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自殺屋  作者:
意義【番外編】
14/17

ハナコトバ[前編]

踊子草の花言葉。


「陽気…」

ずっと昔は、根暗な性格だった。

外に出るのも嫌いで、友達も作りたくなくて、病室生活を送らなければいけなくなったことは寧ろ、救いだったのかもしれなかった。

命は別に惜しくもなくて、でもただちょっと、家族に会えなくなるのだけが寂しかった。


きっと母さんも父さんも泣くだろう。

そう思うと、少しだけ胸が痛んだ。



「母さん、俺…死んでもいい?」

僅か十歳の言葉だった。


ただ、少し死にたくなったから。

それでも実行するのは、気が引けていたから。

母さんはそんな俺の言葉に、柔らかく笑って「だめ」と言う。


でも、知っていた。


本当は、泣く程俺の言葉に悩んでいたことを。



俺は生まれつき体が弱く、ついには病にかかってしまっていた。

もう発見したころには病気は既に体中を侵食し、治せないとのことだった。

まさに不治の病。


別に悲しくはなかったが、病気と闘うのは辛くて、精神だけが壊れていく日々が続いた。


父さんはいなかった。

別に死んでいるわけではない。

仕事でどこかに行っている。帰ってこないが、電話だけは毎日来る。

俺はずっと、毎日、それだけを楽しみに生きていたようなものだった。


優しくて頼りがいのある父、俺は父さんが大好きだった。



「アズマ」

「えッ…あ、と、父さん…?」

目を覚ますと、俺の顔を覗きこんでいたのが母さんではなく、父さんだったことに気付いた。

父さんは俺の額を大きな手で撫でると、優しく笑った。

「今日はお前にプレゼントがあるんだ」

「ぷれ、ぜんと」


わざわざ帰ってきてまで、何を持ってきたのかな。と、十二歳になった俺は思った。

昨日で十二歳、去年は誕生日プレゼントもなかった。

だから、今年もないだろうと思って―――諦めていたのに。


「う、ぇ?」

驚きのあまりに変な声を出してしまった。

父は泥だらけの手いっぱいに、小さな桃色の花がついた雑草を握っていたのだ。

この雑草、道端でよく見かけた。


なんだっけ、名前。


確か――――


「オドリコソウ…」

「おお、よく知ってたなぁ」

ははッと声を上げて笑う父が、懐かしかった。



「…ッ」

気付けば、抱きついていた。

まだ生きたいと、縋るように。


俺はこの世を捨てていたようで、まだ捨てていなかった。

捨てられていなかった。



「…ふ、ぇ…ッ」

自然と、涙が溢れた。


「あのな、アズマ」

父さんは抱きつく俺の後頭部を撫でながら、優しく言った。

「隠しても仕方がないから言う。お前は長くないそうだ」


「―――うん、知ってる」


母さんも医者も隠していたけど、知っていた。

自分の体は、自分自身がよく知っているんだ。

父さんは俺が真実を知っていることに大して驚きもせず、ゆっくりと続けた。


「でもなぁ、やっぱりお前は俺の息子として、少しでも笑ってほしいから」

「…」

「これ、持ってきたんだ」

手に持った踊子草を、俺に近付ける。

俺は父さんに抱きつくのをやめ、視線を踊子草に向けた。

小さくて、可愛らしくて、でも長らく握っていたせいか(しお)れている踊子草。


本当は知ってる。

何かを買うお金がないことを。

治りもしないこの病気の治療費に、なけなしのお金をつぎ込んで、父さんは何食わぬ顔で俺に会いに来た。


俺が死ねば、もっと裕福な暮らしができるのに。

まるで、俺に死んでほしくないように。


母さんだってそうだ。

何で二人はそんなに、優しいんだろう。


ゲームとか、漫画とかだったら、店に返品するように言おうと思っていた。

でも、よかった。

父さんのプレゼントを、踏みにじるようなことをしなくて―――よかった。


「ありがとう」

「陽気」

「え?」

「その踊子草の花言葉は、〝陽気〟なんだそうだ」


父さんは笑った。

強面な顔で、だけど優しい顔で。


「お前にピッタリだろう?」


自然と笑いが込み上げてきた。


何に?

必死にオドリコソウの価値を上げようとする父に。

捻くれた俺のことを、「陽気」と言ってくれたことに。

死ぬことが決まっているからと言って、馬鹿みたいに死を望もうとした俺自身に。


「あははッ」

「何かおかしいこと言ったか?」

「べっつにぃ?」

「?」


俺は、少しだけ変わった。

せめて、父さんや母さんが一緒に居る時は、精いっぱい笑おうと思う。

それが、こんな厄介な俺に優しくしてくれていた二人への、俺に出来る最大の親孝行。



涙はもう、出なかった。

はい、テスト前乙。

自殺屋にしては短いお話ですけど、区切りがいいんでこの辺で。

後半も続きますよー(笑)


テスト明けにもっかい更新すると思います。

凍結してしまっていたので、せめてもの償いを…!!

と、思いまして(嘘)


ただ書きたくなっちゃっただけです(笑)

次回、榊が出てきます。

では、この辺でッ(逃亡)

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