく、もっと好きになってしまった。
ある日。
Aが鏡を見ていると、何とガラスが頭に刺さって、血をダラダラと流して倒れている自分が映ったのだ。
「うわッ、何だコレ!」
Aは怖くなり、鏡を放り投げてしまった。
すると、床に当たった鏡は割れ、ガラスの破片が、Aの頭に飛んで来た。
丁度、十秒後だった。