彼女の正体
今回、少し短いです。
楽しんでって下さい。
(何かもう…)
周りから固められている気がすると利央はため息をついた。
彼は今、剣を習うため、宮殿にある中庭の一つにいた。青々とした木々が目に眩しい。
ここで待つようセキバから言われ、利央はここにいた。
(それは良い。それは良かったんだが。)
利央は心の中で愚痴をこぼす。
(何でこの格好のままなんだ。)
利央は今淡い緑のワンピースを着ていた。
少なくとも帝都にいる間は女装しているようにとのセキバの指示だ。
彼女の説明では、すでに宮殿で噂になっている以上、男の姿をした(腹の立つことにセキバは<男装>をしたと言った)利央が歩き回るのは得策ではないとのことである。
理解できる説明ではある。行儀見習いにきた子爵家の孫娘が男の恰好をしていては、色々とまずかろうと利央でさえ分かる。しかし、しかしである。
(絶対、ユニテルとセキバはこの状況を楽しんでいるだけだと思うんだよなぁ。)
何度ついたか分からぬため息をまたつく利央であった。
「待たせたな。リオウ。」背後からセキバの声がした。
やっと来たかと利央が振り向くとそこにいたのはセキバではなかった。金色の髪を細くいくつかに編み上げた髪型をした幼女がいた。幼い子供特有のふっくらとした肌をしており、青い瞳は悪戯そうな光をたたえている。
彼女の背後には、白髪だろうか、銀色に輝く髪を短く刈り込み、伸ばしている後ろ髪を三つ編みにしている男性がいた。引き締まった体躯に広い肩幅。両手には一本ずつ木剣をもっていた。およそ四十から五十歳くらいに見える。
セキバを待っていた利央は、現れた二人の人物の後ろの男性に言った。
「あの僕はセキバから言われて、剣を習うためにここに来ました。藤木利央と言います。」
「フジキリオウか。私はフラジルという。君に剣を教える教師を務めさせて頂く。これからよろしく頼む。」男性はそう名乗り、利央に手にした木剣を一振り渡した。
「こやつのことはリオウと呼ぶがよいぞ。儂もそう呼んでおる。」幼女がフラジルに語りかける。その声はまるで老婆のようにしゃがれた声だ。
「…セキバ?」利央は幼女に向かって尋ねた。
「ん?そうじゃが。見て分からぬか?」
確かにセキバの声だった。利央は唖然とする。
「ああ、そうか。主に我の顔を見せるのは初めてだったのう。いつもはフードを被っておったからの。」そうじゃったそうじゃったと頷く幼女、もといセキバ。
「本当にセキバなのか。」尋ねる利央に、「本当にセキバじゃ。」と幼女は返した。なおも尋ねようとした利央に、
「さっさと稽古を始めたいのだが?
世間話しを続けるのなら、俺はもう帰るぞ。」フラジルがつっけんどんに会話に割って入った。
「ああ、悪いフラジル。さっそく始めてくれ。」
何事もなかったかのように稽古を始めるよう促すセキバを利央は呆然と見つめていた。
ちょっと短いですが、きりがよいところで。
ここで区切らないとちょっと次が長くなりそうだったので。
消化不良かもしれませんが、ご容赦下さい。